変わり続ける観光地【倉敷】

倉敷川

18:01
夕暮れの倉敷川。

この時間になると、川沿いのみやげ物店のほとんどが閉店してしまう。それに伴って、観光客もさーっと消えていく。昼間は騒がしい倉敷だけど、24時間という単位で見れば、静かな時間の方が長い。

昔は倉敷を夜になっても歩き回るということは考えにくかった。周囲に宿が少ない、というのも理由の一つだろう。しかし今やホテルは沢山あるので、「敢えて夜、静かになった倉敷川沿い」を歩くのはいい風情だと思う。

なお、毎年3月には「倉敷春宵あかり」という夜のイベントが開催されている。川沿いだけでなく、商店街のほうまで、ろうそくなどを使った和テイストの照明イベントらしい。あいにく3月にこの界隈を訪れる機会がないため、実物を見たことはない。このときは夜も賑わうそうだ。

https://www.okayama-kanko.jp/event/12875

ちなみにこの日、夜が更けてから倉敷川沿いを散歩してみたが、思わず絶句してしまう光景があった。それは、何十匹ものゴキブリが路上を這い回っていたことだ。人が近づくと、さーっと逃げていったのだけど、人生であそこまで大量のGを見たのは初めてだったのでショックだった。一体何を餌にして繁殖しているのだろう?

旅館鶴形

旅館鶴形、御食事処の「カモ井」、そして大原家の別邸だった「有隣荘」と並んでいるエリアなので、このあたりはお土産物屋などがない。

旅館鶴形は美観地区ど真ん中にある、まさに古民家の宿。このすぐ近くに「旅館くらしき」という旅館もあり双璧をなしているけど、やはりお値段はかなり高い。1泊一人あたり2万円からスタート、といったところだろうか。

値段が高いからといって、ホスピタリティが完璧というわけではない。いや、「従業員の態度が横柄だ」なんてことは全くないのだけど、どうしても古い建物を使っているため、間取りが今風ではないことをあらかじめ了解しておく必要がある。

両方とも、お泊まりで使ったことはないのだけど、法事の後の会食で利用したことはある。

鶴形とカモ井の路地

旅館鶴形とカモ井の間の路地。こういうところも味わいがある。

美観地区の道路は、アスファルトではなくコンクリート敷きになっている。アスファルトだと、景観が損なわれるのだろう。

カモ井は古くからあるお食事処で、少なくとも僕が生まれた時には既にあったと思う。店頭にはメロンソーダなどの食品サンプルがガラスケースに陳列されていて、歴史を感じさせる。

今、食べるところがいっぱいある倉敷において、わざわざこの「レトロ感あるカモ井」でご飯を食べる必然性があるのかどうか。でも、このお店の店内から眺める倉敷川の風情はなかなか乙なものだし、冬季限定の「ぬく寿司」はぜひお勧めしたい食べ物だ。

「ぬく寿司」というのは聞き慣れない料理だと思うが、「せいろ蒸しにしたちらし寿司」だと言えば理解できえるだろう。木の四角いせいろに寿司が入っていて、シャコとかエビといった具が上にみっちり乗っている。お値段は1,000円ちょっとだったはずなので、手頃だと思う。

昔は事前に電話予約をしておけば、このぬく寿司をテイクアウトすることができた(せいろは後ほど返却する)。せいろは積み重ねることができるので、人数分重ねて、風呂敷でくるんで持ち帰ったものだ。今は多分できないと思う。

白鷺

アオサギが川辺でぼんやりしている。

川を泳いでいる小ぶりの魚を狙っているのかもしれない。

岡山駅から倉敷駅まで、鉄道で移動していると、その道中イヤというほど田んぼをみることができる。岡山平野はやたらとでかい。

平野部が狭い広島に育った僕は、お隣の県がこんなに広い平野を持っていることに驚きの念を禁じ得ない。広島は平野部にギュウギュウ人が住み、あふれた人たちは周囲の山を削りまくって団地を作りまくって、そこに住んでいる。

なので、広島人的発想だと、「平野があるなら人が住む」。しかし岡山は平野が広いのと、人が少ないという両方で、広大な景色が広がっている。

これだけ土地があるのに、わざわざ海に向けて新田開発なんてやらなくても良かったのでは?と思えるが、石高が増えるにはこしたことがない。なのでガンガン開発を進めていったのだろう。

そんな田んぼのいたるところに、サギがいる。電車の車窓からでも、ほぼ必ず、見ることができる。

というのも、岡山の最狂伝説とも言える「用水路」が至るところにあるからだ。

ネットで一時期話題になったけど、岡山はやたらと用水路が多い。この美観地区周辺も、結構な水流の用水路が道路沿いに見かけることがある。

何が「最狂」なのかというと、その用水路のかなりの部分において、転落防止の柵やガードレールがないということだ。うっかりすると、転落して溺れ死ぬ。実際に、用水路に落ちて死ぬという事例が後を絶たない。毎年10人以上が用水路に落ちて死んでいる、というのだから笑い話では済まないレベルだ。

何しろ、岡山県には総延長4,000kmの用水路があり、そのうちの2,100kmが倉敷市にあるという。田んぼのあるエリアだけでなく、住宅地にも用水路が残っているので、結構危険だ。

最近、問題を認識して対策は打ち始めているようだけど、何しろ万里の長城か、というくらいの距離がある。頭が痛い問題だと思う。

興味がある方は、「岡山 用水路」で画像検索してみるといい。中には、股間がすくみ上がるくらい危険な用水路もある。

大原美術館

大原美術館。この説明は以前の倉敷旅行記でも書いたので省略。

NHK総合のTV番組「ブラタモリ」の倉敷編で、番組最後のシメがこの大原美術館分館の外壁だった。

何故か大原美術館分館の外壁は、お城の天守閣にあるような外敵除けの形になっている。石垣風の壁、「石落とし」のような構造体がある。

それを「倉敷の古く美しい町並みを守る、という決意の証ではないか」という解説でこの番組はまとめられていたけど、いやいやいや、表に回ってみるとこのギリシャ建築だぞ。これはこれで美しいのだけど、ここまでミスマッチな建物はそうそうない。

でも、浅草も浅草寺や雷門があるすぐ近くにアサヒビール本社(通称うんこビル)という個性的な建物が建っているし、見慣れればオッケーということでここはひとつ。

分館が作られたのが1961年、本館が作られたのが1930年。作られた年が違うので、景観に対する認識というのは随分変わったのだと思う。ちなみに分館は、「倉敷の伝統的寸法(通称名:クラシキスケール)」を用いるなど、過去に対する配慮や畏敬の念が強く出ている。一方本館は、「地方都市の倉敷だって、これだけの立派な美術館が作れるんだ!」という攻めの姿勢が明確に出ている。

大原家

大原美術館の川向かいが重要文化財旧大原家住宅。

昔はこの車止めの奥に車が駐車されていて、「あ、今日は大原さんご在宅なんだ」ということがわかったものだが、いつの間にか「旧大原家住宅」という名前になり、今はもう大原さんはお住まいではないようだ。2018年4月から一般公開されることになり、建物内に大幅な修復を加えたようだ。

大原家の路地裏

大原家の裏側。写真左手が大原家。

この道路の一番奥まで、ずっと邸宅になっている。奥の方は、畑もある。さすが、倉敷を代表する名家。大原孫三郎が若い頃放蕩して借金まみれになって蟄居させられた、という逸話があるけど、その借金は1億円だったという。若造で1億円の借金。ちょっと21世紀の価値観で考えてもあり得ない。でもそれだけのお金が大原家には余裕であった、ということだ。仮想通貨に手を出したか、ソシャゲでガチャを回しまくったに違いない。

なお、第二次大戦後、GHQによる農地解放政策によって小作人を雇っていた田畑は随分と失ったはずだ。大原家が不動産事業を大々的にやっているという話は聞かないので、今でも大地主、というわけではないのだろう。

ちなみにこの大原家も、一般公開に向けて財団法人有隣会に寄贈された。とはいっても、有隣会というのは大原さんの関連団体ではあるのだけど。

大原さんの別邸であった「有隣荘」は財団法人大原美術館に寄贈されている。本邸と別邸がそれぞれ別の財団法人に寄贈されたことになる。でも、両方とも大原家関連の組織ではある。

スワン

倉敷川で人気を誇っているのが、白鳥。

つがいで飼われていて、倉敷川がいきなり出現する湧出地の脇に、巣を作ってもらっている。

時々、灰色のヒナを数羽従えていてかわいいのだが、半年もすればヒナはどこかにもらわれていき、姿を消してしまう。見ていてちょっと切ない。

昔は美観地区の隅から隅まで自由に移動ができたのだけど、川舟の往来が始まったからか、白鳥が移動できる範囲がかなり狭くなってしまった。橋の下にネットが据えられ、白鳥が橋をくぐり抜けられないようになっている。

ヒナがいた頃は、「餌を与えないでください」という警告が出ていた。観光客がきゃーきゃーいってパンとかせんべいを与えたがるのだけど、ヒナがうっかりそれを口にして喉を詰まらせる恐れがあったからだ。

ドーミーイン倉敷

これにて美観地区観光はおわり。ホテルに戻ろう。

写真正面の、無機質な白い建物がドーミーイン倉敷。景観条例があるからだろう、美観地区側からは看板が見えないように工夫されている。

商店街ルートが随分観光客に認知されたとはいえ、相変わらず美観地区観光の入り口はこの交差点がメインだ。週末になると、大勢の観光客がこの道路を行き交う。

そんな観光客を狙って、最近は人力車がこのあたりにも客待ちをするようになった。昔は美観地区の中央ともいえる倉敷考古館の前が定番の位置だったのだけど、より早い段階でお客さんを勧誘しようということなのだろう。

人力車は、1名から3名くらいが乗ることができ、観光ガイドをしてもらえる。時間がない人向けとして15分くらいのミニコースがあるし、余裕があるならば2時間くらいかけてぐるっと見て回ることができる。

若いお兄ちゃんが車を引っ張っている。見慣れない顔だな、と思ったら、「以前は嵐山で車を引っ張っていました」と言っていた。いつの間にか、観光地における人力車ってチェーン展開していたのだった。京都も、鎌倉も、宮島も、浅草も、全部同じ会社だ。

そんなわけで、「昔からこの地で生まれ育った人」によるガイドではない、ということは要注意だ。人力車の会社を批判する気はないけど、間違った紹介をしているのを見聞きしてしまうと、「いや、それは・・・」と苦笑いしてしまう。まあ、細かい部分なので、倉敷の歴史がひっくり返ってしまうような間違いではない。観光客は気にしなくて大丈夫。おそらく、リップサービスの範疇だ。

ホテルの脱衣場

ホテルに一度戻り、風呂に入る。

ドーミーイン倉敷は、「阿智の湯」を名乗っている。このホテルがオープンした際、こんなところにも温泉が湧くのか!と仰天したものだ。ボーリングしてみるものだなあ、と感心させられた。なにしろ、新田開発が進む江戸時代までは、このあたりは海だったのだから。

窓からの眺め

ドーミーイン倉敷から美観地区を見下ろしたところ。

正面に林源十郎商店の茶色い建物があり、目立つ。いいのか?白壁でなくても。

倉敷の景観条例は古くからあるけど、案外ゆるいのかもしれない。

手前のファミリーマートは、特に看板を地味な色にすることなく、普通の「緑、白、青」のロゴを使っているし。

大体、遠くにそびえ立つ倉敷市役所が、シンデレラ城みたいな形をしている。一体どういう美観意識があるのか、謎な自治体だ。

正面に見える小さな山が鶴形山で、以前僕は「倉敷八十八カ所巡り」でこの山をさんざん歩き回ったものだ。

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山には阿智神社という歴史ある神社がある。この例大祭が毎年秋に行われるのだけど、そこに「素隠居(すいんきょ)」と呼ばれるおじいさんとおばあさんのお面をかぶった人が登場する。らっきょうのような形をした独特な顔で、愛嬌がある。この素隠居が大きなうちわを持っていて、そのうちわで叩かれたら無病息災になるのだという。ただし老婆・老爺にうちわで叩かれるので、小さな子供は泣くこともある。岡山県版「なまはげ」だ。

なまはげがあれだけ有名なのに、この素隠居が全然知られていないのは本当にもったいないと思う。倉敷は変なゆるキャラを推したりしないで、素直にこの素隠居をマスコットキャラにすれば良いと思う。ほっといても、ユルい。

もともと、阿智神社のお祭りに出られなくなった人が、代わりに自分の顔を模したお面を若い衆につけさせ、お祭りに代理出席させたといういわれがある。元禄5年、戎町の沢屋善兵衛なる人物によるものだ。こういう「出自がはっきりしている」伝統行事というのは面白い。さすがに元禄ともなると、記録がちゃんと残っているのだな。

素隠居は例大祭以外にも、時折出没するようだ。じじばば一対ではなく、何人もいることがある。何人もの素隠居が川舟観光を楽しんでいて、川岸の観光客から「じじい、仕事しろ!」とヤジを飛ばされたという話も聞いたことがある。

縁起が良い存在なので、もし見かけることがあったらうちわで叩いてもらおう。

泉質

阿智の湯の泉質。カルシウム-ナトリウム-塩化物泉。まあ、想像通りだ。

源泉温度は21.7度なので、加温しないとさすがに入れない。地下深くボーリングすれば熱湯が出る、というほど簡単なものではないということだ。

大浴場

風呂場。

あまり広くはないけど、宿泊中朝晩何度か入浴した際に混雑して困った、ということはなかった。

内風呂

内湯。

露天風呂もある。

女湯

女湯は、わざわざ暗証番号式のロックが施されている。うっかりガラッと開けられて「キャー、のび太さんのエチー!」となることはない。

ただし、暗証番号の存在に気づかず、カップルでお風呂に行って、彼氏が鍵を持った状態で「じゃ、1時間後ね」と別れたら・・・風呂に入れないまま、外で待ちぼうけを食らうことになる。気をつけなくては。

(その場合、フロントに電話をすれば番号を教えてくれる。そのために暗証番号キーの脇に内線が設置されている)

(つづく)

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