16:33
チェックインを済ませ、部屋に通じる廊下を歩く。
廊下ひとつとっても、味わいがある。この旅館は綺麗にされているけれど、あちこちに「昭和の雰囲気」を感じさせてくれる。
たとえば、部屋の扉の頭上にある照明。
「入ってますよ」という時にランプを灯し、「いません」という時にランプを消す・・・のだろうか?このランプの電源は、部屋の中にある。宿泊客が任意で点けたり消したりすることができる。
時々こういう宿を見かけるけど、決まって「歴史ある宿」だ。そして、この「入ってますランプ」の使い方については、室内にある館内案内を読んでもどこにも書かれていない。
ひょっとしたら、掃除をする人向けのものだったりするのだろうか?「この部屋、もう清掃終わりました」という合図だったり?
部屋。
青々とした8畳間。
窓際の椅子は、向かい合わせではなく室内を向いている。何かこれは旅館業界の新しいトレンドなのだろうか?と一瞬勘ぐったが、単に窓側にある洗面台との兼ね合いで、向かい合わせにする場所の余裕がなかったからだろう。
なのでこの椅子は、「外の風景を楽しむ」ためのものではない。あくまでも室内を眺めるため、のものだ。
お茶請けは「あいづ桜」。
床の間と、ハンガーラックなど。
押し入れの下に冷蔵庫があるという構造。
なんでわし、こんなに室内を写真撮影しまくっているんだ?
きっと嬉しかったんだろうな、やっぱり福島県って「東北地方」だもの。遠くまでやってきた!という感じがすっげえする。そして明日も、喜多方だの会津若松だのといった土地の観光で、馴染みの薄い場所をウロウロする。そんなわけでテンションが上がってしまったのだろう。
ヒュウ、コイツ、なんのありがたみもないトイレまで写真を撮ってやがるぜ!とんだ淫乱野郎だ!
「淫乱野郎」というより、単に「混乱野郎」なだけだ。取り乱しまくっている。
多分、これが「群馬県の温泉地」みたいな関東エリアを訪れたのだとしたら、ここまで館内の写真を熱心には撮っていなかっただろうな。
窓の外の景色(1)。
朝日屋旅館、という3階建ての建物が見える。
窓の外の景色(2)。
正面に安達太良山が見えるけど、半分雲に隠れていた。あの山腹に、中ノ湯の源泉である沼尻元湯がある。
ここからでも、山の中腹が火山性ガスなどの影響で山肌むき出しになっているのがうっすら見える。
部屋の中に、「中ノ沢温泉ラーメン 小西食堂」というお店のメニューが置いてあった。どうやら、出前ができるらしい。この宿は素泊まりや1泊朝食のみのプランがあるので、お食事のあてがない方はぜひどうぞ、というわけだ。
僕は、「宿メシは何が出てくるかわからないワクワク感も含めて、最大のご馳走」だと思っている。なので、基本的に2食付きの宿に泊まることがほとんどだ。なので、ここでカレーライスを頼む、なんて自分の姿はちょっと想像ができない。
温泉宿で素泊まりにすると、数千円単位で宿代が下がる。なので、安く旅館に泊まるには素泊まりを選ぶのはアリだと思う。しかし、ここで出前を頼んでしまうと、案外高くついちゃうので気をつけないといけない。「宿に着く前にスーパーで買いだしをするか、どこか手頃なところで夕食を食べよう」と思っていたけどお店を見つけられず、あれよあれよと宿に到着しちゃった・・・!という時向けか。
おすすめメニューが写真入りで紹介されていて、チェックイン後のまったりした時間の暇つぶしにちょうどいい。自分で頼むことはないけれど、こういう出前メニューを見るのって楽しいよな。「ほう、こういうメニュー構成なのか」「えっ、これでその値段?」みたいな発見が沢山ある。
辛い物が好きな僕なんかは、「地獄ラーメン」についつい目がいってしまう。だって、「~辛党のお客様必見!!必食!!」ってキャッチコピーがついているんだもの。
「辛党のリピーター急増中の売れ筋メニューです!!」
だって。リピーターになるためには、まず中ノ沢温泉そのものを何度もリピートしなくちゃいけないな。
あ、さっき宿の近くで見かけた天ぷらまんじゅうのお店だ。「日乃出屋」というらしい。
普通の温泉まんじゅうも売っているけれど、天ぷらまんじゅうもある。
ちょっとギョッとする甘味ではある。ただでさえカロリーが高いまんじゅうなのに、それを油で揚げるんだから。
「自分へのお土産」と称して、一人暮らしの自家消費用として一箱買うのは危険だな。「早く食べないと、油が回っちゃう!」とかいって、旅行から帰ったその日の晩、次の日の昼くらいに食べきるペースだと確実に太る。
お。沼尻元湯の写真がある。
「当旅館の源泉」という矢印がつけられている。
「温度71.8度、自然湧出毎分10,000リットル」と書いてある。なんちゅー源泉だ。
さすがに平澤屋オリジナルというわけではなく、中ノ沢温泉及び沼尻温泉全体の引き湯用の源泉だと思う。一つの旅館に毎分10,000リットルも供給されても困る。
それにしても、偉大なる湧出量だ。ポンプで地下深くから汲み上げているわけでなく、勝手に温泉がダバダバ湧いているんだから恐れ入る。しかも71.8度!これが沸騰寸前の温度だったら若干面倒くさいけど、71.8度だったら引き湯をしている間に湯温をある程度下がって、風呂場で加水をほとんどしなくて大丈夫な湯温になるはずだ。なんてぇ人間に都合がいいんだ。
写真の下に書いてある注意書きで、「本来温泉は黄白色だけど、当館は無色透明のお湯です」と書いてある。温泉に詳しくない人は「なんだ、濁り湯じゃないのか。つまらん」と思うだろうけど、わかる人にはわかる。つまり、お湯をガンガン入れ替えているので、お湯がフレッシュですよ、ということだ。
硫黄泉で白濁したお湯、とか、鉄泉で赤茶色のお湯、というのは、温泉成分が空気に触れて酸化することによって起きる化学反応だ。なので、お湯が空気に触れる時間が長ければ長いほど、濁り湯になる。つまり、「濁り湯のはずなんだけど、濁ってないお湯」というのは、とっても良いお知らせだ。
女性専用の檜の露天風呂もあるよ、という解説。
まるで足湯のような細長い湯船だけど、女性専用で用意されている。男性専用の露天風呂はなく、混浴露天風呂を利用することになる。
この女性専用露天風呂からそのままするっと混浴露天風呂に出入りすることができると書いてある。なので、「混浴露天風呂に彼氏と一緒に入ろうとしたけど、男性がウジャウジャいるのでやっぱやーめた」といって女性専用に籠もる、ということが臨機応変にできる。
その混浴露天風呂だけど、中ノ沢温泉に唯一の混浴だという。
どんどん規制が厳しくなってきて、混浴風呂が少なくなってきている。そのため、数少ない混浴が「特殊な空間」という印象になってしまい、女性の裸目的の男性がやってくるようになったり、そうでない男性も女性と一緒になったときの「目のやり場」とか「さりげない雰囲気」の演出が下手になってしまっている。
昔東北旅行の際に、非常におおらかに男性も女性も混浴風呂を使っていて感心したことがある。土地に混浴が根付いているからだろう。しかし、その東北でさえ、東北新幹線開通とともに「混浴の心得がない人達」が沢山やってくるようになり、混浴文化が随分歪んできていると聞く。
もっとさりげなく、あっちこっちに混浴があるといいんだけどなあ。エロい目的はまったくなく、そういう「おおらかな空間」が失われていく、というのが単純に惜しい。でももう無理なんだろうな。今後、加速をつけて混浴は失われていくのだろう。
(つづく)
コメント