10:37
これを「登山道」と呼ぶのはあんまりだ。どう見ても「遊歩道」。なんなら「森の小路」とでも名づけようか。そんなのどかな、なだらかな道を歩いていく。
登山につきもののストイックさは皆無だ。俗だ、俗にまみれている。
そりゃそうだ、ケーブルカーとロープウェーが完備されている山だぞ?一つの山に二つの交通手段(車除く)があるなんて、日本国内でもそんなに多くはない。せいぜい高尾山くらいだろうか?これ以上俗っぽい山なんてあるものか。
山に登ったからといってすがすがしいわけではない。かといって、今の体力だとこれ以上キツいところにいくのはごめんだ。楽な山を選んだ結果、俗っぽくなるのは当然のことだ。
でもその分、いつでもリタイアできるし、下山できるという余裕がある。そういえば、今の登山は水だけを持参していて、お昼ごはんはおろか、非常食・行動食になるものすら用意していない。山をナメるにもほどがある。
10:38
筑波山の繁華街ともいえる広場に出てきた。男体山、女体山の間にある峠の部分が切り開かれ、茶店が軒を連ねる。御幸ヶ原、という。正面に男体山の山頂がよく見える。
ここにくれば、自販機だってあるし、メシを食べたりできる。生ビールを飲むことだってできる。「登山」目的でない人も、余裕な場所だ。
この山にはたちの悪い猿などいないのだろうか?のどかに、茶店は大きく間口を広げている。
旧ユースホステル跡地、と書かれた行き先看板が出ている。調べてみたら、筑波山の北側に「筑波山荘ユースホステル」という宿泊施設があったらしい。東日本大震災を機に廃業してしまった模様。
筑波山の北側から山頂に向けてアプローチするって、なんかかっこいいよな。俗じゃないよな。
茶店の店頭にあった黒看板メニュー。
カレー800円、牛丼850円・・・とメニューが連なる。売られているのは、ごくごくありきたりな、この手の簡易な食事を提供するお店にありがちなもの。
値段は高い。あまりに開けた場所なので油断してしまうが、この値段を見た瞬間にここが山の上であることに気が付く。あ、そうだった、荷物は全部ケーブルカーで運び上げないといけないんだった。ケーブルカー駅から先は人力だ。車なんてものはない。
茶店の店頭に、「つくば湯」の割引券が置いてあった。
山から下りてきた暁には、是非とも風呂に入りたいものだ。さっぱりするし、自分へのご褒美だし、何よりも帰宅途中の電車で、周囲に汗臭いにおいをばらまかないためのエチケットだ。
とはいえ、割引券を見て「うーん」と唸ってしまった。高い。100円引きの券だけど、もともとの値段が土日価格で1,300円。焼け石に水とはこのことだ。温泉だけに。
さすが山の上の価格!と思ったが、待て待て、この温泉は山の中腹だ。関係ない。
とりあえず態度保留にして、下山したあとに決めることにした。
つくばうどん/そばが売られている。どの茶店もこのメニューで競い合っている状態。
安ければ、旅の思い出に「つくばうどん」を食べてみたいのだが、さすがに950円というのははばかられた。これで絶品であるというのが保証されているならまだしも、よくわからない状態でホイホイと950円は出せない。
お土産物屋よろしくいろいろなものが売られている茶店。がまの油だって売っているし、オールドスタイルな土産物屋の定番、「木刀」も売っている。僕はこの「土産物屋で木刀を買う心境」というのがさっぱりわからない。
でも、知り合いで剣道をやっている人に木刀の話を持ちかけたら、えらくアツく木刀の素晴らしさについて語られた。重たい剣で素振りをすれば鍛えられるとか軸がぶれないとかなんとか。いやいやいや、木刀が素晴らしいのは大変結構なんですが、僕が知りたいのは「なんで旅先の土産物屋で買うの?」ってことであって。
さあ、ここでおかでん名人長考に入りました。
目線の片隅には、常にちらりちらりと「ケーブルカー乗り場」の看板。正直、かなりかったるい。「疲れた」というよりも、ただただ、「かったるい」。面倒臭くて、これから先は楽してもいいじゃないかと思えてきた。
筑波山最高峰である女体山には登ったわけだしー。帰りケーブルカーでもいいよね?
いいともー
一人で勝手に合点するのだが、そうはいってもさすがにここで男体山に登らないのは恥ずかしい。意地とプライドをかけて、断固男体山に登らなくては!
おお、なんてかっこいいんだ、オレ。
こうしておかでんは山頂まで徒歩15分という高難度の道へと踏み出していったのだった。
大げさな。
本当は、男体山をぐるっと一週できる「筑波山自然研究路」も歩くつもりだった。一周60分。しかし、途中で通行止めになっている場所があり、迂回が必要だ・・・という警告があったので、「通行止めならしょうがないなあ」と肩を大きくすくめ、この道を歩くのはやめにした。「迂回すれば一周できる」という事実は見なかったことにする。
10:43
女体山山頂へ通じる道。
別に「筑波山最高峰」にこだわりがない大勢の観光客は、筑波山神社参拝、その後ケーブルカー、そして御幸ヶ原から女体山山頂を目指すのだろう。実際、前回この地を訪れた僕がそうだった。
そんなわけで、女体山に通じる道はとてもよく整備されていた。
10:45
山頂にむけ、きつい坂を登る。ハアハア、ハアハア。みるみる息が荒くなってきているのが手に取るようにわかる。頑張れ、オレ。ドクンドクンいう心臓の鼓動に励まされながら、一歩、また一歩と前へと進んでいく。空気が若干薄くなってきたようだ。いつもよりも苦しい・・・
やめろやめろ、低い山なんだかそんな馬鹿な。
10:46
登っていく。御幸ヶ原からはシンプルに標高を稼ぐだけだ。アップダウンとかつづら折れといった仕掛けはない。
10:51
山頂直下の石段。あともう少しだ。これを登れば、いよいよ夢にまでみた山頂にッ・・・
無理矢理自分を鼓舞するのはやめろ。かったるいからって、無理がありすぎる。
コメント