「鹿澤館」のチェックインを済ませ、部屋に向かう。
ロビーを通り過ぎると、廊下がT字型になっていた。右に曲がれば、客室がある二階。
幅広の廊下だ。昔、ここを大勢のお客さんが行き来した名残なのだろう。
今は空間を持て余してしまって、円卓が廊下の真ん中に据え付けられている。あと、窓側には電子レンジも置いてある。夕食を持ち込んだお客さんが、ここで料理を温めるためのものだろう。
ここにやってくるお客さんは100%車だと思うけど、いくら車があってもコンビニまではかなり遠い。「何か飲みたいな」と思った時の命綱は、この自動販売機だ。
お酒は、一番搾りの350ml缶ビールだけ。しかも、殆どが売り切れランプ点灯となっている。
さすがにこの宿だと、自販機を全部埋め尽くすほど商品数はいらないし、在庫も沢山持つわけにはいかない。
ビールが350円。500mlペットボトルのジュースが160円。
7月16日だというのに、気温はかなり冷涼だ。夕方とはいえ、21度しかなかった。
東京都内だと、ぐったりするくらいの猛暑だったのに。
これだけの涼しさと、朝夕霧が立ちこめる土地柄だからこそ、キャベツがよく育つのだろう。
それにしても、もし冬の間ここに泊まろうと思うと、相当寒そうだ。なにせ、建物全体がだだっ広い。
右に曲がれば本館客室、大広間、食堂。
左に曲がれば大浴場のコマクサの湯、そして「三山荘」と「高原荘」という別館があるようだ。
僕らは右へ。
よく見ると、窓の桟の形が独特だ。100年前のオランダのデザインムーブメント「デ・ステイル」のような形をしていて、それぞれの枠ごとにはめられているガラスの種類が違う。これはお金が掛かっている。うかつに割れたら、補修するのにとてもお金がかかるシロモノだ。
今はどうかわからないけど、少なくとも昔は大変に繁盛した宿だったに違いない。なにせこの建物だ、「爪に火を灯すように貧乏を重ねて、ようやく建てました」という話は絶対にない。
左手に、二階に上がる階段がある。そして、階段右脇の奥には「食堂」の看板が出ているのが見えるが、ついたてが邪魔をして食堂には入れないようになっていた。明日の朝ご飯はあの食堂で食べることができるのだろうか?
重厚な建物の雰囲気にドギマギしながら、階段をあがる。
この階段の横幅を見てよ!これだけの幅を確保しているって、学校の校舎じゃないんだから。ずいぶん立派な、豪華な空間の使い方をしている。
二階に上がって、各客室に通じる廊下に枝分かれすると、途端に廊下の幅が狭くなる。
何から何までデカく建物を作りました、というわけではない、ということだ。
ということは、やっぱりあの廊下と階段は、「それくらい広くしないと、人の移動の支障になる」と思って横幅を広げたに違いない。なんてこった。すげえ繁盛していたんじゃないか、この宿。
一方2016年の今日はというと、7月の週末なのに、人の気配が全くない。ゼロだ。
不思議な場所にやってきたものだ。
指定された部屋、「はぎ」に入る。
左右に部屋があり、角部屋ではない。なので、ひょっとしたら両隣にも宿泊客がいるのでは・・・?と思ったが、誰もいないようだった。気配が全くない。
「はぎ」の部屋に入る。
まず最初に、2畳分の取次の間。
そこから先、8畳の客間。
既に布団は出してあった。布団を敷くのはセルフサービス。
室内の装備など。
冷蔵庫はない。真夏の宿泊で、夕食はどこかのスーパーでお刺身を買ってきたよ!これで夜は宴会だよ!と思っている人は注意。
当たり前だけど、風呂トイレは別。洗面台は、窓際にある。
窓はサッシになっていないので、冬は冷気の侵入が厳しそうだ。そのせいもあって、足元のガラス部分にはプチプチが貼ってあって、冷気止めの役割を果たしていた。
部屋全体は、ほこりの臭いが強い。普段あまり使われていない部屋なのかもしれない。クローゼット内に置いてあった半纏の上には、ほこりが積もっていた。
僕はハウスダストでアレルギー性鼻炎が出やすいのだけど、この部屋でくしゃみが止まらなくなる、といった事態にはならなかった。なので、掃除が不行き届きというわけではなさそうだが、とにかくほこりっぽい臭いがずっとするのには参った。
(つづく)
コメント