08:44
秩父鉄道の終着駅、「三峰口駅」に到着した。
ここに何か観光施設があるわけではない。大きな集落があるわけでもない。その名のとおり、この奥にある三峯神社の玄関口として存在する駅だ。玄関口、といっても三峯神社へはここからバスに乗り、さらにロープウェーに乗り換えないといけない(直行便も少ないながら存在するが)
当初、秩父鉄道はこのまま延伸して雁坂峠を越え、甲州の塩山まで続く予定があったらしい。しかし、道中あまりに山奥なので、さすがに利益が見込めないと踏んだのだろう。その計画は頓挫してしまった。
そもそも、雁坂峠は国道140号線が途中で南北で途絶えている「階段国道」として名高かったが、6.6キロのトンネルを掘り進め、ようやく開通したのが1998年だ。それくらい、開発が後手になる山奥なのが奥秩父の最深部のこのエリア。その分、自然が多く残されていて、このあたりを散策していると本当に楽しい。御花畑駅から三峰口駅までの間、電車は荒川沿いに進んでいくのだけど、沿線の景色ものどかでうれしくなってくる。おすすめだ。
三峰口駅の改札を出たら、目の前がこんな感じ。がらん・・・としている。国道140号線が通っているが、そこまでビュンビュン往来が激しい道ではない。週末の朝、ゆったりとした時間が流れている。
コンビニのようなガチャガチャしたものは一切ない。駅舎に売店もない。むしろそういう空間が、自分の心に落ち着きをもたらしてくれる。
三峰口駅の駅舎。平屋建ての、木造建築。瓦屋根で、風情がある。
ここは終着駅ということもあって、「秩父鉄道車両公園」という一角がある。古い鉄道車両が野ざらしで展示されている。
駅改札出て道路を挟んだ正面が、西武バスのバス停になっている。三峯神社方面に向かうバスの発着場だ。
しかし今回僕が乗るのは、小鹿野町営バス。乗り場がどうやら違うようだ。
広くはない駅周辺なので、探せばすぐに見つかるだろう・・・と周囲を見渡したら、あった。駅改札出て右手、駐車場があるあたりにバス停留所があった。
おや、その脇には「関東地方最大級ダリア園」の捨て看板が立てかけられている。小鹿野で、ダリア園があるというのは知らなかった。ちょうど9月の今、満開なのだろうか。
駅前に、お食事どころが2軒並んでいる。
左側のお店は、「まいたけ天丼」の張り紙がある。右側のお店は、「勝丼」「カレーライス」と言った文字が見える。三峯神社参りの前後などに立ち寄るのに最適だ。なにしろ、バスも鉄道も、便数が少ないのでここで待ち時間が発生する。
三峰口駅界隈の地図。神社とお寺の記述が多い。特にこれといった観光名所がない、ということの裏返しだ。
しかし、ここ秩父においてはお寺というのが信仰の対象であると同時に、観光の対象ともなっている。「秩父三十四観音霊場巡り」というのがあって、秩父全域に札所がある。全てお参りして、約100km。歩くもよし、車もよし、自転車もよしのちょうどいいサイズ感だ。いずれ僕もこの観音霊場めぐりはやってみたいと思っている。レンタサイクルで、泊まりは秩父市街の旅館でも確保すれば数日で結願できそうだ。
さて、これから乗車する小鹿野町営バスだが、もともと小鹿野という土地がかなりの山奥であり、便数はとても少ない。三峰口を起点とするバスは、一日で9便。そのうち、両神山の登山口である日向大谷口行きのバスは4便。午後の便に乗って登山開始、というのはたとえ山中山小屋泊であっても無理なので、実質登山客が使えるのは午前中の2便のみだ。
さらに言うと、10:40の便だと、登山開始が昼になってしまう。往復7時間かかる両神山を日帰り往復することは無理なので、実用的ではない。つまり、まもなくやってくる08:55の便一本しか使える便がない、ということになる。
マイカーを持っていない人が登山をする場合、こういうところですごく頭を使うことになる。推理小説のアリバイを組み立てるように、いろいろな交通機関の時刻表を見比べ、作戦を立てていかないといけない。でも、それがむしろ楽しかったりもする。
とはいえ、登山でよくあるのが、「早く下山しないと、帰りのバスや電車に乗れなくなってしまう!」とあわてて、滑落して遭難するパターン。マイカーだったらそんなにあわてなくてもいいのに。公共交通機関利用だからこそ、登山の危険度が増す場合がある皮肉。
小鹿野町営バスからのお知らせ。
町営バスは小型バス(28人乗り)を使用しているため、利用者が多い場合、ご乗車出来ない場合があります。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、次の時間のバスまたは、他の公共交通機関のご利用をお願いいたします。
28人乗り、ということなので、マイクロバスのような車両なのだろう。それはまあ、ローカル路線のバスなのでそのとおりだと思う。しかし、「乗れなかった場合は次のバスまたは別の公共交通機関を使え」というのはすごい。実際、乗れないんだからしょうがないんだけど、だとしても「次のバス」が数時間後だったり、翌日だったりするわけですがそれはどうすればいいの。あと、「別の公共交通機関」なんて存在しないんですが。タクシーに乗ってくれ、ということなんだろうな。
山間部の集落を走るバスなので、通常であれば28人も乗ってしまうことはないはずだ。でも、団体登山客が何組かやってきたら、とたんに28席はプラチナシートとなり争奪戦となる。乗れるか・乗れないかの差は天と地ほどある。気をつけないと。
一方三峯神社方面のバス乗り場は、大勢のバス待ち客でにぎわっていた。こちらはノーマルサイズのバス車両がやってくるので、少々お客さんが多くても大丈夫。
08:50
「限定・先着28名様」の小鹿野町営バス、日向大谷口行きがやってきた。
もちろん僕は一番乗りだ、絶対に乗りそびれるということはない。
幸い、僕の後ろに並んだ人たちの間で「おい、お前29人目だろう、諦めろ」などと小競り合いが始まるといったことはなかった。せいぜいこのバス停から乗車したのは、6~7名だっただろうか?
バス内にあった、小鹿野町営バスの路線図。
小鹿野町営バスは、道の駅でもある「薬師の湯」を中央として、Ⅹ字型に路線が伸びている。
僕が今乗っているバスは、路線図下「荒川地区ゾーン」の末端から、「町内ゾーン」左上の末端に向かっていく路線だ。薬師の湯で、各方面行きのバスに乗り換えることができる。
路線図右下に長く伸びている路線は「白井差口」行き。昔は、ここから両神山山頂を目指す人が多い、メインルートだった。しかし、地権者と行政が揉めて、解決しなかったために今や白井差ルートは廃道になってしまっている。地権者が登山道整備など貢献してきたのに、行政側がそのサポートをしなかったことや相続税問題とかでトラブルになり、地権者が登山道を封鎖したと聞いている。一時、山岳雑誌などでこの騒動はよく取り上げられる話題だった。
バスの料金体系は距離に応じてではなく、「ゾーン」単位になっていて独特だ。たとえば、三峰口駅から日向大谷に行く場合、「荒川地区ゾーン」200円+「町内ゾーン」200円の合計、400円が運賃になる。薬師の湯で乗り換えて、西武秩父を目指した場合、「荒川地区ゾーン」200円+「町内ゾーン」200円+「秩父市内ゾーン」300円=700円になる。
こういうざっくりした料金体系なのは、町民の利便性確保のために運営している町営バスならではなのだろう。
09:16
バスは三峰口から北を目指す。
20分ほど進んだところで、このあたりのランドマークである「両神温泉薬師の湯」が見えてきた。ここには、2000年に登山帰りに立ち寄り、風呂に入って蕎麦を食べた記憶がある。
かれこれ16年前。
この薬師の湯が小鹿野町営バスの路線の要として機能しているので、バス停もちゃんとしている。薬師の湯駐車場の隅っこに、各方面行きのバス停がまとめられた、バスターミナル風のスペースが確保されていた。おお、なんかすごく栄えているような気がする。
薬師の湯で結構な人が乗り込んできた。10人以上乗ってきたと思う。全員、登山の格好をしている。
時間的に「薬師の湯で朝風呂浴びてましたー」というわけではないので、西武秩父から薬師の湯までやってきて、ここでバスに乗り換えたのだろう。
この段階で、バスはほぼいっぱい。登山のハイシーズンなら、三峰口から乗ったほうが「乗れなくてあぶれる」心配をしなくて済みそうだ。
満杯の客を詰め、バスはさらに山奥を目指す。道路沿いの民家がどんどん減っていくのに、客は鈴なりという不思議な構図。
途中、ダリア園に停車。ここで下車するお客さんもある程度はいた。
あれが「関東地方最大」のダリア園なのか。ボンボンのように丸いダリアが、ぴょこぴょこと見える。折角だから見ていきたいけど、登山と両立させるわけにはいかないので断念。
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