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眼下に、三角屋根の建物が見える。あれが大浴場らしい。
このホテルは、箒川と呼ばれる川沿いの崖の上に建っているので、あのあたりは「地下二階」という扱いだ。地上だけど。あくまでもフロントから見て、相対的に「地下」ということになるわけだ。
そして、視線をそのまま右にずらしていくと・・・。
格安宿とは思えない広大な庭と、独立した建物からなる離れが並ぶ。
この離れ、VIPむけのスイートルームなのかと思ったらさにあらず。これ、貸し切り風呂なのだった。
しかもこの貸し切り風呂、宿泊客は40分間無料で利用できるんだってよ(フロントで要予約)。すげえな、そんな贅沢、許しちゃっていいのか?
まだ中を見たわけじゃないけど、上空から見ただけで「あっ、これは贅沢なヤツや」ってわかるレベルの貸し切り風呂。こんなん、有料にしたってバチは当たらない。なんで無料サービスにしちゃうかね。
おそらく、あれやこれやオプションにして追加料金が発生すると、チェックアウト時のお会計とか本社側の会計処理とか、あれこれ面倒だという判断なのだろう。ちまちま小銭を稼がないで、みんな均一料金にしちゃった方が何かとラク、ということで無料にしちゃったっぽい。判断が大胆だ。
最初っから格安宿として設計された旅館なら、こんなものは作らない。これもまた、経営の方針転換があったからこその「ほつれ」というか、「お得さ」だ。
部屋に戻る。
冷蔵庫を開けてみたら、昭和時代そのまんまの冷蔵庫が置いてあった。
さすがにそろそろ、この手の客室冷蔵庫は「遺産」のレベルにさしかかりつつある。久し振りに見た。
ただこれは、冷蔵庫にストックされているドリンクを引き抜くと、その分がフロントに伝わり、チェックアウト時にご精算・・・という仕組みにはなっていないようだ。今となっては、どうぞご自由に飲み物を持ち込んで、冷やして下さい、という扱いになっている。
昔の名残として、冷蔵庫の扉にロックがかかるようになっている。精算の都合上、この手の冷蔵庫って朝8時くらいになると遠隔操作で扉がロックされてしまうんだよな。これ以上飲み物は飲ませませんよ、もう精算伝票をフロントで作っちゃいますからね、というわけだ。今考えるとハイテクだな、遠隔操作で冷蔵庫の扉をロックできるなんて。
これ、技術を応用すれば「病的なデブが住んでいる家に遠隔冷蔵庫ロック機能を取り付けて、医者の許可がない限り冷蔵庫が開かない」という仕組みを導入できるよな。いや、でもダメか、そうしたらデブは冷蔵庫に食べ物をいれなくなるだけだ。
あと、医者とはいえ、人んちの冷蔵庫の開閉する権利があるのかどうか。それって基本的人権の侵害ではないのか。いや、冷蔵庫ごときで人権もへったくれもあるのか。
いろいろ考えてしまう。
ユニットバス。
部屋の年季の入り方と明らかに違うので、後付けなのだろう。その結果、この部屋には洗面台が二つあるという不思議な造りになっている。
当初、このユニットバスの入口で、連れが困り果てた顔をして立ち尽くしていた。扉が開かないのだ、という。
取っ手をガチャガチャやってみたら、確かに開かない。ロックがかかってしまっていた。
コインだったか何だったかを使って、ようやく開ける。
ユニットバスの扉の内側。
安いユニットバスらしく、取っ手にしろ鍵の部分にしろ、ものすごーくチープな造りになっている。そのせいで、うっかり鍵のレバーが動いて、扉が開かなくなってしまったらしい。
安宿とはいえ、ちゃんとお茶はある。温泉饅頭も置いてあった。「田舎まんじゅう 田吾作」と饅頭には書いてあった。
面白いもので、こういうのはセルフにしたり省略したりしないのだな。温泉宿たるもの、お茶とお茶請けくらいは置いて当然、という発想があるらしい。
「お茶が欲しい人は自分で給茶セットをフロントから持っていってください」
とか、
「お茶は部屋に置いてますが、お茶請けは省略しています。ご了承ください」
というのでも全然構わないと思うんだけどな。
温泉旅館として、どこまでやったら「コスト削減しすぎで客から反発を受ける」のか、どこまでが「セーフ」なのか、線引きっていうのはすごく難しい。
画一のサイズの部屋が、ずらりと並ぶ。
エレベーター脇の427号室だけが、サイズが違う。このサイズだと、トイレすらないように見えるのだけどどうなっているんだろう。一人向けの部屋だろうか。
宿泊案内が1ページで収まっているという、たいへんに潔い作り。
夕食と朝食の時間になったら、館内放送で呼び出しがあるのだという。学生時代の林間学校みたいだ。
便利なサービスとも言えるが、おそらく「とっとと食堂にやってきて食え」という意味も込められているのだろう。ダラダラ食べられると、宿側が困る。
温泉の効能が書かれた表。
いろいろ書いてあるけど、たぶん・・・この宿の温泉は、網掛けされた部分の効果が期待できるんだろうな。何もそれについて解説がないけれど。
「いや、網掛けに意味はないですよ?単に、たまたま網掛けになっているだけですよ?」
という詐欺師みたいなことはさすがにあるまい。
それによると、「潤う」「温める」「引き締め」の効果が期待できそうだ。やったね!(棒読み)
廊下側から見た景色。箒川が眼下に見える。
・・・と、あれ?川沿いの駐車場に、水色の「湯けむり号」が停車している。あそこがバスのたまり場になっているのだろうか。あとであっちに行ってみる予定なので、確認してみよう。
(つづく)
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