14:14
日光そばまつりの会場を後にする。
お腹いっぱいになった時、それがそばまつりの終了時間だ。そばまつり会場は食欲に支配された場所で、くつろいだり横になったりする場所ではない。そもそもずいぶん寒い季節なので、用がないなら外でのんびりしていたくはない。
宿のチェックイン時間までまだ余裕があるので、日光周辺の施設を巡ることにした。
どうせ今晩の宿は既に一度宿泊したことがある。鼻息荒く、早い時間にチェックインする必要はない。さらに、温泉ではないし。
どうも温泉宿でないと、間を持てあます。何度も風呂に入るモチベーションが維持できないというか。どうやら、温泉宿に慣れすぎてしまったらしい。
立ち寄ったのは、日光の東側にある、太子食品工業という会社の工場。ここで豆腐をはじめとする豆を使った食品各種が作られているらしい。工場見学ができる上に、商品の直売もやっているという。作りたての豆腐を試食して、良いものがあったら買って帰りたいものだ。
太子食品工場自体は、本社は青森にある。しかし、あちこちに工場と支店があり、この日光工場もその一つ。
駐車場の脇には、大量の土のう・・・というか、何か大きな袋が並べられていた。土砂崩れを防ぐためとは思えない。かといって、牧場に転がしてある牧草ロールでもなさそうだ。
なんだあれ?
しばらく悩んだけど、はたと気がついた。ああ、あれって「おから」だな!
豆腐を作っていると、どうしても大量のおからがでる。町中の小さなお豆腐やさんでさえ、おからの処分に困るくらいだ。ましてやこんな大きな工場だと、とんでもない量のおからが毎日出るはずだ。「掃いて捨てる」どころか、「トラックで運んで捨てる」レベルだ。
おそらくこれらは、近隣の牧場や養豚場に運ばれて家畜の餌になるのだと思うけど、それにしてもすごい量だ。
栄養価が高い食べ物なのに、もったいない。
かといって、おからレシピの代表格が「卯の花」というのが、おからの限界を示している。卯の花もうまいんだけど、量は食べられないんだよな。ちょっと、箸休め程度にあればいい。ご飯のおかずにもあまり向かないし、うーん。
おからは足が早いので、大量に貰っても困る。
直売所玄関先には、「北の大豆」という名前の豆乳ペットボトルを模したものがお出迎え。
「北の大地」をもじったダジャレ、なのだろう、きっと。
後で試食したら結構おいしかったので、買って帰った。
子供の頃は豆乳って大っ嫌いだったのに。いつの間に飲めるようになって、しかもわざわざお金を出してまで買うようになったのだろう?このパラダイムシフトがどこにあったのか、全く記憶にない。健康に良い、という殺し文句があったから、飲むのが平気になったのだろうか?
子供の頃は好き嫌いがあったけど、今はほとんどない。嫌いなものがない、ということは嬉しいことだけど、食べ物に一喜一憂しなくなったということでもある。ちょっと寂しさを感じるけれど、今回はありがたく豆乳を買った。今、うまいと思えるんだからいいじゃないか。
工場は、建物二階の窓から見ることができる。特にガイドさんがつくわけではなく、自分で見る。解説はパネルが壁に貼ってあるので、それを見る。
工場特有の、ながーい敷地をてくてく歩いて見学、というわけではない。単に窓から工場内部をのぞき込むといったもので、正確に言うと「工場のぞき見」となる。
工場見学ありきで建物を作ったのかな?というくらい、見学者から見てわかりやすい機材やラインの配置になっている工場もある。でもここはそんな作りにはなっておらず、鈍く光るステンレスをひたすら見ることになる。
午後、しかも週末ということもあって、工場内は閑散としていた。
ここで1日約20万丁のとうふがつくられているよ!
だって。多いのかどうか、よくわからない。ええと、一人あたり毎日お豆腐一丁を食べたとして、20万人分。おお、それを思うととても多いな。豆腐で世界征服を狙っているとしか思えない。
それにしても、この絵。
相変わらず、こういう時には「ひげを生やした博士」がもの知り役として登場するのだな。でも、こういう博士って今のご時世殆どいないと思う。いったいいつからこの大いなるマンネリズムが定着したのだろう?
とうふの製造工程を説明するパネル。
撮影しておけばあとで復習できるだろう、と思ったけど、撮影したらもう見返すことなんてないものだな。
ラインは動いていないけど、熱心に撮影してしまう。
なんだろうね、工場見学ってテンションが上がるよな。後で冷静になって写真を見ると、「そんなに熱心に撮影しなくても」という生産ラインでも、いっしょうけんめいだ。
カメラが曇ってきた。随分と冷え込んでいる外気と、屋内の温度差でカメラ内部が結露したからだ。
工場見学ができる廊下の隣には、ちょっとしたスペースがあった。たぶん、お豆腐作り体験教室(要予約)ができる場所なのだろう。
以前僕は、自宅のコタツで納豆を作ろうとして、随分臭い、本当に腐ったんじゃないかという豆ができたことがある。あれ以来、豆料理の自作はしていない。納豆は本当に怖い。糸を引いているのが、ガチの腐敗なのか、良い発酵なのかが判別つかない。
工場見学ができる2階から1階に下りる。
そこは、工場直売所があって、試食も用意されている。
試食?
いや、試食ってあんまり好きじゃないんですよ。なんか、食べたら買わなくちゃいけないみたいな雰囲気になるじゃないですか。「美味いっすねえ」とか、心にもない社交辞令を売り子さんに言わないといけないじゃないっすか。コストコの試食みたいに、だーっと配布しているだけならば気が楽なんだけどねぇ。
って、うわあ。なんだこの試食。
大きな冷蔵庫の中に、豆腐が入っている。どうぞご自由にお試し下さい状態だ。
売り子さんに、まっすぐこっちの顔色を伺われつつ、気まずい思いをしながら食べなくていいのか!素敵!抱いて!
豆腐が、小さな使い捨て容器に一口サイズで盛られている。
豆腐がいろいろ試食できる、というのはありがたい。今、スーパーに行くとたくさんの豆腐が売られているけれど、どれがうまくてどれがイマイチなのか、さっぱりわからない。
えいやっ!と一丁400円くらいする豆腐を買ってみたけど、たいしたことがなくて地団駄踏んでみたり。
「味が濃くて美味い」と自称する豆腐を買ってみたけど、「うーん、そうかなあ?」と首をひねったり。
さすがに一丁40円くらいで売っているものは、おいしくはないと思う。でも、それ以外は正直よくわからない。
体調によって、うまいと感じる豆腐が違ってくるというのも難しい。男前豆腐がめっちゃ美味い、と感じている時期もあるし、「いや、あれはむしろくどい。もう少しさらっとした方がうまい」と感じる時もある。
まあ、結論としては、「試食できればサイコー!」というわけで。
ありがたいことに、給茶機もある。豆腐の仕込み水を使ったお茶だそうだ。
湯葉、「箱入り娘」の絹と木綿、豆乳を試食させてもらうことにした。
これで一人前じゃないぞ。二人でこれだぞ。さすがに、「腹が空いているぜ、ガハハハ」と一人で何皿も食べる強欲さはない。
面白いものだ、同じ銘柄の豆腐でも、同時に木綿と絹を食べ比べると、その違いが感じられる。日常生活で、ありそうでない食べ比べ。
味はもちろんおいしい。試食に出すくらいだから、自信作なのだろう。小売店から、安く売れ、特売させろ、といろいろ圧力はあるだろうけど、うまい豆腐を作り続けて欲しい。
ちなみに、今晩一泊して帰宅は明日、ということもあって、豆腐はさすがに買わなかった。
そのかわり、豆乳「北の大豆」が気に入ったので、お土産に買って帰ることにした。豆乳って、うまいやつを飲むとうっとりするよな。風味豊かな蕎麦を食べるのと似た感覚を覚える。
(つづく)
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