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神代の大ケヤキをぐるっと周りこむ形で坂道を登ると、そこは急に観光地っぽい光景が広がっていた。
江の島をはじめとし、あちこちの観光地で見かける景色だ。狭い道の両側に、競うように売店、飲食店が建ち並ぶ。
これまでのエリアには売店の建築規制でもあったのだろうか?と思ってしまうくらい、ガラッと変わってしまった町並みに驚いてしまう。
ちなみにエリアごとの建築規制はないはずだ。だって、さっき「古狸山」っていう売店があったから。
こういうお店がある、ということは武蔵御嶽神社が近づいてきた証拠だろう。いよいよ門前までやってきた、ということに違いない。
御休憩/御食事ができるお店。
開放的な入り口、そして奥が開放的な窓になっていて、窓側席に座ると眼下の眺めが楽しめる、という作りは江の島にあった飲食店と全く同じ構造。
扱っているのは、玉子丼、肉うどん、御嶽そば、カレーライス、おしるこ、月見そば・・・といったベタな観光地食堂メニュー。昔ながらだ。
店頭では生わさびが売られていた。このあたりはわさびを栽培しているのだろうか?
奥が食事処、手前が土産物店という構造。
こういう売店は売られているものが混沌としているから、面白い。高速道路のSAや、大型のお土産物店のように「計算しつくされた」商品構成と配置ではないからだ。
犬のロゴが目立つ袋が積まれていて、その袋には「ワンちゃんへ」と書いてある。中に何が入っているのかは確認しなかったけど、カリカリ(ドッグフード)みたいなものが入っているのかもしれない。
・・・いや、それだとあまりに適当過ぎるので、今調べてみた。これ、犬用の「クッキー」なんだな。「清水物産」という、静岡県沼津市のメーカーが作っている製品で、正式名称を「ワンちゃんクッキー」という。
まさか沼津の製品がこの奥多摩の山中で売られているとは、意外だった。
しかも、そのすぐ脇には、漢方でおなじみの「霊芝(レイシ)」が売られていたり、「かるめ焼き」「みそぱん」といった渋いものが並んでいる。どういう配列だ。
そして他にも、木彫りの布袋様像なんてものも並んでいる。床の間にでも飾るのだろうか?まずこういう木像をほしがる人が未だにいるのかどうかが想像つかないし、買ったとしても重たいものを下界まで運び下ろすのはちょっとした労働だ。クロネコさんにでもお願いできるのだろうか?
山の中の観光地だけあって、木工細工の産地なのだとは思う。でもな、でもだな、肉まんかシュウマイかを蒸すための「せいろ」が売られているのは困惑するしかない。これ、どうするんだ?
面白い。山の中の売店だからこそ、いろいろ考えさせられて、面白い。
千本屋、と書いて「ちもとや」と読むらしい。「せんぼんや」じゃないんだな。
ここはご丁寧に英語で食事メニューを用意している。ということは、ここにも結構外国人観光客がやってくる、ということだ。驚きだ、高尾山に行く外国人、というだけでも相当信じられないのだけど、御岳山までやってくるとは!一体どれだけの日程で日本を訪れているというのか。駐在員などの長期滞在者向けだろうか?
英語メニューというのは、案外翻訳が難しいものだ。たとえば「きつねうどん」を、「Fox Udon」と訳すわけにはいかないので、ちゃんと説明書きを付けないといけない。
「Kitsune noodles」はこう書かれている。
Your choice of Udon or Soba noodle soup topped with sweet fried bean curd
「bean curd」は豆腐の意味だが、「fried bean curd」でお揚げさんという意味らしい。油揚げという概念を知らない人からしたら、あのレンガのような豆腐を素揚げにでもしたのか!?と思ってしまうだろう。
しかも、「sweet」という言葉が付いている。甘いらしい。
なるほどなあ、と感心する。確かに、きつねうどんのお揚げさんは、そのままトッピングしているのではなく、甘辛く煮たものが乗る。それを伝えたくて、「sweet」と形容したのだろう。しかし、ぱっと見ると「甘い、揚げた豆腐」であり、なんだかとんでもないゲテモノ感が漂う。
これはお店の人の英作文が下手くそだから、ということではなく、異文化を伝達する際の限界に過ぎない。
とろろそば/うどんなんて、外国の人に説明するのが難しい料理だ。とろろの原材料となる山芋自体が、理解の範疇を超えているからだ。このお店の場合、
white yam puree
と解説されていた。「白くてうまいピューレ状のもの」だ。もう、山芋が何であるかとか、それをすりおろすといった説明は面倒だったらしく一切省略している。でもそれで良いと思う。
何しろ、漫画「はだしのゲン」いわく、飢えに苦しむ外国人捕虜にゴボウを取ってきて食べさせてあげた日本人兵が、戦後裁判にかけられて「虐待」の罪を被せられた・・・なんて逸話があるくらいだ。材料は教えない方が良いのかも知れない。いや、気にしすぎか。
写真で説明する、というやり方もございます。これなら、原材料は不明のままであっても、どんな料理が出てくるのかという雰囲気はわかる。
ただし、相当色あせてしまった写真なので、一生懸命脳内補正をしないと、出てくる料理をイメージしづらいけれど。
「わんちゃんも一緒に店内でお食事できます」
と書いてあるのが、いかにも御嶽神社の門前町っぽい。
でも、決して犬にもおでんとかおしるこを与える、という意味ではないと思う。
ムササビがびゅーんと空を滑空しているポーズをした人形が売られていた。人形?ポーチ?よくわからない。リュックのように背負えるようなベルトが備わっている。これを背負って崖に行けば、ほら、僕だってI can fly!
ムササビはこのあたりでは多く生息しているらしい。先ほど見かけたビジターセンターでは、よくムササビの観察会を開催しているようだった。
ところで、ムササビとモモンガってどう違うんでしたっけ。大きさだけ?
手打ち蕎麦を出すお店もあった。
「アルバイト・パート募集」という張り紙があるけど、こういう場所で働くってどうすればいいのやら。住み込み?
下界から通うとなると、通勤時間が洒落にならない。
古い明治製菓の看板を掲げるお店。
ここでもみそぱんが売られている。
ここで気がついた。どうもずっと前から、自宅のクローゼットの衣装ケースの中に未開封のみそぱんがあって、「これはいつ何のために買ったのだろう?」と不思議に思ったまま放置してあったのだけど、きっとここで買ったんだ。
みそぱん自体好きでもなんでもないのに、何故自宅にあるのか長い間謎だったけど、きっと、「これから山の中に入っていくのだし、万が一の非常用食料として買っておこう」という判断をしたんだろう。全く記憶に残っていないけど。
で、それが1年以上経ってもまだ手つかずで残っている有様。早く食べろよ。
(つづく)
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