せっかくだから酒蔵巡りができれば楽しいだろうな、ということであらかじめ調べていたのだけど、案外蔵元というのは越後湯沢界隈に多くなかったし、あってももともと非公開だったり週末は営業していなかったり。残念だ。
越後湯沢駅のすぐ近くに「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」で有名な白瀧酒造がある。ここは土日祝日の見学は受け付けていない。あと、予約制だ。
せっかく「ぽん酒館」という素晴らしい施設があるのだから、そこで利き酒をして興味を持った観光客が、さらに興味を持続できるような取り組みを清酒業界として考えて欲しい。
そんなわけで、向学心に燃えさかっているチームアワレみご一行様、宿がある六日町をいったんオーバーランしてしまった。目指すは、「八海山雪室」。
越後銘酒の中でも特に知名度が高い、「八海山」を醸している八海醸造の施設だ。初めて訪れるのでよくわかっていないのだけど、どうも広大な敷地内に雪室をはじめとし、いろいろなお店が点在しているらしい。
「らしい。」と言っているのは、全然事前に調べていなかったからだ。八海山雪室、というキーワードだけ観光情報サイトで拾い上げ、「じゃあそこに行こう」と決めたから。雑すぎる。
15:33
そんな予備知識のなさをあざ笑うように、到着した我々をびびらせたのがこの黒い建物。なんだこりゃあ!?
過激派のアジトじゃあるまいか、と笑ったが、こんなデカいアジトがあってたまるか。すぐに公安に見つかって捕まる。
構内地図を見ると、「第二浩和蔵」と書いてあった。ヒロカズ!あんたここで何やってるの!
・・・え?「コウワクラ」って読むの?
主に普通酒、本醸造酒を作っている蔵らしい。
吟醸酒や純米酒といったお酒は別のところなのだろう。おそらく、ここから少し離れた人里の中にある本店で醸しているのだろう。
よく売れる本醸造など値段が安いお酒は、ここで大量に造っているというわけだ。
それにしても、一体どこにいけばいいんだ?
まだ状況が読めていない。どこに何があるのやら。肝心の雪室はどこだ?
あ、「八海山雪室」の矢印発見。
「4度の体験」と書いてあるけど、今それどころか氷点下に近い体験をしている真っ最中なんですがこれは。
夏になると、きっと天然の涼しさなのだろう。
雪室の見学は1日8回あるのだけど、すでに最終回の時間は過ぎている。なので、雪室そのものは今日は見られない。
それ以外にもいろいろな施設があるものだな。ええと、蕎麦屋があって、うどん屋があって、和菓子のお店があって。
「蕎麦屋とうどん屋が別」というのが、まず驚きだ。両方同じお店で、「蕎麦のメニューはうどんに変えることもできます」なんて書いてあるのが普通だろうに。これなら、蕎麦アレルギーの人も安心だ。うどんを食べたつもりが、蕎麦の茹で湯のせいでショックを起こす心配がない。
雪室の案内看板に導かれて、構内を歩いて行く。
基本、このあたりは緩やかな丘陵地帯で、林を切り開いている。
だから、周囲に民家があるわけでもない。よくぞ飲食店を並べられたものだ。観光客がわんさかやってきて、その人達がここでご飯を食べていくということか。
実際、お店は古民家を移築したような作りで風情があった。ここならご飯を食べてみたい、という気にさせられた。
ほかにも、敷地内には社員食堂が一般公開されていたり、ベーカリーがあったり、洋菓子のお店があったりもする。
社員食堂は、「同じ釜の飯を食べる」というコンセプトで作られたものらしく、その一部を一般来場者にも公開しているということだ。面白いのが、説明文の中に
[ 座席 ]134席(内飲酒可能席22席・全席禁煙)
と書いてあることだ。えっ!飲酒可能なの?
まさかここの社員さんは、「フランス人がランチに水がわりにワインを飲む」かのように、社員食堂でランチ八海山なんてことをやっているのだろうか。
多分違うな。それをやると、本当に午後は仕事にならなくなる。日本人の体質として、無理だ。
ということは、観光客で、お土産で買った八海山を、さっそくこの社員食堂で開封して飲むぜ!という強者がいるということだな。で、それを施設側としても認めているというわけだ。
「社食」を肴に、ここで働く社員が醸した酒を呑る。いい趣味してるぜ、オッサン!
ぜひそのコンセプトをお試ししたかったけど、さすがに社員食堂は15時までしかやっていなかった。閉店していたので、無理だった。
八海山雪室の入り口。
平べったく、横に長い建物は独特。
そして、正面に入り口があるのではなく、ガラス張りの脇から入るようになっている。
かなり意欲的な建築だ。デザインの段階で、カネをかけているのがわかる。
雪室の解説。
あー、なんかよくわからないけど、意識高いフォント使ってる。こういうフォント、なんかシンプルかつ小洒落た雑貨を売るお店で、よく見かける。
建物だけでなく、この施設全体のトータルコンセプトを誰か著名なデザイン事務所に依頼しているっぽい。
ガラス張りの中は、コンクリート打ちっぱなしの外壁。二重扉状態になっていて、さらに中に入る。
八海山の一斗樽がお出迎え。
えーと。
なんかパズルのような間取り図。
どうやら、右側2/3に雪室があって、お酒などが常時雪の冷気で保冷されているらしい。で、我々がこれから入ろうとしている1/3のスペースは・・・
びっくりだ。
なんだこりゃー。
すっかりおしゃれな店内だった。
店内?・・・店内、だな、これ。
お酒の貯蔵庫に来たはずなのに、目の前にあったのはすっきりとした気持ちの良いカフェと売店だった。
目を疑う、というのはまさにこのことだ。ごちゃっとした感じがまったくなく、素っ気なさすら感じさせる空間デザインはむしろ今風で心地よい。へえ、清酒の世界とこういう今風な世界が融合するのか。
「ユキナカキッチン」と「ユキムロカフェ」がある。ユキムロカフェでは、甘酒や麹ラテ、お酒などが売られていた。
いいね、ここでまったりと酒を飲むというのもいい。外の雪を少し感じながら。
天井がやけに高いな、と思ったら、二階にロフトスペースがあった。
その二階にもお店があるという。キッチン雑貨のお店、「Okatte」。
いやー、ここもいい雰囲気だ。
酒器をはじめとし、いろいろなキッチン用品が売られているのだけど、どれもちょっぴり欲しくなってくるものばかり。
こんなのとかが、並んでいるのだもの。
お酒は飲まないし、家にこれ以上グラスはいらないのだけど、実際に手に取ってみて「うむ」なんて納得してみる。
うすはりのグラスなどを手に取り、「いいよな、こういうのは。でもいらんけど」
と持ち上げておいて落とす、ということを繰り返す。
決して「こんなもの、イラネー」というわけではない。素晴らしい商品だと思うけど、僕のライフスタイルには合わないんだよな、惜しいな、という気持ちでいっぱいだ。
同じことを、僕はIKEAに行ったときもよく口走る。あそこで売っている家具類、「いいなあ」と思うんだけど、じゃあ自宅に置けるかというと置けない。なので、「でもいらんけど。」と言ってしまうのだった。
一階に戻り、ユキナカキッチンの奥に向かってみる。
すると、おお!ここはまた別のお店があった。
「雪室 千年こうじや」というお店で、ここではお酒だけでなく、米・麹・発酵をテーマとしていろいろな商品が売られていた。新潟の牛や豚の加工肉も売られている。ここで酒と、酒の肴を仕込むことは可能だ。
じゃああとは社員食堂に移動して、しこたま飲むか。
いや、そうしなくても、ユキムロカフェのところで飲めばよかろう。
3月はまだ雪がちらつく季節。客の数は少なく、しっとりとした時間が流れていた。カフェも空いていることだし、少々肴を並べて飲んでも・・・あ、誰もそこまでやろうとは思わないですか?そうですか。
「晩飯の時間に間に合わないでしょうが!」
そりゃそうだ。そもそも、ここで酔っ払って力尽きるわけにはいかない。
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