屯田兵に帰れ【北海道ハタケ遠足】

12:35
新千歳空港。

今回は、レンタカー屋で車を借りていない。ハタケから車の送迎があったからだ。参加人数がそれほど多くなかったからだけど、そのかわり車が行ったり来たりで送り迎えが大変だ。なにしろみんな、バラバラな便で東京からやってくる。

ちなみにハタケで使われている車は、普段は東京にあるのだけれどハタケシーズンになると陸路と海路を経由して北海道に運び込まれる。そして秋になって一年の作業が終わると、また東京へと戻っていく。それだけでもかなり大変なことだ。

北海道は本当に車がないと始まらない。特に農作業をするともなれば、車は当然だ。だって、交通の便が良いところにハタケがあるわけじゃないから。

そんな当たり前のことでさえ、「ああそうか、最寄りに電車やバスがあるわけじゃないんだな」と思ってしまう。完全に東京ボケだ。公共交通機関があるのが当たり前、と信じ込んでしまっている。

だからこそ、ハタケは面白い。自分の「当たり前な日常」が、日本を見渡すとむしろ異常であるということがわかるから。

13:13
ハタケ。新千歳空港から車で20分ほどのところにある。参勤交代としてひゅっと訪れるにはとても便利な場所だ。もしこれが空港から2時間3時間かかる場所であれば、土日の一泊二日じゃ大して作業ができない。ましてや、そういう場所なら宿泊場所も若干困るはずだ。千歳市にハタケがあって、本当に便利だ。

ただし、真面目に農作業をやると、本当に空港とハタケと宿だけの往復になる。かなりストイックだ。

特に「この時間からこの時間まで作業してくれ」だとか、具体的な支持はない。ハタケ仕事はあくまでも個人の裁量に任されていて、「遅れて参加します」でも「早々に退散します」でもいい。なんなら、ハタケの周辺で昼寝してたって怒られはしないだろう。強制労働じゃないんだから。

このあたりの「一人ひとりの自主性を重んじる」遠足・・・いや、「重んじる」でさえないな、「自主性任せ」の方が言葉が正しいか・・・のユルさに、2014年のハタケ初参加時は随分と戸惑ったものだ。何しろ、これまでの僕というのは、ガチガチに予定を固めた旅行や体験をしてきていたからだ。ハプニングを楽しむにしても、その「ガチガチな予定がうまくいかないこと」であって、「そもそも何も決まっていない(っぽい)」遠足に参加するというのは新鮮な体験だ。

今では、「まあこういうものだな」と状況を理解し楽しんでいる。

久しぶりのハタケは、耕作面積が若干増えたように見える。茂みだったところがなくなっていたり、壊れかかっていた小屋が撤去されていたり。少しずつバージョンアップしている。

20:18
写真は一気に飛んで夜の千歳市街。みんなで夕ご飯を食べにやってきた。

ハタケ仕事は、まだ耕運機がうまく動かなかったこともあって種まきなどは翌日となり、もっぱら倉庫や資材の整理をやっていたような記憶がある。

20:46
お寿司をいただく。

カフエマメヒコのオーナー、井川さんはてきぱきと全員分の注文をとりまとめ、店員さんにそれを伝える。毎度そうだ。飲食店を経営している人だけあって、「ひとりひとりがバラバラに注文すると、厨房が混乱する」ということをよくわかっているのだと思う。だから、特に申し立てが無い限りは、みんなで同じものを食べる。

お寿司も美味しいけれど、天ぷらもさっくり揚がっていてとても美味しかった。ようやくなんか北海道に来た感じがしてきた。

・・・そりゃそうだ、朝、成田空港に行って、讃岐うどんを食べて、空港から直接ハタケに行って農作業。そして今ここ。

まだホテルにさえチェックインしていない。我ながら風変わりな体験をしているなと思う。農作業をやること自体がスペシャルな出来事だけど、それ以上に「空港からハタケに直行して農作業@北海道」というこのシチュエーションがすごい。

ついでにもっとすごい話がこの場で出てきていてびびった。

ハタケの周辺には、「雑草」としてタンポポがたくさん黄色い花を咲かせていた。可憐、と呼ぶには結構数があるぞ、というボリューム感だ。これを摘み取ってたんぽぽシロップを作ろう、という話がでてきたのだ。へえ、たんぽぽの花でシロップが作れるのか。

それはそれでいいのだけど、朝7時からやろう、なんていう話だからすげえ。野球強豪校の朝練みたいな世界だ。もちろん自由参加で有志だけでも、ということだったので一瞬躊躇したのは事実。でも、ここまできたら話に乗っておきたい。朝7時ってことは、えーと、ホテルを6時には出ないといけないのか。ってことは5時過ぎに起床か。早いなー。

なんでそんなに早朝なの、というと、耕運機が復旧するまでの場繋ぎ企画であり、昼前にはたんぽぽ作業を完了させておきたいというのが一つ。そして何よりも、たんぽぽの花が完全に開く前に摘んでしまいたいのだという。へえ、たんぽぽって、ずっとカパーンと花びらが開きっぱなしなのかと思っていたけど、そうじゃないのか。

この企画を主導する仲間が教えてくれる。

「花びらが開きすぎると、アリとかが入ってきちゃうんですよ。蜜を狙って。摘んだ後に花びらは洗うんだけど、できるだけゴミは少ないに越したことはないですから」

なるほどー。

たんぽぽなんて、路傍に咲くありきたりな花としか見ていなかったけど、いろいろあるものだな。シロップが作れるということも知らなかったし、アリがその蜜を狙ってくるというのも知らなかった。自分がいかに世の中のこまごましたものに注意を払っていないか、ということだ。

巷には「大感謝祭」とか「激安」「スクープ!」みたいなケバい言葉が溢れている。そういうのについつい目を向けてしまいがちだけど、ちょっと足元のタンポポも見る余裕が欲しいものだ。

で、実際タンポポシロップって美味いんですか?

「びっくりするくらい美味しいですよ。えっ、これたんぽぽで作ったの?ってみんな驚くくらい。メイプルシロップみたいな香りもするし」

へええええ。それが本当なら、タンポポなんて珍しくはない花なんだし、簡単に手軽に作れそうな気がする。なんでみんなやらないんだろう?

「そのかわり、たくさんたんぽぽが必要なんですよ。びっくりするくらいたくさん。その手間がかかるので、明日はみんなでやれればいいな、と」

なるほど。さすがにたんぽぽの花10とか20程度じゃ、ぜんぜん駄目か。

21:57
21時半すぎ、みんなバラバラに解散していった。ハタケに隣接する家で寝泊まりする人を除いて、千歳市街のホテルに三々五々。

この自主性が試される遠足は、「みんなで同じホテルに泊まろう」なんてことはない。バラバラな飛行機でやってきて帰っていくし、ホテルだってバラバラ。そもそも、誰が参加するのかというのは当日行ってみて「ああ、どうも」という状況だ。

千歳駅周辺にはビジネスホテルがいくつもある。しかし、5月にして結構いいお値段になっているので油断がならない。まだ行楽シーズンじゃないし、数千円で泊まれるんじゃないか?という甘い考えで宿を探すと、その倍はする値段にビビることになる。

千歳駅から空港までは若干距離がある。でも、空港最寄りの市街地であるのは間違いなく、遠方からやってきて明朝飛行機に乗りたい人や、夕方飛行機で到着して、翌朝またさらに遠くに行こうとする人などは千歳に泊まるということもおおいだろう。だから、値段が想定よりも遥かに高いのだった。静かな街なのに。

その結果、札幌で泊まったほうがよっぽど安い、というイメージとお値段の逆転現象が起きることがある。特に札幌泊だと、カプセルホテルやドミトリー&二段ベッドタイプの安宿という選択肢もあるので、余計千歳のホテルが高く感じる。

それでも今回千歳泊にしたのは、2014年の3回とも札幌泊にして、往復が大変だったからだ。なにせ片道1時間。当初マメヒコからは札幌泊が推奨されていた。宿が安いし選択肢が多いし、その気になれば遊ぶこともできるからだ。しかし、最近はやっぱりハタケに近いほうがいいよね、ということで千歳泊を選ぶ参加者が増えたようだ。

もっともハタケに近いのは、空港直結のホテルなんだけど、さすがにここはすぐに予約が埋まってしまう。泊まりたけりゃ、早めの予約が必須だ。特にシングルルームの場合は。

ホテルの部屋に一人向かう。

この日千歳に泊まった仲間たちは、見事なまでに全員別のホテルに分散していた。どれも徒歩圏内の近場にあるのだけれど。

「せっかくだから大浴場があったほうがいいよね派閥」と「風呂にはこだわらない派閥」というのが世の中には存在していて、そこでホテルの選択肢が分かれる。さらに、ホテル探しをした時期次第で選択肢が変わるし、値段も動く。

ホテルで朝食を食べるか、朝食は抜きでいいと判断するかによってホテル選びは変わってくるし。特に北海道の場合、「北海道の幸を使った朝食バイキングをお楽しみください」的なことを謳われていたら、そりゃあもう「おう、じゃあ朝食バイキングをつけてくれよな!」とお願いしちゃいますよ。

そんなわけで、ホテルがバラバラになったらしい。

で、ここで悲しいお知らせが。明日は朝6時に近隣ホテルの仲間たちで集まって、朝7時にはハタケ入りとなった。たんぽぽを摘むためだ。その結果、頼んであった朝食バイキングは食べられなくなっちゃった。まあ、そういうこともあるさ。もちろん、今更お金は帰ってこない。

大浴場ありの宿を選んだので、お風呂が楽しみだ。

とはいっても、朝風呂を楽しんでいる余裕はなさそうなので、夜のお風呂だけ。

21:58
ようやくホテルの部屋に到着。いやー、やっぱりすげえな、空港からそのまま農作業だもの。そして22時近くなってようやくホテルだ。

22:05
ホテルの最上階に大浴場がある。

その大浴場の奥には屋外に通じる引き戸があって、その先はちょっとした庭と廊下がある。看板を見ると特別室がこの先にあるらしい。VIP室だろうか。こういうのを見るだけでも、想像力が掻き立てられてワクワクする。

で、特別室方面の写真を撮ったのちに振り向いたところがこれ。大浴場方面。なんでこんな写真を撮ったのか、今じゃぜんぜん覚えていない。当時は何か記録として残しておく価値があると考えたのだろうか。

(つづく)

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