08:11
長野駅到着。
ホームに出ると、ちょうどそこには「信州そば りんどう」ののれんが下がっていた。立ち食い蕎麦屋だ。
上高地行きのバス発車まであまり時間が残されていない。朝ごはんを食べるなら、まさにうってつけだった。
だけど、ちょうど5,000円札、1万円札しか手元になく、「小銭がなかったため食券が買えず、断念」という結果になってしまった。
替わりにそんな僕をいやしてくれたのが、改札を出たところにあった「ナカジマ会館」だ。
長野に到着して、まずは蕎麦を食べて栄養補給!ひとまず、幸先が良いということにしよう。
08:25
食後、急いで長野駅東口に向かう。
「せせらぎ号」はここから出発する。遠くに、アルピコ交通独特の白いバスの姿が見える。どうやらあれらしい。
外は雨。平野部の長野市街でこれなのだから、山奥である上高地、そして焼岳は推して知るべしだ。今回は「雨の中、濡れながら山頂に立つ」ことになることがほぼ確定。山頂からの展望なんて、期待するだけ無駄だ。視界?ゼロに決まってるだろうが。
08:27
25番乗り場に、「せせらぎ号」は停車していた。
25番乗り場は「大町・扇沢方面/上高地方面」と表示が出ている。山ヤのための路線ともいえる。
せせらぎ号自体は長野駅始発ではなく、ホテルメトロポリタン長野から出発している。ホテルメトロポリタンはJR東日本系列のホテルで、まさに長野駅に隣接して建てられているのだが、駅の西口側だ。わざわざ、西口側から東口側に移動して、いまここに停車していることになる。
メトロポリタンで前泊して、翌朝バスで上高地へどうぞ、ということなのだろうか。
せせらぎ号の中。発車間際だけど、お客さんの入りは1/3も乗っていない感じ。
7月29日というハイシーズンの土曜日朝にしては、寂しい数だ。でもそりゃそうだ、天気がこれだから。
賢明な市民は、天気を見越して上高地入りを諦めたか、そもそも計画していないのかもしれない。そして、今日こうやってバスに乗っているのは、「雨の上高地もまた魅力だよね」という風流人か、「休みがこの日しか取れなかったんだ、雨でも行くしかないだろうが」という鼻息荒い系の人か。
ようやくここで一息つける。
缶コーヒーで一服。
なにしろここから上高地までは2時間40分。新幹線で東京から長野に行くよりも長い時間がかかる。
よく考えてみりゃ、そりゃそうだ。長野からいったん松本まで高速道路で南下して、そこから下道なんだから。時間がかかって当然。
09:31
長野自動車道を走り、松本の手前にある梓川SAでトイレ休憩となった。
レストランの入り口には、料理の写真が沢山並んでいた。メニューが豊富すぎて目移りしてしまう。
なんだ?
「戦国BATTLE ハイウェイソウルフード」だって。戦国BASARA的なイケメン戦国武将??たちがずらりと並び、「天下分け目のフードバトルついに開戦!」とな。
おう、任せろ、助太刀いたす!と思ったけど、そんなことをやっていたらバスが出発してしまう。
関ヶ原の合戦で態度を決めかねていた大名のように、ここは戦況を眺めておくに留めよう。
それにしても結構うまそうなんだよな、「豚とろわさび丼大盛り」と「俺の信州味噌ラーメン大盛り」とか。
いやちょっと待て、「大盛り」はいい加減やめとけこの豚野郎。
そんなイケメンを後目に、われらが松本電鉄上高地線は萌えを振りまいて、梓川SAにも進出。
松本駅と新島々駅を結ぶ松本電鉄上高地線だけど、そのマスコットキャラクターとして「渕東(えんどう)なぎさ」なるキャラクターを前面に押し出しているらしい。へー。
後で知ったのだけど、「松本電鉄」というのは既に愛称となっており、実態は「アルピコ交通」なのだそうだ。2007年にアルピコグループの経営が傾いてしまい、その一員だった松本電鉄も再編を余儀なくされたらしい。
長野に行ったことがある人ならわかると思うが、長野はいたるところが「アルピコ」だ。単独の会社なのではなく、地場の交通会社が連携をして「アルピコグループ」を形成している。白い車体を採用しているので、とてもよく映えて良いデザインだ。しかし経営がヤバかったとは。
松本電鉄だって、いつ乗ってもガラガラで、存在意義ってあるんか?と思っていた。むしろ新島々で上高地行きのバスに乗り換えるのが面倒なので、いっそのこと松本駅から直通バスをたくさん出してくれよ、と思う。しかし、鉄道路線存続のために、上高地に行きたけりゃ鉄道に乗れよー、終点でバスに乗り換えだぞー、っていう運営をしているのだろう。そうでないと、路線沿線の地元民が困る。
田中康夫氏が長野県知事だった時は、「上高地までリニアモーターカーを走らせようぜ!」なんて景気の良い話をぶち上げていたけど、今はどうなったのだろう。全く聞かなくなった。荒唐無稽、ってことで一蹴されてしまったのだろう。いくらなんでも、お金が掛かりすぎる。
観光バスを上高地に一切入れさせない、というのは大賛成なのだけど。
10:46
バスは松本ICをおり、上高地に向かうお馴染みの路線、国道158号を西に向かう。
途中、大駐車場がある沢渡(さわんど)地区を通過する。
上高地はマイカー規制があるため、車でやってきた人は長野県の沢渡地区または岐阜県の平湯温泉に駐車し、シャトルバスに乗り換えないといけない。
沢渡のあちこちに駐車場はあるのだけど、ざっと見た限りさほど混んではいないようだった。客引きのおっちゃんやおばちゃんが暇そうにしている。
どうやらみんな、今日の上高地は荒天である、と見越して回避しているらしい。
むしろそれは朗報だ。今晩の焼岳小屋が混まずに済む。
焼岳小屋が大混雑する、という話は下調べをした時点では発見できなかった。場所柄、そんなに混まないのだと思う。しかし、なにせキャパが少ない。オフィシャルサイトを見ると、「25名」と書いてある。こんなん、団体さんがやってきたらすぐに埋まってしまう。さて、今晩はどうなることやら。
寝苦しい夜なのか、それとも案外眠れちゃうのか。
10:56
なにしろ4年ぶりの山小屋泊だ。ワクワクと不安が入り交じりながら、バスは釜トンネルへ。
この釜トンネルから先は、マイカー規制がかけられている。トンネルの入り口には警備員さんが控えていて、一般車両が紛れ込まないようにチェックをしている。
入っていいのは、許可されたバスとタクシーだけだ。
上高地の自然を守るため、ということだが、それだったら観光客てんこ盛りの観光バスは排除しようよ、と思う。しかしそこは商売と天秤にかけて、現状レベルの規制でOK、ということなのだろう。
せめて「低公害車でない限りは入っちゃダメ」くらいにしても良いと思うのだけど、ダメなのかな。
11:02
釜トンネルは、バスが乗っている客でさえも「どうなってるんだこのトンネルは」と若干不安になるくらい、ウネウネしながら、アップダウンを繰り返す。
トンネルなんだから、入り口から出口までまっすぐ一直線に穴を掘るのが一番シンプルだ。しかしそれができないくらい、このあたりの地層というのは入り組んで、難工事だったのだろう。その苦労が、バスの揺れを通じてよーくわかる。
トンネルを越えた先は、大正池。
11:05
バスはもうじき上高地バスターミナルに到着する。
白樺の先に見える赤い屋根。上高地帝国ホテルだ。
以前ここのロビーのカフェでお茶をしようと思ったことがあるけど、値段の高さにビビって諦めた、ということがある。さすが帝国ホテルだ。
いつか、ここで優雅に茶をしばきたいものだ。
いや、「茶をしばく」って言う時点で、全然優雅じゃないし帝国ホテルっぽくないのだけれど。
(つづく)
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