12:15
小屋と神社の隙間にある階段を登っていくと、急に景色が開けた。
裏手はすっかり木々がなくなり、一面の笹だった。
毎年野焼きをやって、木々が生えるのを人工的に防いでいる・・・というわけではなさそうだ。標高の高さの割には木がなさ過ぎる。つまり、それだけここの気候が過酷だ、ということだ。
冬になるとかなり冷えるらしいし、おそらく風も強いのだろう。その結果、笹くらいしか生えない山頂になってしまっている。
でも、そのおかげでこんなに楽しい山歩きになる。見ろ!一面の笹と、木道!
12:15
晴れていればさぞや景色が良いのだろうけど、もう笑っちゃうくらいしかないくらいの、濃霧。
しょうがないね、元々こういう天気だったし、こういう天気が続くから、木々が生えない笹だらけの山頂なんだろう。
山頂付近には木道がいくつも走っている。むしろ、木道以外は歩かせないぞ、ということでもある。
以前、この広々とした山頂を登山客が踏み荒らし、はげ山みたいになってしまったことがあるらしい。その結果、今は木道を整備して、木道以外は歩かせないということになっている。
地図を見ると、あちこちに「テラス」という木道による広場が作られていることがわかる。おそらく、ここからの眺めは絶景なのだろう。今日?冗談言うな、今日は何一つ見えないぞ。ひたすら真っ白だ。
山頂広場とも言える広い空間の真ん中に、デン!と設置されているのはトイレだった。
ひっそりと設置しないで、なんでこんなに堂々としているんだ?トイレなのに?と不思議だが、たぶんバイオトイレだから、という理由なのだろう。
バイオトイレを設置するためには、
トイレから左手に向かう木道と、テラスが見える。
こっちは山頂ではないので、行かない。
このあありは笹ではなく、雑草が生えている地面になっている。ひょっとして、これが「踏み荒らされた場所」なのかもしれない。山の上なので、1年2年で植生が復活するわけではない。
そんな中、朽ち木が転がっているのが見える。
元々あそこに、山小屋かトイレがあったのかもしれない。幾何学的な配置をしているからだ。あっ、これこそがオカルト的要素のある「遺跡」・・・なわけはないか。
この倒木を見て、1989年の「大雪山SOS事件」を思い出した。
今となってはほぼ全容が解明されているが、当時は「謎の事件」としてミステリーだった。
山腹に、大きな倒木を並べ「SOS」という文字を作った遭難者。しかし、そんな体力があるなら、なぜ自力で登山道に復帰できなかったのか?そして、遭難場所で発見された遭難者の遺品の中にカセットテープがあり、救助を求める音声が録音されていた。聞かせる相手がいないのに、なぜ録音をしたのか?さらには、「遭難したのは男性一人のはずなのに、男女二体の遺体が現場にはあった」などの情報が錯綜し、本当に不思議な事件だった。
↑のまとめサイトやWikipediaでは、さすがにネタバレ的に全容の説明が行われてしまっていて味気ないが、状況がよくわかっていなかった当時は「やべー事件が起きた!」と思ったものだ。ああそうだ、こういう情報も「ムー」で仕入れていたのかもしれない、当時の青年おかでんは。
12:17
それにしても、霧が濃い。
木道があるので道迷いの心配はないけれど、視界は100メートルもない程度。
こんなん、山頂に立っても「ああそうですか」としかいいようがない状態じゃないですかーやだーもー。
木道を歩く。平坦な道、というわけではない。もうちょっとだけ、登りにおつきあいください。
前方に、何やらアンテナが見える。
木道のベンチと、アンテナ。
昔、ここには測候所があったらしい。標高1,900メートル超の場所にある測候所、ということで、貴重な存在だったという。なにしろ、富士山山頂にあった測候所の次に標高が高い測候所だったのだから。
しかし、今はその役割を終え、2001年以降はただ単なるオブジェとなっている。気象レーダーの発展で、標高が高いところにわざわざ測候所を作る必要はなくなったからだ。
運用されていた期間中は、真冬にマイナス23.5度、積雪量292センチを観測したこともあった。マジか。マイナス23.5度って、四国でもたたき出せる数字なのか!北海道以外、日本じゃありえない数字だと思っていた。しかも3メートル近い雪だなんて。
そういう情報を仕入れてから、改めて周囲を見渡す。
そりゃー、笹畑になりますわ。木が生えていられる環境じゃ、ない。
12:20
山頂が見えてきた。
12:21
剣山、標高1,955メートル山頂。
ケルンでもなく、鳥居でもなく、あるのは土俵のようなものだった。しめ縄で取り囲まれている。
見の越にあるリフト乗り場から起算しても、わずか50分で山頂に到着してしまった。
事前の計画で想定はしていたものの、こんなに楽に登れたことにびっくりしてしまった。なにせ、リフト乗り場終点の西島からだと、30分しか経っていないのだから。
この山の場合、登山そのものよりも「登山口にたどり着くまで」のハードルが高い。
(つづく)
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