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ぶっちゃけ、雪室見学そのものは大したものではない。かき集められて貯蔵された雪を見て、おしまいだからだ。
その雪が何かイイカンジにベルトコンベアに乗ってゴウンゴウンと移動していたり、真っ赤に熱せられた鉄を冷やしていたり、そんなインダストリアルな光景は一切ない。
単に、寒い。
愛息の社会科見学的要素を兼ねて、なんていって子供を連れて行っても、子供は大して喜ばないだろう。
いや、夏に訪れるなら別よ?「夏なのに雪がある!」と大興奮するかもしれない。でも、今は冬。もうそこら中に雪があるわけで、別に今更屋内の雪を見ても興奮はしない。
とはいえ、こういうのはロマンですよロマン。
「へえ、こうやってゆっくりとお酒は熟成を進めていくのか」
なんて知った上で、いざそのお酒とご対面したら・・・そりゃあきっと、欲しくもなるだろう飲みたくもなるだろう。どうぞいっちゃってください。
焼酎の貯蔵がメインらしいけど、清酒の古酒もここでは熟成されている。
ウイスキー樽かと思ったら、米焼酎の貯蔵樽だった。「本格米焼酎」と焼き印が押してある。
清酒を造る場合、大量の酒かすが出るわけだけど、それを蒸留してアルコール分だけ抽出したものがいわゆる「かすとり焼酎」。一方、酒かすではなくもろみから焼酎を蒸留すると、「本格米焼酎」ということになる。八海醸造では両方を作っているらしい。
雪室見学のルート最後は、建物の奥に、人知れずひっそりとある試飲コーナーと、その手前の貯蔵庫。
昨年もこの光景は見た。
既に瓶詰めされた米焼酎「面向未来」がずらっと並べられている。
要するに、ワインセラーと一緒だ。クラウド焼酎セラーとでも言おうか。既にお客様に売却済みの焼酎だけど、飲み時が来るまでここでお預かりしている、というわけだ。
たっぴぃさんが何やらしゃがみ込んで瓶を見ている。
どの瓶も同じに決まっているんだけど、何に熱心になっているのだろう。
「結構このお店、買い占めてますよ」
言われるままに瓶を見る。なるほど、飲み屋でボトルキープをしたときみたいに、瓶には「持ち主は誰それ」というラベルが貼ってある。そして、ずらりと並ぶ瓶のうち、結構同じ名前やお店が連なっていたりするのだった。
「そりゃそうか、お店で出そうと思ったら、1本だけ!というわけにはいかないですもんね。まとめて買っておかないと」
おみせの在庫が切れるまでは、低温で安定した温度であるここで保管してもらっている、というわけだ。なるほどねぇ。
雪室を見た後、ああいう貯蔵を見ると「面向未来、ええやんけ」という気持ちになってくる。
この焼酎は限定品につき、思いつきで買えるものではないらしい。申し込みが必要になる。
で、その申し込みを試飲コーナーで受け付けていたのだけど。。。おおう、値段がすごい。4合瓶で1万円。まじか。焼酎だぞ?目を疑ってしまった。細かい話だけど、税別価格だし。
そのかわり、この雪室で、来たるべき日まで保管してくれるサービスがセットになっている。「結婚した年に買いました。金婚式の日に開栓して祝いたい」なんていうのも、ひょっとしたらアリかもしれない。50年保管してくれるかどうかは、要確認だけど。
(この文章を書いている時に確認してみた。最長5年なんだそうな。さすがに50年は無理だった)
そんなわけで、立派な証明書が付いてくる。額縁に入れて飾りたいくらいだ。なんとも、大げさなお酒があったものだ。
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で、試飲コーナーですよ。
この試飲コーナーの場所を考えると、雪室見学ツアーに参加した人向けのものなのかもしれない。でも僕ら、昨年はツアーに参加していないけどここで試飲させてもらった。誰でもウェルカム、全然オッケーらしい。
ずらりと並ぶお酒。
下品なお客さんなら、エッヘッヘと笑いながら「おい兄ちゃん、右端から片っ端にくれや。おっと、試飲の小さいカップなんていらんで。大きいカップで頼む」なんて言うだろう。
僕らはお酒大好きな人が何人もいる集団だけど、そんな下品なマネはしない。
酒が飲めない僕としては、せめて酒飲みたちがあれやこれやワイワイ飲み比べして、「こっちの方がうまい」「いやこっちの方が」と議論している様子を観察したい。でも、彼らは大人の余裕で、静かにお酒を数種類、試していた。
悔しいので僕は「贅沢あまざけ」をあおるのであった。
あと、「乳酸発酵の麹あまざけ」なるものがあったので、これは是非お土産に買って帰ろう。
八海山のノーマルのあまざけは、結構最近東京都内のスーパーでも見かけるようになった。
どれを試飲するか吟味中の人々。
それこそ、「全部飲んでみよう」と思えば手っ取り早いのだけど、なにせ種類が多い。味比べをしているうちに訳がわからなくなるので、目星をつけてから。これが大人。
カウンターに陣取っている、八海醸造の方にお話を聞きながらお酒を試すひとときは最高。
この酒蔵では、数年前に瓶を全て王冠に戻したのだ、という。ええ?そうなの?よく見ると、並んでいる全部の瓶が、王冠だった。スクリューキャップのものが何一つない。なんで?と聞くと、「スクリューキャップにすると、瓶の形が悪くなるから」だって!これには驚いた。
確かに、言われてみれば王冠を採用した瓶だと、口の部分がしゅっとしていて美しい。でもなんでそこまでこだわるの?
八海醸造の方は仰る。
「なかなかお酒が飲まれなくなってきている時代に、こだわりを持ってものづくりをしていかないと、生き残れない」
と。なるほど、味だけでなく、デザインもこだわるのはそういうことなのか。
「八海山」とラベルに大きく書かれたお酒の他に、「越後で候」というお酒も見受けられる。
「これは?」と聞くと、冬季限定の生原酒なのだという。
右の「越後で候」は、10月から3月までの期間限定で販売される「しぼりたて生原酒」。精米歩合60%。
「折角だから、八海山ではないお酒を飲んだらどうです?」
と、酒を飲まない僕は適当にみんなをけしかけ、飲んでもらった(実際は、越後で候も八海山シリーズの一つだけど)。すると、みんな「うまい」と絶賛する。へええ、知らなかった、そんなに美味い酒がまだあったなんて。
しかも左の「越後で候」は、その荒々しい生原酒を1年貯蔵したものだという。比較としてこれを試したみんなが、さらに「うまい」という。いい熟成具合らしい。
どういいのか、僕自身飲んでいないので全然わからないのだけど、原酒ならではのツンツンした感じがほどよくほぐれ、でもフレッシュさが残っている、みたいな感じ?いや、わからん。
いずれにせよ、お酒を試した全員が褒めたのが、この「越後で候1年貯蔵」だった。
(つづく)
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