16:14
八海醸造の「魚沼の里」を後にした我々は、次なる目的地に向かった。
昨年も「魚沼の里」を訪れたことがある僕らにとって、この目的地は「今回の観光の目玉」とも言える場所だった。
トミオカホワイト美術館。
昨年の「のっとれ!」の際、「魚沼の里」近辺を車で走行中に気がついた美術館だ。カーナビの地図上に美術館のマークが表示されていたので、「なんでこんなところに美術館が?」と不思議に思い、調べたのがきっかけとなった。
そしたら驚いた、「トミオカホワイト美術館」という名前じゃないか。いや、何に驚いたって、なんかすげえ名前だな、ってことで。トミオカホワイト、という会社の名前なのだろうか?塗料とか染料を作ってそうだ、なんて車中で話題になったものだ。
早速スマホを取りだしてトミオカホワイトの正体を調べだしたおーまさんが、
「富岡惣一郎、って作家の作品を展示する美術館らしいですよ」
と探り当てた。
「でも、なんでトミオカホワイトなの?」
「雪の絵を描くために自分で開発した、独特な白い絵の具があるらしいですよ。それをトミオカホワイトと呼ぶらしいです」
「へええ」
そして、この富岡惣一郎氏が、雪の景色を取材するために、ヘリコプターをチャーターして空の上から雪を観察していた、なんていう豪快なエピソードがわかるにつれ、「それだったらぜひ来年、見に行きたい!」と思うに至ったのだった。
で、きっちり念願叶って、今年トミオカホワイト美術館へ。幸い、「魚沼の里」からほど近い場所にある。
トミオカホワイト美術館。
客は僕たちだけだった。
がらん、とした広い体育館のような空間に、富岡惣一郎の作品だけがずらりと並んでいる。
言っちゃ何だが、聞いたことがない作家さんだった。
でも、作品を見た全員が、「ううむ、これはさすがだ」と唸った。
いまいちな作品の美術展に行ってしまった場合、人間というのは本当に見事に早足で通り抜けるものだ。でもどうだ、我々は男も女も関係なく、じっくりと作品を魅入っている。それくらい、「なるほどさすがはトミオカホワイト」と言わしめる作品だった。
どういう作品かというと、↑の魚沼の雪山の写真のまんま、といった感じ。
おそらく、キャンバスの下地を黒く塗り、その上にご自慢のトミオカホワイトを塗っているのだと思う。あ、嘘だったらごめん、たぶん推測なので。
で、その上塗りしたトミオカホワイトの塗料を削っていき、ところどころ下地の黒い色を露出させていく。その結果、折り重なる山々の重厚さや、雪の中にたたずむ木々を表現している。この白黒のコントラストが、なんともいい具合なのだった。
美術館の中には、マグロ包丁かと思えるくらいの、長ーいペインティングナイフも展示されていた。富岡惣一郎が使った絵描き道具は、彫刻家のようなものばかりだった。それもまた、興味深かった。訪れて良かった場所。
16:47
トミオカホワイト美術館を後にし、ようやく我々は宿を目指す。ちょっと急がないと。
なにせ宿は、今いる南魚沼市の先・十日町市、さらにそこを素通りした上越市だ。すまん十日町市、せっかく「のっとれ!」でお世話になるのに、お金を落とせていない。いずれはまた、昔のように十日町市に宿をとりたいものだ。
さて、上越市の宿に向かう前に、買い出しをしておかないと。お酒を飲む人たちにとって、宿に泊まるということはすなわち部屋飲みがあるぞー!ということだ。
一昔前は、「飲食物の持ち込み禁止」を標榜する宿だらけだったけど、最近は良い時代になったものだ。飲み物でも食べ物でも、持ち込んでも文句を言われなくなった。まあ、昔が暗黒時代だっただけで、持ち込みOKの今が当たり前なんだと思う。
保健所からの指導が云々、って宿側は言うけれど、ホントかあれ?
それはともかく、コンビニの駐車場に停車していた雪かき用の重機は、ガンタンクみたいな無限軌道が取り付けられていた。かっこいい!きっと、コアファイターに分離できるはずだ。
ファミリーマートとAコープの合体版、というのがこの地域には存在するのだな。
最近はコンビニとドラッグストアが融合していたり、いろいろあるものだ。ここで買い出しを敢行。
やあ、今日は飲むものがいっぱいだ。ただでさえ、一升瓶の「越後で候」があるというのに。しかも原酒の古酒だぞ。酔うぞ、こりゃあ。明日がレースだなんて、誰も気にしちゃいねぇ。
17:16
日が傾いてきたので、宿に向け急いでいた。
しかし、それを遮ったのが「冬季閉鎖」のバリケード。えー、六日町から十日町まで通じる主要道路の筈なのに、通行止めにしちゃってるの?まじで?
さっきから迂回ルートの案内がちらほら見えていて、「そんな馬鹿な」と思っていたんだけど、馬鹿は自分だった。
去年はここをスイスイと気持ち良く走ったのに。なんてこった。
カーナビ上では、そんな迂回ルートは存在しないのだけど、どうやら新しいバイパス道を開通させたらしい。
地図上は大回りになるけれど、走りやすく除雪された道が新たに用意されていた。国道253号線はこっちに付け替えられたらしい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E7%AE%87%E5%B3%A0%E9%81%93%E8%B7%AF
これにより、この道は冬の除雪は放棄され、雪に閉ざされてしまっているというわけだ。2017年秋に新ルートが開通したそうなので、我々が知らなくて当然だ。
18:15
「越後まつだい冬の陣」の会場では、今まさにイベントをやっているようだったけど我々はびゅーんと素通り。
松之山温泉に向かう分岐も、素通り。ごめん。
そしてそのまま上越市に入り、さらに山奥に分け入る。今回の宿「うしだ屋」は古民家宿みたいなところだ。かなり古い農家の建物を、意欲的なご主人が改築し、奥様とともに民宿として営業している。まだ開業して半年も経っていないんじゃなかったかな。
よこさんの知人がこの「うしだ屋」ご主人の知り合い、ということで、そういうルートで今回の予約に至っている。
時期がよければ、アイガモ農法のお手伝いができたり、里山トレッキングツアーをやってくれたり、いろいろなアクティビティがあるようだ。なかなかに楽しそうだ。
松代からは車で25分~30分程度。マイカーまたはレンタカーなどがあれば、「秘境」と呼ぶには大げさな距離感だ。しかし、公共交通機関+宿の送迎にお任せ、となると結構なハードルになる。興味がある方はガンバレ。
「うしだ屋」に到着したときは、既に日が沈んでいた。
写真を見ると、まだ明るいように見えるけど、これは高感度撮影をしているからであって、実際はかなり暗い。
「おい、あれが『うしだ屋』か?」
「ナビ上ではたぶんあれなんだけどな」
「でも、新しい施設だし、ナビには正しく載っていないんだよなあ」
若干疑心暗鬼になりながら、車を停める。
ちょうど宿(?)の前には車を停めるだけのスペースがあったので、そこに駐車。
それにしても周囲の雪山たるや。除雪した結果こうなったのだろうが、さすが豪雪地帯だけある。
この雪が溶けるまで、ずいぶん時間がかかりそうだ。
おそらく夏になれば、このあたりは田んぼが広がっているのだろうけど・・・。
「うしだ屋」がある界隈の集落。
「集落」といっても、建物が軒を連ねているわけではなく、ぽつん、ぽつんと距離が開いている。
こんなところに民宿を開く、というのはものすごい度胸と勘の持ち主だと思う。僕みたいなチキン野郎だと、事業計画がどうたらこうたら、とグズグズしているまま、絶対にこういうところで宿は作れない。もう、この光景を見た時点で、「ああ、僕はなんてつまらない人生を歩んでいるんだ」と自己嫌悪になる。大げさだけど。そして、こういうところでも、どっこい宿を営んでるぜ!というご主人を無条件で尊敬してしまう。
(つづく)
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