
12:23
ちょっとした月形町観光を終えた我々は、お昼ごはんの準備にかかる。
僕は、車を運転しているということもあって、「日帰り組」のお迎えに行ってきてくれ、と頼まれた。ようやく、今日の早朝に東京を発った2名が月形近くまでやってきたようだ。それにしても、既に今日はお昼。月形町観光も終え、さてこれからお昼ごはんを食べて、月形から退却しましょう・・・という段階での到着だ。それでもやってくるというパワーにつくづく敬服する。
嫌味とか皮肉じゃなく、本当にそう思う。こういう、打算じゃないところで動ける気持ちって素晴らしい。昔の僕にはそういう勢いがあったかもしれないが、今や薄れてしまった。
僕はもともと体力とか運動能力が優れているわけではないので、肉体面での「老い、衰え」というのはあまり感じない。しかし、こういう若さゆえの勢いがあるヤツらの振る舞いを見ると、ハッと我にかえる。「あ、これは今の僕なら無理だ」と。人のフリ見て我が老いを知る。
そんな勇者ともいえる仲間たちを迎えにいく。国道275号線を札幌方面に走ること20分強。北海道医療大学駅が待ち合わせ場所だ。
地震のために不通となっている札沼線の、終着駅。
ここから先は「学園都市線」という愛称になり、さらに架線が敷かれ文字通り「電車」が走る。新千歳空港から1時間30分~2時間近く。今日東京からやってくる二人は、本当に長い旅路だ。
駅のロータリーで合流、二人をピックアップして月形に戻る。1名は初対面の人で、1名は何度か会ったことがある人だった。ふたりとも女性だ。
「間違えて別の車に手を振っちゃいましたよー」
合流するやいなや、旧知の仲間は照れながらぼやく。どの車で迎えに行くか連絡がついていなかったため、「それっぽい車がロータリーにやってきた」というだけで思わず手を振って出迎えてしまったらしい。
せめて運転手の確認くらいすればいいのに、なんて思っちゃいけない。この北海道医療大学駅、がらんとしたロータリーは僕らだけしかいない。客待ちのタクシーもいないし、人の往来も殆どない。だから、つい「あっ、車が来た!」ということで嬉しくなってしまって、全然関係のないクルマに手を振ってしまったらしい。
一方、初対面のもう一人は、上下ともにジャージ姿だった。
「ひょっとして東京からジャージで?」
「そうなんですよ、新千歳空港から近くにハタケがあるって聞いていたので、朝も早いしジャージでいいかな、と思って」
なんてぇ人だ。僕はかなりびっくりした。まだ見ぬ強豪現る、だ。だって、いくら農作業があります、日帰りです、といっても、羽田空港だの新千歳空港といった人の多い場所を通るわけで。しかも、飛行機に乗るし、都内を電車で移動する。
あと、そもそも「空港近くのハタケ」に行く予定は地震のためキャンセルになり、その結果こうして月形にやってきている。微妙に情報がアップデートされていない。結果的にこうして月形までたどり着いたからいいけれども。なんか豪快だ。
全員が揃うまでの間、月形に留まった人たちはお昼ごはんの準備を進めていた。今日は収穫したてのトマトを使って、ピザ窯でピザを焼くのだという。それはいいねぇ。

そんなわけで、ピザ窯を十分に予熱して僕らの到着を待ち構えられていた。
「北の里泊ネット 里の魅力発見ツアー」と記されたパンフレットがある。ここに書かれている、「畑で収穫、手ぶらでピザ」というコースをこれから僕たちは体験することになるらしい。
ええと、なんて書いてあるんだろう?
石窯ピザハウスをレンタルいたします!
すぐに使えるように石窯の火入れ、ピザ材料一式をご用意し、皆様をお迎えいたします。ピザの焼き方など最初のレクチャーの後、お客様自身で焼いていただきます。自分では無理!という皆さんには担当スタッフを付けることもできます。飲み物の持ち込みOK!
だそうだ。
これは楽しみだ。

12:23
トマトがみっちり植わっているビニールハウスに入る。
厳密に外と中が仕切られているわけではなく、風が吹き抜ける。ハウスとの境界には、ロープが通せんぼしている程度だ。
「さすが北海道、開放的だ。盗る人がいないのだな」と思ったけれど、別にそんなわけではないことを後で知った。
トマト栽培は、雨が苦手だ。強い雨で跳ねた泥が茎や実に付着すると、土壌菌のせいで傷む。また、急に雨が降ると、熟したトマトに水分が押し寄せて皮が破裂する。適切に水分をコントロールするための、雨よけハウスなのだった。

ハウスの中は、みっちりとトマトが詰まっていた。

もはや自分が当たり前すぎることを言っていて恥ずかしいのだが、トマトって一房の中でも成長に差があるのだな。根元に近い方が熟するのが早く立派な赤に染まっているけれど、先っちょの方はまだ緑色だ。
こういうのを見極めつつ、どのトマトを摘むかを検討する。

いろいろなトマトが栽培されている。一つのトマトばかりを探していないで、ハウス内の別の場所に行くとまったく異なるトマトが見つかる。ただし収穫できるかどうかは、トマトさんのご機嫌次第。この写真のトマトはちょっとまだ早そうだ。

まるで虹の色のように、色がグラデーションになっているプチトマト。
「食べどき」の色がよくわからないので、オレンジのやつは摘んでいいのか、それともまだ早いのか判断が難しい。

みんなで収穫したトマトあれこれ。
観光いちご農園でのいちご狩りみたいに、「時間制限!食べ放題!」という制度じゃないので、みんな非常に落ち着いて余裕を持った収穫となった。お金を払って時間制限あり、なんて言われたら、ついつい食べもしない量を収穫してしまいそうだ。

ハウスから出て、今度は屋外の畑に別の野菜を収穫しにいく。
コテージガーデンの方が育てているそうだが、こういう家庭菜園的なものを月形温泉ホテルのすぐ脇でできてしまうのが北海道の雄大さだ。まだ畑にさえなっていない、単なる空き地がいっぱいある。

なにか赤い茎の植物が植えられている。なんだろう。

丸い球が地面から飛び出ていて、そこから茎と葉っぱが育っている。へんな植物だ。
見慣れないと思ったら、これがビート(てんさい)だった。へー。社会の授業で「砂糖の原料」として習ってはいたけれど、畑に生えている実物を見るのは初めてだ。

広大な空き地と、ところどころ畑。
いや、空き地じゃないのかもしれない。何も知らないで「空き地」と呼んだら、地主さんに怒られるかもしれない。




いろいろ説明を受けながら収穫してまわった。内容は忘れてしまったのが悔やまれる。

13:15
野菜の収穫がおわり、ピザ作りに取り掛かる。
やー、素晴らしいな、すでに寝かせて発酵が済んでいるピザ生地がスタンバイされている。これを使ってガンガンピザが焼ける。

それなりに人数がいることだし、形が不格好でも具が適当でも、どんどんピザを成形して次々窯に投入していく。

ピザが焼けたぞー。
熱いうちにザクザクと切り刻み、どんどん食べていく。「ピザは冷めたらおいしくなくなっちゃう」と言いながら、みんなあっという間に食べる。これはたのしい。

なにしろ、具がこれだもの。さきほど畑で採ってきたばかりの野菜を刻んで、フィーリングでピザのトッピングにしていく。今回はこの野菜がメインで、とか今度は少なめで、とか。あとはオリーブオイルをかけてモツァレラチーズを載せて焼けば、どうやってもうまい。どんな配合でも、うまい。

いやぁ、恐るべしピザ。
屋外料理といえばバーベキュー、というのはもう時代遅れかもしれん。焼き肉だのバーベキューというのはたのしいし今後も受け継がれるアウトドア文化だけれど、「屋外でピザ」というのはもっと評価されてもいい、もっと流行ってもいい。
なにしろ、具はシンプルでもバッキバキにうまいんだから。最高じゃねぇか。そして、スペシャル感がとてもある。さすがに家でピザは焼かないから。せいぜい、オーブントースターで冷凍ピザを温めるくらいだ。
あとはどうやってピザ窯問題をクリアするか、だ。今後、こういう体験農場のような施設や、キャンプ場ではピザ窯があって当然、くらいになってもいいかもしれない。
(つづく)
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