イノシシ肉をたくさんごちそうになったお昼休みの後、午後の「実技」の時間となった。
参加者は用意された車に分乗し、あぜ道を進む。
なんの変哲もない道だ。12月なので稲刈りは終了していて、広々とした空間が広がっている。しかしここは丘陵地帯なので、山の斜面や谷に沿って田んぼが作られている。いわゆる棚田だ。
不便なところから耕作放棄地になっていき、手入れされないままにしているとそこにイノシシがやってくる。まさにイノシシと人間との領土争いの最前線だ。こんなのどかな景色なのに、戦闘地域に見えているのは平和ボケだ。
イノシシは山奥に住んでいるように思いがちだけど、実際は森の辺縁に住んでいるという。せいぜい山に入って100メートル程度までに住んでいて、夜になると里に下りて餌をあさる。そして、しばらくすると数キロ単位で別の場所へと移動する。
シカの害もさることながら、ことさら農家の方やハンターの方がイノシシと対峙しているのは、シカが一度に一匹しか子供を産まないのに対し、イノシシが4~5匹産むからだ。ねずみ算ならぬ、イノシシ算がこの世界の現実だ。どんどん駆除していかないと、増える一方となる。
鋸南町がある房総半島では、人間を除くとイノシシが生態系の最上位に位置する。クマもいないし、オオカミもいない。なので、イノシシを人間が駆除していかないと、なかなか数が減らない。
水仙があちこちに咲いている。
このあたりは水仙が名物で、ちょうど12月~1月にかけて水仙が見頃を迎える。「水仙まつり」というイベントが開催されるし、切り花として盛んに出荷されている。
結構どこにでも咲いている。畑の種が飛び散って、畑ではないところに咲いているのだろう。
水仙には毒がある。葉っぱはニラに似ているけれど、うっかり食べてしまうと食中毒を起こす。10グラムで死ねるので、ニラ玉炒めなんぞに誤って使ってしまうと、救急搬送間違いなしだ。そんな馬鹿な、ニラと水仙を間違えることなんてあるものか、と思っていたけれど、こうやってあっちこっちに水仙が咲いているのを見るとあながち嘘じゃなさそうだ。ニラ畑の中にうっかり水仙が紛れ込まないとも限らない。
棚田があるところと、山の際。
ここがイノシシと人間とのにらみ合いの最前線となる。こんなところが・・・とは思うが、夜になると真っ暗だ。人間が常駐して見張るわけにもいかないので、イノシシのやりたい放題になる。幸い今は田んぼの収穫が終わっているので取られるものはないけれど。
広場のような場所だけど、おそらくここはちゃんと手入れをしているのだろう。耕作放棄された土地をそのままにして草ぼうぼうの荒れ地にすると、イノシシが里山にやってくる前線基地になってしまう。そうさせないために、見晴らしが良くイノシシを警戒させるような緩衝地帯を人間が設けているわけだ。
この下草刈り、大変だ。ここ一か所だけで済むわけでなく、町中のいたるところでイノシシ対策をしなければならないのだから。
青々とした下草の一部が踏み固められたような場所があった。
そこに丸い粒が沢山溜まっている。イノシシのフンだ。やっぱりこんなところにも出現するのか。
イノシシが荒らしていった場所。イノシシは餌を探して地面を掘り返す習性がある。
講師の方に教えてもらうと、なんとなくイノシシの動きが見えてくる。
なんの変哲もない草だけど、よく見ると葉っぱに泥がついている。不自然だ。
イノシシやシカは水浴び、というか泥浴びをする習慣があり、そういう水たまりの場所を「ヌタ場」と呼ぶ。ここで泥を浴びて、体についた寄生虫を洗い流す。
泥がついた葉っぱが地面のあちこちにあるということは・・・あった。確かに、ヌタ場があった。そうか、ここにイノシシがやってくるのか。
ヌタ場周辺は地面がぬかるんでいる。そういうところは、よく見るとイノシシの蹄の跡が残っている。害獣の息吹を今、間近に感じる。
イノシシのあとを追いかけていってみると、イノシシはそのまま斜面をズルズルと滑り降りて、水仙畑を荒らして姿を消していったことがわかった。かなりしっかりヌタ場で泥をぬりたくるようで、非常にわかりやすく泥による痕跡が草にべっとりついていた。
毒がある水仙だけど、イノシシにとっては関係ないようだ。せっかく売り物として育てていてもイノシシが根こそぎひっくり返してしまったり、なぎ倒していくそうだ。泥がついた水仙はもう売り物にならない。
そして、根こそぎひっくり返された水仙の球根を、今度はシカが食べるのだという。いや、球根も十分毒があるのに、イノシシもシカも一体どうなっているんだ。
(つづく)
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