講師の先生から、ジビエ肉について解説を受ける。
イノシシ、鹿に代表されるジビエは、野生のものであるため個体差が激しい。山にどんぐりがたくさん実って、脂が乗った肉のときもあれば、その逆もある。また、「生後◯ヶ月で出荷」などと決まっている、食肉用の動物飼育と違って野生の生き物だ。年寄りの場合もあれば、若いときもある。
年によって出来不出来があるのは、天候に左右される農作物だって一緒だけれど「動物の肉」ともなるとその差がより顕著になる。調理をする方は大変だ。
そして、仕入れという点においても、大変だ。安定供給ができない。ジャブジャブ流通するほど豊富に出回っていないので、寿司屋の大将が魚市場の仲卸の店先で魚の目利きをするように肉を選べない。
料理人というのは、その料理を振る舞って、対価を得て初めて商売が成り立つ。お店のメニューに載せられるかどうか微妙、という食材は扱いが難しい。
野にはイノシシが勢力拡大し、鋸南町界隈もどんどん数が増えている。でも、ジビエ肉として大量供給し、害獣駆除と新規ビジネス開拓ができないのは忸怩たる思いだろう。なにせ、流通させるための施設、人員、予算の手配ができない。
鋸南町の町長が仰っていたが、と畜場を自前で作ろうとすると、初期投資で数千万円がかかり、それ以降も維持費がかかるのだという。町としてその負担は重く、現状は自前で設備を設けられていない。外部に流通させる場合は、館山市の施設を使うのだという。
実際、今回使っている肉も、実は鋸南町ではなかったような気がする。記憶が曖昧で誤っているかもしれないけれど、「えー、そうなんだ!」と思った記憶がある。「猟師さんがバーベキューでイノシシ肉を焼いている場でご相伴に預かる」のは、猟師さんがさばいた肉をそのまま食べられるけれど、こうやって料理実習イベントで使う肉はちゃんとしたルートを通さないと駄目、という現状。しっかりしている。
で、講師の先生が仰る。「グラム500円とかで、いい牛肉とイノシシ肉、どっちを選びますか?、とお客さんに聞いたら、殆どのお客さんは牛肉を選びます。」。この言葉はとても印象的だった。そうかー、価格帯でいったら、ジビエ肉と高級肉というのはバッティングしてしまうのか。そこまでして、ジビエが食べたいですか?という問いになってしまう。
「もっと普及すればいいのに!なんで食べられるところが少ないんだろう」と、飲食店の先見の明のなさを嘆いていたけれど、とんでもない。そんな高くて、流通量も品質も安定していない食材を扱うのが大変なんだ。しかも、冬季限定になるし。
イノシシ肉、うまいんだけどなぁ。正直、鹿肉は食べられなくても「まあいいか」という気にはなるけれど。
いっそのこと、イノシシを生け捕りにして、それを牧場で飼育してから出荷すれば品質も、出荷時期もコントロールできて良いのではないか?と思う。それについて聞いてみたら、徳島県だかどこかでそういう「養殖イノシシ」の取り組みはあるのだという。ああ、やっぱりそうか。
でも、まずイノシシを生け捕らないといけないので大変で、コストが余計かかってしまう。大規模にやれるものではない。狭い豚舎に入れて飼育すると、おそらくイノシシ独特の分厚くて弾力のある脂身にはならないだろうし。
イノシシのバラ肉。
素晴らしい。なんだこの脂身の分厚さは。というか、殆どが脂だ。そして赤身の色の濃いことよ。
豚に似て非なる生き物、それがイノシシ。
臭みもあるので、しっかり茹でないと。
なんかいろいろ写真を撮っているけれど、なにきっかけでシャッターを押したのか覚えていない。
一つ言えるのは、「プロが使う包丁ってのはやばいくらい細身で、シュッとしてるなぁ」ということだ。切れ味をいつも維持しているのだろう。
バラ肉の角煮を作っている状態。
もうね、脂身だらけで何を煮ているんだかよくわからない。ホルモンを茹でているかのようだ。
付けあわせの野菜。
ごっつりしょうがを入れる。やっぱりイノシシ肉は匂いがあるんで。
アクが多く出るような印象を受けるけど、気のせいかもしれない。
茹で上がったところ。
イノシシ肉とは、脂を楽しむ食べ物だ。マジでそう思う。
焼き肉にしても実感できるけれど、豚の脂身のようにグニグニしておらず、食べるとコリコリしている。それがうまい。
ここから味付けのため、落し蓋を入れて再度煮る。
ご飯を炊いているところ。
プロが米を研いでいるところを見ていると、すごくおいしそうに感じる。じゃっ、じゃっと切れ味鋭い音をたてて米を研ぐのが心地よい。
出来上がった一品目。
猪味噌煮。ご飯は鋸南町の「地すべり米」。
よく、ワインや清酒は「ご当地の酒と食材を組み合わせて飲むとうまい」という。ご飯もそうだと思う。たぶん。地すべり米で食べるイノシシ肉はうまかった。
(つづく)
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