近場の無縁だからこそ【甲府滞在記】

今回、電動アシスト付き自転車をわざわざ借りたのは、街歩きの範囲を拡張したかったからだ。

飲み屋が連なる繁華街界隈を歩いて探検するだけでも十分楽しいのだけど、それだと移動できる範囲がとても狭くなってしまう。今回目指すのは、本日のお昼ごはん候補地・蕎麦店の「専心庵」を最南端として、最北端は甲府駅を越えた北側の「武田神社」を予定している。

これだけの距離を徒歩で移動すると、ちょっと時間がかかりすぎる。かといって、カーシェアやレンタカーでビューンと突っ走るとあっという間すぎて、甲府という町を楽しめない。自転車がちょうどよい塩梅だ。

あと、車を借りるのがイヤなのは、「せっかく車があるんだから、もうちょっと遠出もできるよね」と欲張り始めることだ。笛吹川沿いに点々とある、ぬるめのお湯が湧く温泉なんぞに立ち寄り湯してみようか、とか、リニア新幹線が作られるところを見に行こう、とかあれこれ地図を見て考えてしまう。交通手段を限定することで、自分の可能性を奪ったほうが我が身のためになる。

蕎麦ずくし

そんなわけで、川を越えて目指したのは住宅地の中にある蕎麦店、専心庵。

確か翌日が休みだったはずで、今日訪れる必要があった。「あてもない旅」を装っているけど、やっぱりガチガチにあっち寄って・こっちで食べてということを計算しまくっている。悪い癖だ。

でも、専心庵の「蕎麦ずくし」は蕎麦をあれこれ食べられてよかった。満足。

自転車があったからこその、お店。甲府駅界隈から歩いてくるにはちょっと遠い場所だ。そしてバスなどの公共交通機関を使っても、バス停から歩く場所にお店がある。

12:39
専心庵で蕎麦を食べたあと、また繁華街に戻ってきた。

安易に「繁華街」と読んでいるが、このあたりを総称して「甲府中央商店街」と呼ぶらしい。実際には井げた状に複数の商店街が組み合わさっており、「春日通り」や「オリオン通り」という名前がそれぞれつけられている。天井の高いアーケードがしっかりとあって、立派だ。

ただ、昼間ということを差し引いても、シャッター街になっているのがわかる。

僕の知っている商店街は以前アーケードがあったのだけど、維持コストがかかるということで大規模修繕のタイミングでアーケードを壊してしまった。商店街の衰退というのは、アーケードの有無である程度推し量れる。ここはまだしっかりしたアーケードがある。

ちなみに、アーケードを取り壊すと、これまで「アーケードの屋根で見えていなかった建物の壁」がむき出しになる。そのため、商店の1階部分はきれいなのに、2階以上が無防備で油断しまくった外壁になっていてちぐはぐな見た目になる。こういうのが是正され、もとからアーケードがなかったかのような見栄えになるのは、どうしても10年単位くらいはかかってしまう。ちなみにその商店街は、今はむしろ薄暗いアーケードがあった時代よりも明るく良い雰囲気になった。雨の日は濡れるけど。

で、話を戻すと、春日通りにある中華料理店が次なるターゲットだった。

中華料理?さっき蕎麦を食べたのに?

はい、すいません、あれも食べたいこれも食べたいとお店を抽出していると、1日3食じゃ足りなくなったんです。さっきのはあくまでも「遅い時間に食べた朝ごはん」という位置づけにさせてつかぁさい。

で、この中華料理店、店の名前が「さんぷく」という。地元民に愛されているお店と聞いた。

ぱっと見た目、ごくふつうの町中華店だ。餃子もあります、ラーメンもあります、チャーハンもあります。しかし特徴的なのが、メニューの先頭が「つけそば」だということだ。

このお店の名物はつけそばで、お店としても自信をもって提供する一品、ということらしい。

つけそば?つけ麺みたいなものか。あれ、僕はあんまり好みじゃないんだよねぇ。腹が減った!大盛り無料目当て!というときじゃないと、頼まない料理だ。

と、思うでしょ。違うんだこれが。

甲府における「つけそば」とはこれだ!ということで、あんかけの具だくさんつゆが写真になっていた。

これはつけ麺とは別ものだな。この具だくさんのとろみがついたつゆに麺をくぐらせてから食べるのか。へー。

つけそばは790円だけど、ピリ辛風味の辣醤(ラージャン)つけそばは850円。

せっかくだから、辣醤つけそばにしてみよう。「大盛」とか「W盛」というのもあるけれど、さすがにそれはいい。さっき食べた蕎麦がまだお腹のなかにあるんだ。

12:56
うん、これは確かにうまいな。

激ウマ!甲府に来る機会があればぜひ!というほどの味ではない。でもそれは褒め言葉で言っている。すごーく地に足のついた、地元の人が繰り返し訪れて何度も何度も食べ続けられる、そんないい味だからだ。瞬間最大風速がすごいのではなく、月単位、年単位での持続力がある旨さ。

これはつけそばでなく、ラーメンの形態でも食べてみたいものだ。でも、この辛いスープを味がついていない中華麺で薄めつつ食べる、このバランスというのが大事なのかもしれない。最初っから麺がスープにどっぷり浸かっているよりも、このつけそばの形態のほうが美味しいのかも。

13:07
「さんぷく」のすぐそばが、「KOFU101」というビルだった。なにこの「渋谷109」を真似たような名前。

もともとがなんの建物だったのかは不明だけど、少なくとも今はイベントスペースになっている。クラブイベントが行えたり、コンサートが行えたり、椅子に座って講演を聞くようなこともできる。4種類のスペースが用意されているというのだからなかなかなものだ。でもなんで「KOFU101」なんだろう。

このビルの正面にはデュオヒルズ甲府、という下は店舗で上はマンションというビルが建っている。いわれを調べてみたら、もともとはここにダイエーがあったらしい。で、破綻したあとに建てられたのが今のデュオヒルズ甲府となるのだが、そこに至るまでの経緯をWikipediaで読むとドタバタが結構すごい。

甲府銀座ビル - Wikipedia

土地の買い手が現れたけど税務署に差し押さえられた、みたいな話が立て続けに起きていて、紆余曲折っぷりで一つのドラマができそうだ。でも、そのドラマの結末が「マンションが建ちました」では視聴者はカタルシスがないけれど。

僕みたいな東京住まいの人間は「駅前だし、県庁所在地だし、もっと賑わってもいいのに」と思う。しかし、このWikiを見て、さらに現地を見て納得させられる。ああ、駅から徒歩圏内でない人は、もうすっかり自動車移動が当たり前になってるんだな、と。そうなると、駅前の渋滞や高い駐車場代を嫌って、人々は郊外店舗を使うようになる。「駅前一等地」という言葉があるけれど、こんなのは車を日常使いしていない人のセリフだ。

で、結果的に郊外にあるイオンなんかが賑わうのか。なるほど。

「郊外に住んでいる人は車を持っているので、辺鄙なところであってもイオンモールに人は集まる」ということを頭ではわかっていても、知識としてわかっているだけでいまいち腑に落ちていなかった。でも、今こうやって甲府の商店街を歩いてみるとよくわかる。駅前に人がわざわざ集まる必然性がない。

その結果、シャッターを締めた店や、駐車場になった店舗跡地があちこちにある。

その点すごいのは、札幌だ。ススキノなんて、あっちこっちに巨大ビルディングとしての立体駐車場が立ち並び、遠方からの集客ができている。札幌は町が広すぎて、結局中心に集まってきている。

13:11
次に訪れたのは、「印傳博物館」だ。

印傳博物館

ここを訪れた際の訪問記は、別記事で書いている。

これまで、印傳なんていう概念を知らなかったので、知ることができてとても勉強になった。こういう知識との出会いも、旅行の魅力だ。しかも、自転車でキコキコ自己判断で漕いでいるからこその出会いだ。

13:42
繁華街のど真ん中にカフェがあるらしいので訪れてみた。

「隠れ家カフェ」とは聞いていたが、あまりに小さくて思わず素通りしてしまった。

一度目は本当に素通り、二度目は「えっ、ここにお店が?・・・うーん、シャイな僕にとっては敷居が高そう・・・」と素通り、三度目はしばらく遠くからお店の形や流儀(注文してから席につくのか、席に店員さんがオーダーしにくるのか、など)を見極める。僕は恥をかきたくない、という気持ちが強い人間なので、初めてのお店に入るときはすごく慎重になる。おどおどしたくないからだ。

それにしても狭い。このお店、客席はないのだろうか?テイクアウト専門店のようだ。

しかし、しばらく観察していると、お店の中に吸い込まれていくお客さんがいる。あれ、奥があるのか。

おそるおそるオーダーして、客席があるという二階に向かう。二階に通じる階段は、狭くて肩幅くらいしかない。

で、疑い深い目で二階に上がってみると、驚いた!こんな空間があるのか。

いいね、ここ。週末になると若い衆がいっぱい座ってにぎやかになるのかもしれないけれど、今日は静かだ。

13:46
窓際のカウンター席に座ると格別だ。

眼下には繁華街。でも、窓ガラス一枚隔ててその賑わいとは隔世の感がある静かな空間になっている。

14:01
すっかりご満悦になって、ついエスプレッソとマフィンを食べてしまった。

ちょっと食べすぎだ。

席に座って腹ごなしをしつつ、さらに食べ物を胃袋に入れるという矛盾した展開。おかしいな、今日は療養ということで静かに過ごすはずだったのに、あっちこっちウロウロするやら、食べ歩くやら。

それでも頭がザワザワしないのは、甲府という町が東京と比べて穏やかな雰囲気を醸しているからだ。ギスギスした情報に地上から空のすぐ下まで埋め尽くされた東京のビル群とはちがう。

便利であり、おいしいものもありながら都会の喧騒を少し忘れさせてくれる。甲府って、実はナイスポテンシャルな地方都市なのではなかろうか。下手に「近くて交通の便がいいから」と熱海に行くよりも、こっちのほうが心が落ち着きそうだ。

(つづく)

コメント

タイトルとURLをコピーしました