12:34
土砂降りというほどではないけれど、どっしりとした雨が振り続ける中自転車で標高を上げていく。
行く先々で黄色や赤色に色づいた木々が目を楽しませてくれるのだけれど、とてもそういうものを愛でる余裕がない。急な坂道を登っていて立ち止まるわけにはいかないからだ。
そして、顔やメガネが濡れてしまわないように、うつむきがちになっている。とても顔を上げている余裕なんてない。
12:51
前方に建物が見えてきた。冷泉小屋だ。
冷泉小屋は当分の間休業中のようで、建物が完全に閉まっていた。2022年夏にリニューアルオープンを目指しているそうだ。リニューアルの暁には、シングル部屋やダブルベッドやツインベッドの二人部屋などがある、ちょっとリッチな山小屋に様変わりするとのこと。
こんなところに山小屋が!?とびっくりするが、だからこそ休業になってしまう。なにせ、マイカー規制がある以上、往来する人のほぼすべてがバスまたはタクシーで素通りしてしまう。少人数のサイクリング客、さらにもっともっと少ない、中腹から歩いて登ってくる人相手じゃ、さすがに商売が成り立たない。
リニューアルしたあと、どの程度繁盛するのか楽しみだ。
13:15
冷泉小屋界隈は、「エコーライン」の名前にふさわしいつづら折れの道が続く。つづら折れている分、坂が楽ちんに作られていればまだいい。でも実際は全然楽じゃなくて、ときおり自転車から降りて押して歩かないとやってられないほどの傾斜になった。
時間がどんどん過ぎていく。
雨はまだいい、この程度の雨が続くんなら、我慢はできる。しかし、とにかく時間が足りない。日没までになんとか乗鞍高原に戻って来られればいいや、というわけにはいかないんだ、僕らは。だって、レンタサイクルだから。
16時までに自転車を返すことになっているけれど、もう・・・タイムオーバーだな、これは。下りはシューッとあっという間にイケるとしたって、この雨の中だし急傾斜だし、スピードが出せない。
15時までに畳平に到着して、さらに下山を開始していれば16時のリミットには間に合うかもしれない。でも厳しいなあ。急ぐと、事故の元だし。
この先、折り返すとすると「位ヶ原山荘」のところがよいきっかけだ。どうやら今回は時間切れギブアップ、という結論にしたほうが良さそうだ。
13:25
というわけで位ヶ原山荘が見えてきた。ここは先程の冷泉小屋と異なり、ちゃんと現在も営業している。一体誰が使うんだ?と不思議だけれど。宿泊だってできる。
位ヶ原山荘は、つづら折れの道が一段落したところにある。ここから道のクネりかたが少し変わってくるので、また変化に富んだヒルクライムができそうなんだけど・・・厳しいな、時間が。気力も体力も、まだあるんだけどなぁ。
一旦休憩しなくちゃ。
いきなりここでUターンして下山開始、というわけにはいかない。レインウェア越しに身体が濡れて冷えているし。
ということで、ここ位ヶ原山荘、標高2,350メートルをギブアップ地点とすることに決めた。残念。
看板の写真を撮って、屋内に入る。
現在地2,350メートル、ゴールの畳平は2,710m。残り標高差は360メートルだった。
ここまで標高850メートルを稼いできたわけだけど、まだ全体の7割程度しか登れていない、ということだ。
道なりには16キロ進んできたことになり、残りあと5キロ。
ああ、この地図を見て諦めがついた。残り5キロ、標高差360メートルを1時間そこらで登れるとは思えない。ギブで正解。
すでに山の稜線もうっすら見え始めている場所なので、ここで諦めるのは残念だが・・・。
仕方がない!
と自転車をバーにひっかけ、建物に入る。
ここで休憩する、という時点で今回のヒルクライムはゴールにたどり着けなかったことが確定した。休憩して気力を補ってから先を目指します、が許されない時間だからだ。
位ヶ原山荘に入ると、土間に机と椅子が並べられた広い空間がそこにはあった。窮屈さが当たり前な山小屋とは全然違う。
何が違うんだろう?と思ったら、なるほど天井が吹き抜けなんだな。だから贅沢な空間だと思ったんだ。
そんな天井からはランプが吊り下げられ、僕ら以外誰もいない空間を照らしていた。
柱に取り付けられた温度計を見ると、24度になっていた。室内は暖房がきいていて温かい。でも外は10度程度しかないんじゃないか。この暖かさは身にしみた。
(つづく)
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