おかでん結婚式前後のできごと【倉敷・吉備路】

2019年12月07日(土)

結婚式前日。

挙式は岡山県倉敷市で執り行われるので、新幹線で移動する。

いつも、いしが旅行するときは「夜勤明けで寝ていない状態で移動」だったが、さすがにこの日ばかりは有給休暇を取得した。

車内で、結婚式に参列した人たちに手渡す手土産に封入するメッセージカードを書く。


僕らが結婚するとなったとき、父親から言われたのは「式は上げなさい。人生のけじめだ」ということだった。昨今、入籍だけで式を行わないパターンが多くなってきているが、そういう流れに予め釘を刺したかたちだ。

じゃあ親族友人を集めてそれなりの規模でやるのか、というと、父親は「(親族さえ呼ばない)家族だけで良い」という。「友達を呼びたければ、後日改めてお披露目会でもなんでもやればいい、結婚式は最小限のメンバーだ」という考えだ。

おかでん家は家父長制が相当に強く、基本的に父親が言ったことに子は逆らえない。というか、親は口も出すけど金も出すので、子どもである僕も逆らう気にならない。

そもそも僕の場合、結婚式を盛大に行いたいという欲がぜんぜんない。45歳ともなれば、結婚式に関する憧れも希望なんてすっかり忘却している。いや、自分の人生でそういうことを考えたことすらない。だから、家族葬・・・じゃなかった、家族婚というスタイルにはまったく抵抗がなかった。

33歳のいしにとっては、この家族婚スタイルはちょっと残念に感じたかもしれない。まだまだ周囲の友だちが現在進行系で結婚式を挙げている年頃で、式に呼ばれる機会がそれなりにある。また、大学時代の友人との付き合いもしっかり残っている。その点では申し訳ないと思っている。

ただ、いしとしても遠方の友人に声をかけるとなると、挙式日時が遅れることになって都合が悪かった。なにしろ、翌年にはアフリカ赴任が控えていたからだ。姓やら戸籍やらが変わるとなると、数多くの事務処理に支障が出る。早く入籍して一段落することは彼女にとってもマストだった。

アフリカに行くためには黄熱病だのなんだの、予防接種のスケジュールがタイトだし、ビザ申請も相当前から段取りが必要だ。

結婚式と披露宴は両家の家族(親兄弟とその配偶者、子ども)のみとし、親族お披露目は別途後日、ということになった。友人対応についてはおいおい、個別対応。

親族お披露目については、いし家側のみで行われた。おかでん家親族に対しては、ハガキでの結婚報告やお宅訪問によるご挨拶程度で済ませた。というのも、おかでん45歳ともなると、親族の多くがご高齢で、一同に集めるのが大変だったからだ。

晩婚というのは、親族も高齢になるのだ、ということを今更理解した。いっぽうのいし家は、まだ親族が若い。

結婚式を挙げるにあたって、お互い特定の宗教とかスタイルに対するこだわりはなかった。

ただ僕は、キリスト教を模したかたちでの挙式はイヤだった。僕の出自がカソリック系の学校で、在学中はミサに何度となく参列していたからだ。結婚式場でよく見かける牧師さん風の方?のあのやり方はどうも演劇っぽくて好きじゃなかった。

僕の学生時代の友人で、ちゃんと式の前に何度も教会に通ったのちにカソリック教会で挙式した奴がいる。彼は信者ではないものの、教会で挙式するために手順を踏んだ。一方、僕の場合はそこまでやる気がない。

一方で、神道式の挙式というのもなんだかなあ、と思っていた。

披露宴会場を兼ねるホテルの一室での神式の結婚式に参列したことがあるが、これもやっぱり演劇っぽく感じたからだ。

ちゃんと神主さんや巫女さんが神社からいらっしゃって、正しく儀式を執り行ったのだけど、ホテルの一室という時点でコレジャナイ感を覚えたものだ。

かといって、家族しかいない式で、わざわざ「人前婚」というのも微妙だ。

だったら、ということで神社そのもので式を挙げることにした。

ちょうどおかでん家が氏子になっている神社が立派で、拝殿で式を挙げることができるらしい。これだったら、式が神道であること、そして「なぜこの場所で式を挙げるのか」という意味がちゃんとある。

いしも、「それならば良いのではないか」と快諾してくれ、結婚式を岡山県倉敷市の阿智神社で挙げることになった。

夕方、結婚式を取り仕切ってくれるウェディングプランナーさんと最終打ち合わせをする前、二人で「夢空間(サロン)はしまや」というカフェに行く。

もともと、「はしまや」という呉服屋だった蔵造りの大きなお屋敷だけど、その脇道から建物裏手の蔵に入ったところがカフェとしてひっそり営業している。

狭い石畳の路地がながーく続いているので、初めての人は「えっ、本当にここに入っていいの?」とドギマギする。僕がそうだった。

今はこうやって黒板の立て看板が出ているからユーザーフレンドリーになったけど、昔はこんな看板はなかった。「知る人ぞ知る」という隠れ家だった。

路地をずーーーっと歩いていった先に、裏口がある。

倉敷のお屋敷は、高い外壁と外蔵に囲まれている城塞都市だ。そのところどころに裏口があって、普段はぴったりと閉まっている。ここは蔵と裏庭に通じる裏口で、カフェ営業をしているときだけ引き戸が開いている。

大きな蔵なのだけど、席数はそれほど多くない。さらにはイベントが行われていて喫茶営業をしていない日もあるので、行ってみて中に入れないことが多い。穴場の筈なんだけど、なかなか利用ができない。

この日は夕方ということもあって、客は僕たちだけだった。すんなりと入ることができた。

キッチンの前にあるカウンター席、その上のロフト席。

そして1階席。長机を中心に席がいくつかある。

バスク風チーズケーキとコーヒーをいただく。

なお、「夢空間はしまや」は後日カフェ業態を終了させ、「季節を味わう暮らしのピクルス+発酵サロン atelier & salon はしまや」としてリニューアルオープンしている。

このとき訪問できて良かった。

「夢空間はしまや」で何をやっていたのかというと、参列者に手渡すお土産を手提げ袋に詰めるのと、新幹線で書いたメッセージカードを添えることだった。このあとウェディングプランナーさんにこの荷物を預け、会場への搬入をお任せする運びとなっている。

ウェディングプランナーという職業は激務だと聞いていたが、実際僕らの対応をしてくれた方も相当忙しそうだった。今回、結婚式場とは直接関係ないブライダルコーディネート会社に依頼したため、各種調整に手間取ることになった。

たぶん、ホテルや結婚式専門会場で挙式し、プランナーも施設に所属する従業員さんだったら話は早かっただろう。式場の入り口にウェルカムボードを出すかどうかとか、ウェディングケーキのサイズを変更すると費用はどうなるのか、などこちらが質問をすると、独立系会社だといちいち各方面に確認するため、情報のバケツリレーが発生する。そのため、回答に数日を要するし、抜け漏れも多発した。

結局、抜け漏れに業を煮やした僕がExcelで「課題管理表」を作り、進捗管理を行うことになった。

「どのような未解決課題があるのか」「いつまでに解決しなければならないのか」「誰がその課題に対処するのか」「重要度」「解決期限」「現在の状況」などを整理し、その課題管理表をもとにプランナーさんとメールでやりとりをしていた。

結婚式2週間前くらいになると、片付かない残課題に僕はすっかり疲れ果て、「もう知らん」とさじを投げていしにプロジェクトマネジメントを丸投げした。それくらい、些細なあれこれが結婚式にはたくさんあった。

シンプルなお食事会形式の家族婚でさえこれなんだから、数十名規模で式を挙げた人には本当に頭が下がる。決めなくちゃいけないことが山積みだっただろうし、参列者の人数が増える分配慮しなくちゃいけない事項が多いはずだ。

僕らの場合、式を神社で挙げて、会食は別の場所で行われる。タクシーを使った移動があるし、着付け場所の手配も必要だ。一か所ですべてが終わる結婚式・披露宴は楽だと思う。

会食を行うのはホテルのレストランだ。実はそのホテルにもウェディングプランナーは在籍していて、当初はそこにまるっとお願いする予定だった。神社の手配もホテルにお任せできるので、本来的には一番てっとり早い。しかし、独立系ブライダルコーディネート会社と相見積を取ったところ、同じ神社、同じレストランでも独立系のほうが安かった。悩んだ結果、独立系にお願いすることにした。

なんでホテルに直接申し込んだ方が高くついたのかというと、結婚式当日に着る呉服のレンタル費用の差だった。ホテルが提携している呉服レンタル屋さんの服は値段相応に素晴らしかったのだけど、高かった。ホテルがいくばくか仲介手数料を取っているのかもしれない。

いっぽう、独立系会社のほうは自前で呉服レンタルを行っていて、その分安くついた。

男性の場合、どの和装だろうが大して値段に差はない。いっぽう、女性の白無垢の場合、「赤の差し色が入っていると高くなる」とか「刺繍の立体感があると高くなる」など、良いものに目を奪われていくとどんどん高額な方向に向かっていってしまう。独立系会社の場合、その料金差が少なかったのが決め手となった。

死に装束の白い浴衣とはわけが違うんだな、と当たり前すぎることに僕は感心する。「たかが白い服」じゃなくて、近くで見ると服ごとに全然個性が違う。奥が深い。

結局、会食や着付け場所については独立系会社のプランナーさん経由でホテルのプランナーさんに相談がいくという二重構造になった。ホテルのプランナーさんには申し訳ないが、一応ホテルの売上にはちゃんと貢献したので許してほしい。

2022年12月08日(日)

結婚式当日。

13時に神社で神前式を挙げるにあたり、着付けのためにホテルに10時に集合。

男性である僕はチョロいものだが、いしはヘアメイクさんによる髪のセットで1時間、着付けに1時間という大掛かりな展開になっていたようだ。この後、おかでん母の着付け、いし母の着付けも行われ、分刻みの段取りだ。

いし一家は静岡に住んでいるのだけれど、この日にあわせて深夜2時に静岡を車で出発して10時には岡山に到着した。僕はこの計画を聞いたとき、「すげー危なっかしいな」と思って再考をお願いした。だって、高速道路で事故があって通行止めや渋滞があったら、いし一家がまるごと式に欠席する可能性があるからだ。そうなると、「単なるおかでん家のお食事会」になってしまう。

結婚式はやり直しがきかないんだし、そういうリスクはとらずに前泊してくれないか、とお願いしたが、結局いし一家のスケジュールの都合で当日強行軍となった。

結果、時間内に全員が岡山に到着できたから良かった。

心配性の僕は、「もし渋滞が起きた場合、速やかに下道におりて新幹線に乗換えてほしい」と事細かに代替案を用意して先方に渡してあった。「●●インターを朝▲時までに通過できていなかったら、✕✕駅から■時発の新幹線に乗って岡山を目指す」というものを何パターンも用意した。心配しすぎだが、高速道路でビューンと長距離移動することを前提とした行動計画だと、「高速道路が混んでいるので下道に回避」したら遅刻となる。そりゃあ心配しますよ。

この日、幸い渋滞や事故はなかったものの、若干認知症を発症している親族1名が「夜中に身支度して出発」ということに驚いてしまい、「絶対に行かない」と言い張り家から出ることを拒み、あわやという展開になったのは事実だ。夜中2時に電話がかかってきて、いしが一生懸命電話口でなだめるという場面があった。

それはともかく、着付け後に記念写真を1枚撮っておく。これはやっておいて良かった。

結婚式にはプロのカメラマンが帯同し、あちこちで「さすがプロ!」という写真を撮ってくれる。しかしそれにお任せしていると、「結婚しました」という速報を友人知人親族に周知する際の写真が手元にない、ということになる。なにしろ、プロが撮った写真がこちらに引き渡されるのは、1ヶ月以上後のことだからだ。

自分たちでも写真を撮っておくのは大事。

結婚式を挙げる阿智神社。

着付けを行ったホテルからタクシーで移動する。

本来なら歩いて行ける距離なのだけど、山の上にある神社なので、石段を和装のいしが登るのは無理だった。

ちょうど拝殿に吊り下がっているしめ縄が新しいものにつけかえられたばかり。作業を終えた人たちが後片付けをしているところだった。そうか、正月の初詣に向けて、ちょうどこの時期にしめ縄を新しくするのだな。

結婚式当日に新しいしめ縄、というのはなにか幸先が良い。青々としたしめ縄が嬉しい。

ちなみに、当初は11月中の挙式を模索していた。12月に入ると、神社で式を挙げるとなると寒いんじゃないか、と心配だったからだ。あと、いしのアフリカ赴任の話もあって、できるだけ早く挙式としたい事情もあった。

しかし、11月の神社はというと、七五三という一大イベントの真っ最中。お参りやご祈祷が多く、式が挙げられない日程がいくつもあった。この拝殿での挙式ではなく、境内の裏手に新しく建立された「祈祷殿」という建物でなら式が挙げられる、と言われたが、「いやあ・・・ピカピカの新しい建物でなら、風情がないよねえ」ということで却下。

結局、拝殿での昇殿参拝にこだわった結果、12月に日程がずれ込んだ。なお、暦の上では仏滅。慶事を執り行うには縁起が悪いとされる日だけど、神前式なんだから「仏滅」は関係ないだろ!ということにした。

・・・なお、こういうことも、いちいち両家の関係者に了解を事前に取った。本人たちがこれでいいと思っていても、慶弔がらみの儀式に口数多く助言してくる親族というのはいるらしい。僕らは結婚式というイベントを通じ、「段取りと根回し」の大事さを改めて学んだ。

(つづく)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

コメント

コメント一覧 (5件)

  • ご結婚されたんですね。おめでとうございます。20年近く前、カレーのまんてんとえぞ松の記事を拝見し、その後は牛サシか何かでお店の全メニュー制覇など、楽しく読ませて頂いておりました。久しぶりに閲覧し、コメントをさせて頂く次第です。

  • idekenrrさん>
    お祝いメッセージありがとうございます。久しぶりのこのサイト、外観も中身もすっかり変わってしまって驚かれたと思います。
    「美貌の盛り」をやっていた頃から基本的に何も変わっていないつもりなんですが、昔連呼していた「無茶してナンボ」という言葉は今だと全然使わなくなったな、とふと気づきました。無茶できなくなったんだろうなぁ。
    また20年後、「まだやってたのか」とidekenrrさんから言われるよう、これからも頑張ります。

  • おかでん殿
    結婚式前後の事連載が完結してからコメントさせていただこうと思い、遅くなりました。
    連載もさぞ工夫された事とおもいます。
    今まで通りのアワレみ隊ontheWeb連載の流れで、スペシャルイベントを違和感なく読ませていただきました。
    奥様そしてご子息と末永くお幸せに!
    にしても両家参列の式とは言え準備がこんなにも大変だったとは…。
    自分達は諸事情により2人だけで新婚旅行を兼ねてのラスベガス挙式(ジョン・ボンジョヴィと同じチャペルを妻が熱烈希望)だったので、現地日本人コーディネーターにお願いしたくらいですが。
    話は飛びますが、高校野球選抜大会の日程次第では、大阪から広島へ延泊してますゐ訪問を企んでおります。昼・夜・昼&特ランチ弁当なんてシミュレーションし始めただけで涎が止まりません!

  • 軍曹殿>
    ラスベガス挙式すげー。そんなことをやっていたんですか。しかも2人だけって、逃避行みたいですごいですね。
    そういえばラスベガスって、質屋とチャペルが非常に多かったような気がする。
    結婚もギャンブルといいますが、軍曹殿はそのギャンブルに勝ったようでなによりです。

    ますゐ詣で、ぜひご堪能あれ!僕も最近のますゐについては全然疎いので、最新情報入手のために足繁く通ってみてください!!

  • おかでん殿
    事実上の高飛びってやつです。
    その前は同級生とか野球部同期の友人達がお祝いの会を開いてもらったので、感謝しています!
    (実家出禁も半年後には解除されました。)

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください