チェックイン後、しばらくお風呂でのんびり過ごす。
ああ、大浴場はいいなあ。やっぱり、家の風呂とは違う。
これまでも繰り返しこのサイトで書いてきたことだけど、「さあ、くつろぐぞ」という覚悟が自宅と宿とでは違う。宿だと、「泊まってしまったからには、もう腹をくくってのんびりしよう」という諦めがつく。それが、僕にとって最大の癒やしだ。
たとえば、風呂に30分でも1時間でも浸かっていようという気になる。家のお風呂だと、こうはいかない。10分から15分で風呂から出ようとする。なぜなら、風呂から上がってあれをやろう・これをしなくちゃ、という次のToDoが頭の中にぐるぐる回っているからだ。
しかし宿だとこうはいかない。風呂から上がっても、やれることは限られている。少なくとも、「家の床をモップがけしよう」なんていう家事は無理だ。だって外出先なんだから。だから、長風呂ができる。
長風呂をすると、だんだん頭のノイズが溶けてくる。一発目の風呂では、湯船に浸かりながらあれやこれや雑念が頭をよぎるのだけれど、露天風呂や内風呂、水風呂を行ったり来たりしているうちにだんだん雑念を考えるネタが切れてくる。苛立ちなど負の感情が落ち着いてくる。これだよこれ、この境地を求めてきたんだよ。
特に今回発見したのが、「水風呂はいい」ということだ。何を今更って?うん、僕もそう思う。今更ながらの実感だ。
よく、サウナ愛好家が「何回かサウナと水風呂を往復していると、『整う』のである」と言っていて、なんのこっちゃ?と思うことがあった。しかし今回、それがよくわかった。あっ、整った、と。
彼らが言う「整う」というのは、僕が温泉などで感じている「雑念が消えていく」ことと同じか、似たものなのだと思う。
僕はこれまで、ザワザワした脳を落ち着かせるために温泉旅館を利用してきたが、そこには水風呂はなかった。温泉にひたすら浸かって、のぼせたら湯船の縁に座って身体をゆっくりと冷まし、そしてまたお湯に浸かった。このだらっとした時間を経ることで心が落ち着いてくるものだと思っていたが、「水風呂で急激に身体を冷やす」とそれが早送りされる、ということがわかった。あんまり人にはおすすめできないけれど。
この感覚、何かに似てるな・・・と水風呂に浸かりながら考えたら、思い当たるフシがあった。ああ、どこかに身体をぶつけて、痛くてうずくまって動けなくなっているときだ。そのときはショックを受けて、脳が「神経回路を生命維持の方向に全振り」しているのだと思う。
水風呂もそれに近い感覚を受ける。これまで大脳新皮質の神経がずっと興奮しているような状況だったけど、水風呂にザブンと浸かって生命の危機を疑似体験させると、もっと脳の奥のほうの、原始的なところに神経回路が切り替わる感じがする。
お風呂と水風呂を何度か行き来していると、「そうか、あれこれ考えたり悩んだりしなくてもいいんだ」ということを脳が納得するようになる。
水風呂を使わなくても、お風呂だけでもこの境地にはたどり着けると思うけど、短時間で仕上げるには水風呂はすごいショートカットだと思った。
日が暮れたので夕食を食べに行くことにする。
脳を休ませたい僕にとって、夕食をどのお店にするかというのは非常に面倒くさい。なので、いしにお店選びは任せた。時期が時期だけに、素敵なお店を選べば良いというだけでなく、密っていないことも大事だ。混んでいる飲み屋に行くのはとてもまずい。そういうのも考え出すと、また脳が疲れてしまう。
甲府に来る前、僕が1年半前に甲府を訪れた時に撮影した写真をいしにも見せていた。予習として。その中に、焼き鳥屋で「食べ飲み放題2,980円」という看板を掲げているお店の写真があった。当時の僕が、「へえ、焼き鳥食べ放題ってちょっとめずらしいな」と思ったからだ。
いしもそれは面白がって、今晩の夕食場所探しでそのお店を探してくれた。しかし、「つい先日閉店してしまったらしい」とのこと。コロナの影響なのか、なんなのかは不明。残念だ。
ところが、この甲府には同様の「焼き鳥食べ飲み放題」のお店が何軒かある、ということがいしの調査でわかった。なんだそれ。甲府の密かなブームなのか?
飲み放題のお店、というのは珍しくない。団体向けコース料理を出すお店なら、飲み放題は当たり前の部類だ。しかし「食べ放題」のお店というのは、2020年夏においてそんなに多くはないと思う。
「どういうお店で食べ放題ってあるだろう?」
「中華料理のイメージですかね」
「確かにそうだね、横浜中華街にはテーブルバイキングの食べ放題がたくさんあるし。・・・あと、焼肉屋も食べ飲み放題があるな。他には?」
「うーん」
あんまり記憶がない。もちろん、あらゆる飲食ジャンルで食べ飲み放題のお店があるはずだけど、「よく見かけるよね」と共通認識になるほど食べ放題が定番なジャンルというのはあまりない。
にもかかわらず、甲府には焼き鳥を中心とした食べ飲み放題を標榜したお店が何軒もある不思議。
「鳥もつ煮が名物なので、もつ以外が余ったんですかね?」
「まさか」
むしろ逆で、鶏肉の消費が多いから、余ったもつを有効活用しようとして鳥もつ煮ができたんだと思う。
気になったんだから実際に行ってみないと。今晩は「焼き鳥食べ飲み放題」のお店に行くことに決めた。
幸い、甲府というのは「鳥もつ煮」「ほうとう」「フルーツ」といった名物があるものの、それ以外のすげえ名物があるというわけではない。海産物が豊富なわけではないし。なので、居酒屋で夕食となっても全然悔しくはない。東京からはるばるやってきました、というほど遠方ではないので、「せっかくだから地元のものを食べなきゃ!」と肩にチカラを入れなくてもいい。何を食べたっていい。
ホテルから徒歩5分くらいで、目指すお店にやってきた。予めいしがお店に電話をかけ、お店が空いているということは確認済みだ。
そのお店の正面には、別の食べ放題のお店があった。ここも候補の一つとして上がっていたお店だ。すげえなあ、商店街を挟んで向かい合って食べ放題の居酒屋があるなんて。
で、今回お邪魔したのが「じゃじゃまる」というお店。
約100種類のメニューで、食べ飲み放題2.5時間で2,800円(税別)。やっすぅ。
さすがに東京でこの値段は無理だ。もしこの値段が実現できたとしても、相当クオリティを落とすか、訳ありの何かがないと。
お酒を飲まない僕はまったく居酒屋にいかないし、旅行に行ったならなおさら居酒屋は縁遠い。しかしこれだけ安いと実に面白い。どういうメニューがあるのか、どういうお店なのか、何も情報を持っていない分、ワクワクが高まる。
はあー。1名様からでも食べ飲み放題ができるのか。
「放題」というのは案外制約が多く、「2名様以上じゃないと駄目」などという人数制限が結構あるものだ。または「コース料理を頼んだ方限定」とか。このお店は、1名様でもオッケーというから太っ腹だ。大食い・大酒飲みの人がやってきても歓迎だよ、というわけだ。
席に通されたら、すぐに店員さんが隣の席との間に屏風をすっと差し挟んだ。飛沫感染防止のための配慮だろう。
どうしてもお酒を飲んでいる人は声が大きくなり、動作も大きくなりがちだ。隣でそういう人がいると勘弁して欲しいわけだが、こういう気配りがあると少しは安心感がある。
ちなみにこの店はかなり証明が薄暗かった。居酒屋というのはコンビニのように明るい照明のお店はないと思うが、だとしてもここは相当に暗い。バー並だ。
「薄暗いほうがオシャレ、みたいな考え方なのかな?」
「暗いほうが声のトーンが落ちるから、わざとじゃないですか?」
なるほどそれは確かにそうだ。暗いと、ついついヒソヒソ声になる。その結果、飛沫拡散が防げるならこれがwithコロナにおける居酒屋のあるべき姿なのかもしれない。
新型コロナ対策として、壁にはお客さんへのお願い事項が書いてあった。3か条で、
- 大声で話す
- コール
- 席の移動
は控えて欲しい、とのこと。ごもっともだ。
ニュースで「四人がけの席で、十字型のアクリル板で一人ひとりの空間を仕切った居酒屋」が紹介されているのを見たことがある。冗談のような光景だけど、お店は大真面目にそういう取り組みをやっている。
どこまで気を遣うと正解なのかやりすぎなのか、誰もわからない。このお店の場合は、こういう「客の自主性を信じる」ことで対処している。
いずれ、七輪を使った焼肉屋のように、換気扇がついた煙突がテーブル中央に設置されるような時代がくるかもしれない。
ああこれこれ、「のんすとっぷとりぱ」。2.5時間3,270円(税込)。
ノンストップなのは当然といえば当然だ。「ちょっとタンマ、休憩」というのが飲み食べ放題であったら、それはそれでびっくりだ。
お品書きを見てみる。もちろん焼鳥がバーンと載っている。
「のんすとっぷとりぱ」を頼むと、最初焼鳥盛り合わせ10本が出てくるのだという。
メニューは豊富。えっ、焼鳥だけが食べ放題じゃないんだ。一般的な居酒屋メニューがあれこれなんでも食べられるのか。こりゃいいな。
やばい、シメからデザートまでいろいろある。
まずは乾杯。
ノンアルコールビールが置かれていないのが唯一の残念なところだけれど、僕はソフトドリンクを飲む。
このあと、頼んだ料理の写真が延々と出てくるので文章は省略。
なるほど、頼むと結構な量の料理が出てくるのだな。
まさか甲府に来て、かつおのたたきを食べるとは。
鶏の唐揚げもバクバク食べる。
ふたりとも健啖家なので、こういうとき「カロリーが」とか「胃もたれが」という消極的な話題がでないのがいい。
焼鳥10本!
甘くないノンアルコールドリンクがもっと増えて欲しい・・・。緑茶、烏龍茶以外で。せめて炭酸水くらいは欲しい。「お茶だと面白くないので」とつい甘いドリンクを頼んでしまうのだけど、当然料理とはあわない。
あさりの酒蒸しを食べながら、いしがしみじみと言う。
「ああ、いいですね。案外こういうのって、食べないですよね」
そのとおりだ。そもそも僕は居酒屋にいかないのだけれど、誰かの送別会だとか懇親会ということでお酒を供するお店に行く機会は少しながらある。でもその際のお店選びは、大抵「ちょっと面白い料理を出すお店」とか「雰囲気の良いお店」という場所となる。場所に話題性が求められる。
なので、昔ながらの定番なメニューを揃えた居酒屋、というのはむしろ縁遠くなっている。だからこそ、今日みたいな機会にバクバク食べると、「久しぶりだなあ、懐かしいなあ」とにっこりしてしまうのだった。
どれだけ食べてもお値段一緒!というのも楽しい。じゃあこれも頼んでみよう、あれも頼もう、という気になる。
焼鳥追加注文。
ハムカツなんて普通頼みませんよ?
でも、食べ放題だからこそ頼んでみようという気になるのです。
焼鳥さらに追加。
砂肝炒めと、クワトロフォルマッジという謎すぎる組み合わせだってへーきへーき。
せっかくだから焼鳥を浴びるように食べたい、ということでさらに焼鳥を追加。
案外食べないものなのですよ、焼鳥って。
本日のシメ。チュロスと、信玄アイス。
やばい、お腹いっぱいになってしまった。
特にワイワイガヤガヤしているお店ではなく、快適に過ごすことができた。そしてお店の外も、人混みでゴチャゴチャしていることがない。ちょっとよるの商店街を散歩して、そのままホテルへ戻る。
(つづく)
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