15:00
みよりふるさと体験村に向かっているはずだけど、大幅に脇道にそれて大笹牧場へ。日光霧降高原の麓、折り重なる山々の合間にある一息つけるオアシス。
「だいたいみよりふるさと体験村方面」のつもりで車を走らせたが、予想以上に時間がかかってしまった。これはちょっと誤算。いや、カーナビで到着予定時刻が表示されているので誤算もへったくれもないのだけれど、「ワンチャンどうにかなるかも?」という無意味な考えで突撃してしまった。
どうにかなるんだったら、ナビの到着予定時間というのは意味がない。どうにかならなくて、予定通りの時刻に到着して、さすが最近のナビ、とアホみたいな感想を抱く。
僕自身は何度かここに来たことがある。それでもまたここに来たのは、いしが訪れたことがない、というからだ。
夫婦になると、「お前よりも僕の方が詳しいマウント」なんて無意味だ。それよりも、お互いが共通の知識と体験を持っていて、事あるたびに「あのときはこうだったよね」「ほら、前に行ったあそこに似てるよね」などと会話ができることが大事だし、それが幸せなことだと思う。
僕といしとは干支が一回り違う年齢差だ。僕もいしも知らない場所を目指してお出かけするのがもっとも新鮮な体験となるけれど、それはもっぱら遠方になってしまう。なぜなら、僕は独身時代が長かったせいもあって、近場なら大抵訪れたことがあるからだ。でもそれはしゃーない、ということで、僕の知っている場所でもどんどんいしを案内し、同じ情報を共有できるようにしている最中だ。
大笹牧場の名物はジンギスカン。
ジンギスカンセットが1,600円。他にも「ジンギスカンよくばりセット」などいろいろなメニューがある。
でもそれよりも「メガ盛りカレー」の方が気になる。「大満足確定!」と書いてあるのでよっぽど自信があるらしい。
カツカレーが1,200円なので、最低でもカツカレー2杯以上はある、ということか。ほほう。
いや、食べないぞ?もちろんこの後キャンプがあるんだから、食べないけれども。
ジンギスカンが食べられる食堂。とても広い。学校の遠足や団体旅行の食事で使えるサイズ。
15時過ぎという中途半端な時間だけど、あちこちでジュウジュウ肉を焼いていた。遅めの昼食兼早めの夕食、といったところか。
客を見渡すかぎり、モグモグしている時以外はマスクをしている人もいるし、マスクをせずに黙って食べている人もいるし、全然気にしていない人もいる。
2020年夏の時点では、悪夢のような緊急事態宣言が解除されていた。でも、人類はコロナウイルスを撃退する術を手に入れたわけではなく、単に流行が一時的に去っただけだということはみんなわかっていた。いずれ第二波がやってくる、というのは誰しもが感じていたことだ。
そして、この時点では「コロナにかかる」ということは周囲から後ろ指をさされることだった。どこかでほっつき歩いて、だらしなく遊んでいるからコロナにかかるんだ、という印象が広がっていた。コロナで重症化することを恐れるというより、人々は後ろ指を指されることを最も恐れていたと思う(高齢者や医療従事者は除く)。
そんな空気の中での観光地なので、みんなの対応はまちまちだけどピリついた雰囲気がある。そもそも、「旅行に大笹牧場に行ってきました」だなんて、周囲に到底言える状態ではない。
なお、今となっては「えっ?」と思わず我が目を疑ってしまうが、2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されたとき、東京都における1日の新規感染者数は87名だった。早めの対応だったとも言えるし、未知の脅威に対しては人間はかくも臆病、ということでもある。
観光牧場というのは、当たり前だけど当たり外れがある。
そもそも、牧場でジンギスカンが食べられるというのは不思議なものだ。千葉県のマザー牧場をはじめ、よく目にする光景ではあるが、牧場で飼育されている羊が牧場内でシメられてジンギスカンとして提供されているわけではない。自治体公認の屠畜場でないと、食肉の屠畜は認められていないからだ。
国産羊肉はものすごく高いので、現実的にはオーストラリア産など海外のものが使われているはずだ。
だったらなんで牧場でジンギスカンを食べるんだ?というそもそも論になる。
でもそれが人間のしょうもない性(さが)というやつだ。滝を見に行ったらイワナの塩焼きを食べちゃうし、春になったからといって立ち食いそば屋で山菜そばを食べる。
それはともかく、観光牧場で売られている牛乳および乳製品は試してみる価値があると思っている。正直、味の違いなんてわからない。でも、こういう観光旅行中でもないと、いい乳製品を口にする機会がない。「旅の思い出に」という口実で、あれこれ試している。
自宅に戻れば、近所で一番安い牛乳を買ってきて、ヨーグルトも特売のものを買ってきて、という生活だ。
ソフトクリームも、観光牧場では楽しいイベントだ。
やっぱりアイスクリームよりもソフトクリームだよな。特別感があるし、今ここで食べないと溶ける、というはかなさが気分の盛り上げに貢献してくれる。
気分が盛り上がった勢いで、ついソフトクリームを2つ買ってしまった。カップのものと、コーンのもの。
2つも買わなくて良かったんだけど。
「コロナ感染を予防するために、ソフトクリームの受け渡しは手渡しではやらないよ」という注意書きが自動券売機に書いてあった。うっかり手でも触れたら大変!というわけだ。そんな時代。
16:08
ソフトクリームを舐め、周囲の雄大な景色を眺めたのちに本題のキャンプ場に向かう。
川治温泉から会津若松に向けて北上していった先に、野岩鉄道「中三依温泉」駅がある。そのすぐ近くにあるのが、「みよりふるさと体験村」。
このあたりは山間部の国道ということもあって、びゅーんとどんどん素通りしてしまう場所だ。なので、うっかりすると曲がる場所を見逃してしまう。
「え?本当にここ?」と思いながら車を進めていくと、みよりふるさと体験村が見えてきた。
体験村、といってもここにあるのはケビンが数棟、そして昔キャンプ場だった山の麓をキャンプ地としているだけの空き地だ。派手さはない。
ここがみよりふるさと体験村のセンターハウスにあたる場所。
「男鹿の湯」という看板が掲げられている。
地域おこしのために町がボーリングして作った温泉。源泉温度は25度で、沸かし湯となる。キャンプやコテージに宿泊するお客は無料で利用することができるそうだ。
(つづく)
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