2020年7月/コロナ時代の甲府で療養する

ネット旅行代理店「じゃらん」から、ビジネスホテル「ドーミーイン」が格安で泊まれるよ!というメールが届いた。

ドーミーインは僕が愛している宿で、都市部で宿泊することがあった際、いくつもあるホテルチェーンの中で最優先に選ばれる宿だ。

  • 大浴場がある
  • 朝食バイキングがある
  • 21:30~23:00の間、お夜食として「夜鳴きそば」というラーメンが無料で振る舞われる

ということで、僕にとっては最高としかいいようのない条件の宿だからだ。

じゃらんのメールに書かれていた値段は、一泊朝食付き、税別で2,000円台後半から。

はっはっは、騙されるものか。特殊な条件下で、しかも部屋数限定の「見せ球」的なバーゲンだろう。LCCの格安チケットと同じだ。ノコノコ様子を見に行くと、もう売り切れていて通常価格のものしか残っていないというヤツ。

まあ、それでも興味深いのでwebサイトを見に行ったら、対象となるのは全国すべてのドーミーインであること、そして全ての日が対象であることがわかった。あっ、マジで大盤振る舞いなことやってるんだ。「撒き餌」じゃないのか。

2020年初旬頃からの新型コロナウイルス蔓延のせいで、全国いや全世界の旅行・観光業が壊滅的な被害を受けているのは日々のニュースで知っていた。廃業するホテルもある中で、なんとか生き残ったホテルはこれから反転攻勢をかけたいところなのだろう。

緊急事態宣言が解除され、他都道府県への移動も緩和されたとはいえ、まだ世の中は懐疑心が残っている。なので、ドーミーインはここで一発激安価格で客を呼び、起爆剤にしたいと思われる。

これはえらいこっちゃ、大浴場で身体がくりゃんくりゃんになるまでお風呂に入って、夜食のラーメンがあって、朝食がある。これで税込み3,000円くらいから一泊できるなら、連泊したい。テレワークもドーミーインでしたいくらいだ(会社のルール上駄目だけど)。コロナ陽性になったら、ここで自主隔離されたい。・・・いや、それは駄目だ、陽性なのにノコノコと「大浴場!」なんてできるわけがない。

さっそく全国のドーミーインを探してみる。あー。全国各地にありますね・・・。でも、今まだコロナが沈静化していない中、わざわざ遠出するのはまずい。「東京から来た」というだけで嫌な顔をされるかもしれないし、自分が保菌していて地方にばらまく可能性だってある。せいぜい近隣のドーミーインでのんびり過ごす、という程度にとどめておきたい。うっかり飛行機に乗って、とか新幹線で長距離移動、というのは駄目だ。

そんなわけで、山梨県は甲府のドーミーインに行くことにした。

実は昨年、僕は甲府のドーミーインに一泊したことがある。まだ2020年7月時点ではこのサイトで記事にしていないけど。内容としては、昔やったひとり温泉湯治と一緒だ。

2019年の甲府ドーミーイン一泊は、インフルエンザ明けで心身ともにへばっていたので、療養のために訪れた。甲府というのは、「ちょっとした旅行気分が味わえるけど、東京から遠すぎない」場所だし、徒歩とか自転車を使う限りは、行ける場所が限られていて「あの観光地も、こっちのスポットも」とソワソワしなくて済む。少ない情報の中で過ごすにはちょうどよかった。

今回もそう。コロナ関係でテレワークが増え、ずっと脳の前頭葉や言語野ばっかり使って生きている感じがする。もう少し生きていくための情報を絞り込み、生きていくための選択肢を減らし、風呂で身体を弛緩させる時間が欲しい。そんなとき、観光地ではない一県庁所在地都市のビジホで一泊、というのはすごく適しているのだった。だって、無駄にワクワクソワソワしなくて済むから。

結局、税込みで3,500円で1泊朝食付きのダブルの部屋が取れた。甲府には2軒のドーミーインがあるけれど、駅に少しだけ近くて少しだけ値段が高い方の予約だけが取れた。安い方は、もう該当プランが売り切れていた。やはり大人気らしい。

本当は、第二第三の候補として高崎・前橋といった群馬県のドーミーインも候補として考えていた。こちらは利用したことがないので、街歩きが楽しそうだ。しかし、数日経って甲府をキャンセルして高崎に鞍替えしようとしたら、もう予約がとれなかった。さすがにこの低価格プラン、早い物勝ちだったらしい。

2020年07月04日(土) 1日目

甲府の宿の予約を取ってから約一週間。その間、東京都の新型コロナウイルス新規陽性患者数は右肩上がりで増加していった。毎日の新規陽性者数はまだ2桁だったけど、不気味な存在だった。

「これが急激に増えるようなことがあったら、甲府行きは中止にしよう」

いしにそう伝え、日々のニュースに注目していたが、結局宿のキャンセル期限までには結論が出せず、「慎重に行く」ということで甲府行きは決行となった。いしは、

「大浴場でお風呂入ってればいいじゃないですか、あとはできるだけおとなしくしていましょう」

と言う。まあ確かにそうだ。

そんなわけで、当日朝は「これから泊りがけの旅行に行きます」にしてはずいぶん遅めの出発となった。なにせ、朝ごはんを食べたあと、家じゅうの窓拭き掃除をやったり、洗濯をやったり、いつも以上に掃除をやる時間を確保したくらいだ。

いしからは、「(新宿駅にある)ベルクで朝ごはんを食べるのもいいですね」という提案を受けていたのだけど、さすがにそれはやめた。新宿歌舞伎町でクラスターが頻出しているということ、そしてベルクそのものが結構密な空間だからだ。お店はアクリル板を机の間に立てるなど最大限の配慮をして頑張っているのだけれど、ちょっと今は時期が悪いと思った。

本当なら、「せっかくの旅行なんだし!朝ご飯も外で!または早く現地について、現地で朝ごはん!!」とはしゃぐ筈なんだけど、そんなことは言ってられない。

新宿から甲府・松本方面に向かう「特急あずさ」は、週末朝の時間帯が混む。旅行客、登山客が多数乗り込むからだ。なので、敢えてその時間は避け、10時発というヌルい時間帯の出発とした。できるだけ人がいない電車に乗りたかったからだ。

というのも、前日東京都はついに131名もの陽性患者を出した。ちょっと洒落になっていない。

僕らが菌をばらまいた、または僕らがウイルスに罹患したというのは、不注意だけでは済まされない。コロナにかかることよりも、「コロナにかかったことにより、社会的なそしりを受ける」ということのほうが怖い。特に僕もいしも、仕事上コロナに関して間接的に関わっているだけになおさらだ。

11時半、甲府に到着。新宿から1時間半で、本当に手頃な旅行感覚だ。遠すぎず、近すぎない。遠すぎると、電車に乗っているだけで疲れるけれど、この距離なら読書していてもスマホを見ていても会話をしていても、「えっ、もう到着?早いよ!」という時間感覚だ。

甲府駅は、人で賑わっていた。ここ最近山梨県では新規陽性患者が出ていない。そんなこともあって、東京ほど警戒感が強くないのかもしれない。

しかし、一つ特徴的なことがある。大きなザックを背負った山ヤがまったくいない、ということだ。甲府といえば、南アルプス北部の山の玄関口、北沢峠・広河原・夜叉神の起点となる。3,000メートルクラスの山を目指して意気揚々とした人、そういった山から下山してくたびれている人が交錯するのが甲府駅だ。しかしその姿がまったく見えない。ゼロだ。

というのも、今シーズンは南アルプスの山小屋がほぼすべて営業を取りやめており、さらにはアクセスルートである南アルプス林道が通行止めになり、それに伴って甲府から広河原行きのバスも運休してしまったからだ。

公共交通機関だろうがマイカーだろうが、南アルプスに入りこむ手段がなくなってしまった。

気合を入れて徒歩で外界からアプローチするぜ、というやり方はできなくない。しかし、山小屋が閉まっているということは、トイレも水場も使えないということだ。トイレは簡易トイレを持参すれば対処できるけど、水は困る。湧き水ポイントがあればそこの水は使えるだろうが、山小屋で手に入る水というのは大抵ポンプアップされたものであり、山小屋の自家発電があってこそのものだ。

大量の水を抱えて登山する覚悟がないと、今シーズンの南アルプスは無理だ。

駅の改札出てすぐのところにある、お土産物屋をちょっと見てみる。

「桔梗信玄餅パン」なるものが売られていた。

桔梗信玄餅、いろいろな派生商品を出しているものだな。「アイス」「プリン」「ロールケーキ」「棒」「どらやき」などがあるけれど、パンまで売っているとは。いずれ「ピザ」とか「パスタ」も売り出すんじゃなかろうか。

「はろうきてぃほうとう」なるもののサンプルが棚の奥にひっそり格納されていた(写真は、棚の奥からサンプルを引っ張り出して撮影したもの。本当はもっと奥にあった)

キティさん、あらゆる土産物に関わっているけれど、ほうとうまで出しているとは知らなかった。もう本当になんでもありだな。

サンプルが棚の奥にひっそりと置いてあることから分かる通り、この商品は現在取り扱いがないようだった。コロナの影響で販売再開が見通せず、まだ入荷していないのかもしれない。

ちなみに僕の家の近所に、全国各地の土産物屋向けお菓子の問屋さんがある。その問屋さん、普段は小売をやっていないのだけれど、コロナが問題になってからガレージを使ってお菓子の小売を始めた。しかも半額程度の激安価格で。人々が観光に行かなくなったので、土産物が全然売れなくなってしまったからだ。

お菓子の在庫はあっても売れず、どんどん賞味期限が迫ってくる。そうなると、安くしてでも売るしかない。

「小泉進次郎クッキー」とか「銀座○○」「横浜○○」「○○に行ってきました」といったものが多くて、お菓子のクオリティとしては微妙なものが多いけれど、中には「あっ、これは美味しい」というものも混じっていて試し甲斐がある。200円~500円程度で20個入りくらいの箱入りお菓子が買えるので、本当に大量にあれこれ買ったものだ。

話がずれたけど、そうやってお土産物産業もこの数ヶ月で手痛いダメージを受けている。さてこれから復活だ、というときにまた不気味に患者数が増えてきていて、本当に大変だと思う。

そうだった、7月といえば桃が出始める時期だった。

コロナ以降、「季節感」というのにすっかり疎くなってしまった。外出そのものが減って、肌感覚の厚さ寒さを感じにくくなったし、外食で旬のものに触れる機会が減ったし、なによりも季節感があるイベントが全滅してしまった。

そして、先の見通しが立たない、というのも季節感を大きく損なっている。「来月には○○をしよう」という計画が立てられないからだ。今だったら、「お盆って帰省できるの?」というところからして、ずいぶんと怪しい。

やっぱり季節感は生活の中に取り入れたい。なので、この桃は「今晩のお夜食」として購入した。

あんまり人混みの中をうろちょろする気はないけれど、お昼ごはんは食べに行きたい。いしから、「蕎麦が食べたい」「専心庵に行ってみたい」と言われたので、レンタサイクルを調達して専心庵に行ってみることにした。このお店は駅からちょっと遠いので、レンタサイクルで行くのがちょうど良い距離感だ。

このお店は1年前に訪れたことがある。かなり美味しかった印象だ。

いしは、「専心庵と、奥藤に行きたい。蕎麦が食べたい」と言う。いや、甲府って蕎麦の産地としては有名ではないし、名物ではないし、そもそも初夏というのは新蕎麦から程遠い季節で・・・と思うのだけど、食べたいと思っちゃったのだからそれで良いと思う。

「山梨の名物といえばほうとうだけど?」

と水を向けてみたら、「ほうとうはちょっとねえ」と仰る。どうやら、ほうとうはもったりとしてあまり食べたいとは思わないらしい。もともと彼女は、ご飯を含めた炭水化物をあまり食べない。そのかわりおかずをよく食べる。あと甘いものにも目がない。なので、ほうとうはちょっとジャンル違いなのかもしれない。

昨年甲府を訪れたときは、駅前の東横インで自転車を借りた記憶がある。しかし2020年7月時点では東横インでの貸し出しは行っていなかった。たまたま甲府駅でレンタサイクルのパンフレットを貰っておいて良かった。最初、「どこで借りられるか知っているから、別にパンフレットはいらないよ」と思っていたのだけれど。

駅南側の、別の旅館でレンタサイクルが借りられるので行ってみる。

途中、ツタで覆われた旅館を発見。すごいな、旅館の看板が植物で覆い尽くされかかっている。もし「今晩の宿はここです」と言われたら、ギョッとする。

表通りからやや奥に入ったところに、「ビジネス旅館末広」があった。ここでレンタサイクルを借りることにした。

玄関に入ると下駄箱があって、スリッパに履き替えることになる。そして目の前がすぐ階段で、フロントは二階。

個人経営の宿っぽいので、真っ昼間に行くと誰もいない可能性がある。時間を見計らうか、予め予約の電話を入れておいたほうが宿にとってもありがたいと思う。僕らは12時ころになっての突然の訪問なので、ちょっとご迷惑をかけちゃったかもしれない。

住所氏名年齢連絡先など一通り書類に書き、免許証のコピーをとられ、自転車を借りる。1日で1,000円/台。

借りる際、アルコール含有の除菌ウェットティッシュをもらった。ああ、さすが時代だな。これでハンドルやサドルを拭いてくれ、ということだ。コロナ対策がこういうところにも。

なお、借りた自転車は電動アシスト付きだった。ストップ&ゴーの際の加速が素晴らしく、毎回信号待ちからの発進のたびに「うひょう!」と声を上げた。いいなこれ。でも人間を駄目にするな。メッチャ欲しいけれど、体力維持のために今これを自宅に導入するのはアカン気がする。

専心庵に到着。

お店に近づいた時点で、「おや、駐車場に車がたくさん並んでいるぞ?」と嫌な予感がしたのだけど、お店の前に来てみると人また人。ああ、行列ができているぞ。

あっけにとられてしまった。そうか、こんな住宅街にあるお店なのに、行列ができる繁盛店だったのか。完全に出遅れたし、油断していた。

せっかく自転車を仕立ててここまでやってきたんだけどなあ、どうしようかなあ、他県までやってきて密になるのはイヤだしなあ、ということで立ち尽くしていたら、そんな最中も次々に車がやってきてお客さんが増える。

ああもうここは諦めよう、もともと並ぶのは好きじゃないし、今この状況ならなおさらだ。しかも僕ら、他県のよそもんだから、なおさら自覚して人混みを避けないと。

(つづく)

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