いが栗が道路に落ちていた。
こういうのを見て「ああ、秋だねえ」と感慨に浸れるのも、徒歩旅ならではだ。
車だったら当然感じられないし、自転車でも無理だ。ひたすら歩いて歩いて歩き続けている今だからこそ、こういう景色に心が動かされる。
特に2020年春のコロナ緊急事態宣言から1年半。未だに人があちこち動き回ることに課題が残っている。こうやっててくてく歩くなんて、本当に久しぶりだ。
コロナの流行を経て、コロナそのものでおなくなりになる人だけでなく、運動習慣が断絶したなどの理由で結果的に寿命を縮めた人って多いと思う。僕もそう。たぶん、コロナのせいで不摂生になったと思う。
12:39
道路の両脇に、石の柱が1対立っている場所に来た。柵はないものの、ここが門であり、手前と奥とでは扱いが違うぞ、ということがうかがえる。
「あれっ、この先私有地立入禁止かな?」と一瞬身構えたが、特にそういうことはなく一般人も通過できる。
看板が立っていた。単なるごみの不法投棄禁止の警告ではなく、書いてあることが独特だ。
ここは、心身に障害のある人たちが生活している施設です。
豊かな自然環境の中で生活をしていますが、ごみの不法投棄に大変迷惑をしています。
不法投棄の現場を発見した場合は、警察に通報します。
国立のぞみの園
そう、ここから先は重度障害者が居住する障害者支援施設だ。独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園、というのが正式名称だ。
「独立行政法人」って国から助成されているとはいえ独立しているのだから、「国立」を名乗るのはおかしいのでは?と思ったが、別に珍しいことではないらしい。「国立新美術館」や「国立西洋美術館」が「独立行政法人国立美術館」管轄であるように。
今回の徒歩旅で、ある意味最大の関心事だったのがこの施設だった。航空写真の地図をPCで見ていると、目立つ姿をしているからだ。
蝶が羽を広げたような形をした敷地も独特だし、敷地内の建物はコの字型の平屋建てがたくさん並んでいる。敷地の形は地形に沿った結果かもしれないが、建物の構成は意図があるはずだ。
障害者の共同生活と治療、授産の場だとしても、デカい箱型の建物を1棟建てたほうが運営する側の管理が楽なはずだ。こうやって分散して建物があって、渡り廊下すらないとなると、入居者もスタッフもなにかと大変そうだ。でもそうする意味があるのだろう。
コの字型の建物はおそらく居住スペースなのだろうが、なぜコの字なのだろう?などとあれこれ考えてしまう。まったく僕の知識が及ばない世界だからだ。
そもそも、重度障害者を施設に集めて入居させる、というやり方は今は主流ではないという話を聞いたことがある。これまでは「隔離」だったが、今はできるだけ家庭に近いところで「共生」することが求められているのだとか。
なので、国立でこの手の施設は日本ではここだけしか残っていないということだ。
12:48
「ここから知的障害者の施設です。歩行者に注意」という看板。見たことがない掲示だ。
「こんな施設があるのか!」という驚きと興味はあったが、かといって生活している人達をジロジロ観察してみたいとか、施設内を探検してみたいというゲスいことは考えていない。
ここから先、施設を通り抜けるまではカメラは片付けた。興味本位でカメラ片手にやってきた人、と思われたくなかったからだ。
なお、航空写真を見て「この建物は一体なにに使われているんだろう?」と不思議に思っていたことの答え合わせは、2024年時点の公式WEBサイトで確認できる。
https://www.nozomi.go.jp/corporation/map.html
見たところで、この世界について疎いのでやっぱりよくわからないのだが、それでも勉強になった。
知的障害者のボランティアはこれまで何度もやってきたが、知らない世界だった。
13:10
高崎市染料植物園、というところにやってきた。
高崎大観音に通じる道からはやや脇に逸れるのだけど、一応見てみようかなと。
あと、この敷地内にある「ひびき橋」という吊橋を渡っていけば、高崎大観音に辿り着けそうなのでちょうどよかった。
ここの植物園のすごいのは、藍をはじめとする、「衣類などの染め物に使う植物」だけを扱っている、ということだ。
マニアックだ。花が美しいです、とか枝っぷりが見事です、という見てくれの観点は重要視されていない。
さーっと素通りしようかなぁ、と思ったが、敷地の中の歩道はそう簡単な素通りルートはないようだ。
「オウレン。なるほど」
適当にうなづく。このあと三歩歩いたら忘れるだろう、きっと。
ちなみに白い花が咲いているのだが、花言葉は「胃腸をお大事に」だって。そんな花言葉、あるのか!
こんな感じでずらっと何かの植物が並んでいるのだが、じっくり見る気がない僕からすると全く興味の対象にならなかった。
「今日は久しぶりに森林浴ができてイイネー」「楽しいねー」なんて言ってる家族連れには良いのだろうが、僕は今日、すでに相当歩いてきている。もうここで追加で歩かなくてもいいや、という気分だ。
13:33
我ながら感心するくらいにサーッと敷地内を通り抜け、木道を歩く。この先が吊橋。そして巨大な観音様。
(つづく)
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