マクドナルドの向かいにある大きな駐車場では、日本ではなかなかお目にかかれない巨大なグリルで猛烈に肉が焼かれている。
これを見ると、「米軍基地にキタアアアああ!」とテンションが上ったものだ。
なにせ焼いている肉が大きい。写真ではわかりにくいけど、手前で焼いている牛ステーキは大人男性の手のひらよりも大きい。
・・・でも、僕が「テンションが上ったものだ。」と過去形で書いているのは、もはやここで心をときめくことがなくなったからだ。
昔はもっと興奮したし、困惑したものだ。「すごい!肉だ肉だ!でもここで買っちゃうと、この後たくさんあるお店の食べ歩きに支障が出るかもしれない。待ったほうがいいのか?それとも買ったほうがいいのか?」と。なにせ、基地内はお肉パラダイスだ。安くて、デカくて、食べごたえのあるアメリカン料理がいっぱいだ・・・った。
それがいつの間にかどんどんワイルド肉を提供するお店は減っていき、「ここだったらガツンと肉を焼いているよね!」と安心してお店の様子を見に行ける場所が減った。端的にいうと、基地内レストランの公式出店程度しか、期待できるBBQ料理が提供されなくなってしまった。昔はもっとあっちこっちの屋台が肉を焼きまくっていたのに。
なので、肉料理を食べたいなら、基地に入ってすぐだけどとっととここで買ったほうがいい。時間が後になればなるほど、基地内は人で溢れることになる。僕らは3時間弱かけてようやく中に入れたけど、これでもまだ序の口だ。これから人が増える。
どこの屋台も長蛇の列になるのは目に見えているので、「ほしい!食べたい!」と思ったらすぐに列に並んで買っておくといい。
「肉を買うなら今だ」とわかっていても手が出なかったのは、ここがハワイアン料理の店を標榜しているからだ。
これぞアメリカ!新大陸のワイルドさを見せつけてやるぜ!という雰囲気ではないし、テンガロンハットをかぶった親父がガハハと笑っているような感じでもない。ハワイアン、というジャンル分けを耳にしてしまうと、「うん・・・一旦スルーしようか」という気になってしまう。
いくら目の前で豪快にデカ肉が焼かれていても、ハワイアンと言われたらオシャレに見えてしまうんだよな。
ちなみに生ビール16ozで1,050円。
16ozというのは、マクドナルドなんかでよく見かけるカップのサイズだったと思う。だいたい500ml弱の容量となる。
1,050円!?信じられないくらい高くなったな。
1年前とくらべてドル円レートが1.5倍に円安になったので、全てが高いというのは想定していた。それにしても高くなったものだな。
昔の記事を読むと、475mlのビールが350円だった、という記述がある。
「さすが米国、酒税が日本と違うんだな!激安!」とすごくびっくりさせられたが、もはや日本でビールを飲むより高くなっちゃった。
しかし、昔も今も変わらないのが、ミネラルウォーターが100円ということだ。熱中症で倒れる人が出たらまずいから、水分補給は意図的に廉価にしているのだろう、と僕は推測している。
肝心の食べ物は、というと、
リブアイステーキセット(マッシュポテト&トウモロコシ付き) 2,250円
ハワイアンプレート(フリフリチキに、カルアポーク、ライス、ロミロミサーモン&マカロニサラダ付き) 1,800円
を筆頭に、サイドメニューとして
トウモロコシ 400円
マッシュドポテト 300円
マカロニサラダ 750円
プリッツェル 450円
ウーピーパイ 100円
となっていた。高い・・・。
デカいステーキに「これこれ!これだよ!」と喜んだ僕らも、値段を見て無言になってしまった。
このお店一軒で今回のイベントを終わらせるなら、まあなんとか我慢できる値段だ。でも、せっかくだから何軒かはしごしたいよね、と思っているので僕の財力だと無理だ。一軒目にして来月の支払いはリボ払いにしようかどうしようか、と悩むレベル。
「これも、円安じゃなかったらもっともっと安かったのかなぁ」
と恨めしく思う。円安のメリット・デメリットが両方あるのは承知しているので、一方的に円安が悪いと言うつもりはない。でも今日に関しては、本当に円安が恨めしい。日銀黒田総裁の白髪顔がチラチラ頭をよぎる。
ここの屋台を取り仕切っているのは、毎年「Officer’s Club」という基地内レストランだ。少尉以上とその家族しか入れない、フォーマルなレストランだと聞いている。ドレスコードもあるのだとか。
そんなレストランがやっているお店なので、規模はどの屋台よりも大きい。ここがグダグダだったら、他の屋台は望み薄といわざるをえないが、さすが将校向けレストラン運営だけある。
なにせ、屋台のカウンターは三段構えになっている。
1段目で接客。オーダーを受けて接客して、商品をお客さんにわたす作業。ここが一番いそがしい。
2段目は1段目と3段目の中継ぎ。
3段目は焼きあがった肉や野菜をストックしておく場所。オーダーが入ると容器に盛り付ける。
そしてテントの外では肉が焼かれている。
さすが軍隊だけあって、統率が取れている・・・と感心させられる。
じゃあ、この基地内のいろいろな屋台すべてが軍隊ならではのピリッとした統率で成り立っているのか?というと、そうではない。単にここが人も物もカネもあって、巨大な店舗を運営できているから統率が取れている。ほかはそうではない。
本当は第7艦隊旗艦の船を見に行く予定があったのだけど、入場に2時間以上かかっちゃったのでやる気が失せた。船は皆で、基地内を散策することにした。
船に乗れる人の数は限られており、長蛇の列ができるのが毎回のお約束だ。コンクリートの上でひたすら待たされるのはかなりの苦行だし、船が係留されているバース7まで行って帰ってくるだけで30分コースだ。本気で船に乗りたいと思うのでなければ、諦めるのが正解だ。
ちなみに僕よりも早くこの横須賀基地に入った知人は、「船に乗るまで3時間かかった」と言っていた。船に行かなくて良かった。
ジーニアスが「ビール飲みたくなったな。どこかビール売ってないかな」と言う。じゃあちょうどいい、マクドナルドを通り過ぎたところで毎年バーが出店しているので、そこで買うといい。
今年も、大きなジョッキ型のバルーン広告が作られている。「米海軍横須賀基地シャーキーズクラフトビール」。このバルーン、案外長持ちしているな。年に数回しか使わないからだけど、紫外線焼けで色あせたり穴が空いたりしないのだろうか。かれこれ10年近くこのバルーンは現存していると思う。
ここのバーと食べ物屋台を取り仕切っているのは「Club Alliance」。基地のゲート脇にある建物だ。「アライアンス」という名前や立地条件からして、日本人で基地に関係する人も基地職員の紹介があれば使えるのだと思われる。
シャーキーズクラフトビールはさっきの「Officer’s Club」と同じ値段。
16OZ 1,050円、24OZ 1,500円。
24OZの値段に150円を足すと、「ヤードグラス」がついてくる。ヤードグラスとは、長いラッパのような形をしたビール用のグラスだ。
↑こんなやつ。家に置いても、どうやってこれを洗うんだ?すぐ割れるんじゃないか?と心配の種しかないグラス。
基地入場の記念になるかもしれないけど、たかだかビール1杯で相当高い出費になってしまう。これを手にした人はずいぶんお金持ちか、趣味人だと思う。実際、基地内でこのグラスを持っている人は一人だけお見かけした。やるなぁ。
食べ物はここも高い。
どこかが飛び抜けて高いんじゃなくて、全部高いんだ。そりゃそうだよな、アメリカの消費者物価指数が前年同月比8%台だったりするご時世だ。米軍基地だけ物価高は蚊帳の外、というわけにはいくまい。
「基地内で働いている日本人従業員の時給ってどうなっているんだろう?」
みんなでひそひそ話をする。
たぶんだけど、日本の会社が雇用して米軍基地に派遣される形になるだろうから、神奈川県の最低時給をベースに給料は設定されるんじゃないか?
という意見が多かった。もっとも、基地で働くとなると英語能力がある程度求められる場面もあるだろうから、時給は高くなるとは思うけれど。
クラブアライアンスのメニューは以下のとおり。
バーユーバーガー チーズナチョチップス付き 1,250円
ローストビーフプレート 1,500円
ホットドッグ チーズナチョチップス付き 600円
チリチーズドッグ チーズナチョチップス付き 850円
チリチーズナチョス 750円
チュロス 300円
チュロス アイスクリーム付き 600円
値段が高いうえに、行列が長い。「うーん」と言いながら素通りするか、術がなかった。
昔は「即断即決でこのお店で買う決心がつかないなら、それはそこまでのご縁だったということだ。なあに、別の店で食べればいいさ」と思っていた。それだけ、選択肢が豊富にあったからだ。でも今じゃ、選択肢が少ないので「さあ、ここで食べるの?食べないの?」とい覚悟が毎回求められる。
なにせ広い基地だ。「ああ駄目だ、これ以上先に行ってももうお店はないぞ」と諦めて戻ってくるのは疲れる。
屋台街にやってきた。
昔は公開されているエリアに点在する駐車場のあちこちに屋台が並び、賑やかだったものだ。そしてその屋台は、ここぞとばかりに巨大なBBQグリルを並べ、肉を焼きまくっていたので煙で周囲の視界が悪くなっている有様だった。
アメリカの人がどれほどBBQを愛しているのかというのがよくわかったし、この人たち、さてはハンバーガーよりもホットドッグのほうが好きなんだな、ということがわかるし、ナチョスという日本人には馴染みがない料理が大好物だということも知ることができた。この屋台街こそが、アメリカ基地に来た!とワクワクさせてくれるメイン要素だ。
先程見た基地内レストランの屋台も素敵だが、あれはあくまでもガチな飲食店の屋台だから驚きと興奮はさほどない。それよりも、普段兵隊をやっている人たちが屋台を出そうとなったとき、何をやろうと思って実行に移したのかが大事だ。ナチョス屋台だらけになったらなったで、それは僕らからするとすごくエキサイティングな光景だ。だって、この人達の素性が見えるんだから。
ただ、残念ながらそうやって調理をした料理を出すお店は今年も少なかった。エナジードリンクやスナックを売る屋台、グッズを売る屋台が多かった印象だ。
これまでは、「暑くて屋台をいちいち観察していられない」という状況だった。でも今年は違う。涼しいのは結構なんだけど、なにせ来場客が多すぎて屋台をまともに見ていられない。しかもこっちは1歳半のチビを同伴させているので、そっちにも気を取られてしまう。屋台観察どころじゃなかった。ベビーカーを押していると、人混みに突撃するのがはばかられるからだ。
逆に言うと、「おっ、これは!」と思える注目の屋台がほとんどなかった、とも言える。
ただ一つ気になったのは、見慣れない料理を出すお店があったということだ。
ん?ハンバーガーかな?と思ってよく見ると、なんだか違う。「スロッピー・ジョー・スライダー」と書いてある。お値段500円。あら、お手軽価格。
こっちにもあった。スロッピージョー。
スロッピージョーと袋入りチップスのコンボで1,000円。
で、スロッピージョーってなんだ?
あとで調べてみたら、肉をほぐしたものやひき肉をトマトソースなどで煮込んだものをバンズに挟んだ料理だった。へえ、知らなかった。
単なるひき肉なら、ハンバーグを挟んだハンバーガーと大差ないじゃないか?と思うが、食感が全然違うので別物の料理ということになるのだろう。そもそも、ハンバーガーのミートはグリルするものであって、煮込むものじゃない。
アメリカの子どもに「好きな料理は?」と聞くと、このスロッピージョーがNo.1になることが多いそうだ。えええそうなのか。そんなメジャーな料理なのに、僕は存在すら知らなかった。アメリカ人ってピザとホットドッグ食ってる人たちで、都会だとそれにベーグルが追加になるという偏見があったけど違うのか。
まだまだ僕らはアメリカのことを知らない。
知らないついでに買って食べればよかった。でも後の祭りで、結局買いそびれてしまった。一期一会だ。人があまりに多いのと、昼になって10月とは思えないほど気温が上がってきたせいで疲れちゃった。人をかきわけて買いに行く気力が失せた。
僕があらかじめ、米軍基地初体験のいしに「アメリカ人って、ナチョチーズ大好きだぞ」と吹き込んでいた。そのことを覚えていたいしが、ナチョスを売っている屋台を発見してナチョチーズを買ってきた。
ドリトスとおぼしきトウモロコシチップスに、溶かしたチェダーチーズがかけられたもの。
時間が経つとチーズは固まるし、ナチョスはふにゃふにゃになるので早く食べないといけない。たしかこれで700円だったと思う。以前とくらべて高くなったなぁ。
昔はあっちこっちにナチョス屋台があったものだけど、今年は見つけるのに苦労するレベルだった。飲食屋台が減ってしまったからだ。・・・いや違う、「エナジードリンク」や「ポテトチップ」などを売るお店も含めれば飲食屋台は相変わらずの数なんだろうけど、料理を振る舞う屋台が減った、というのが正しいだろう。
(つづく)
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