これまでのヨコスカフレンドシップデーは、レジャーシートなんて持参したことがなかった。
基地内は一部の木陰をのぞいで灼熱の大地なので、ゆっくり過ごすという発想がそもそもなかったからだ。
もっとも、最初にこの地を訪れた頃は「朝から基地に入って、ダラダラと夕方まで過ごし、夜は水上花火大会を見てから帰宅」ということを目論んでいた。しかし、それがとんでもなく甘い発想である、ということはすぐに悟った。暑すぎて、到底長居ができないからだ。
よっぽど腹をくくって、花火大会に命を賭ける覚悟じゃないと無理。
そんなわけでレジャーシートなんてなくても、ちゃちゃっと用事を済ませて帰宅するのが毎度のことだった。
しかし今回は初めてレジャーシートが登場した。なにせ、1歳半のチビが今回のメンバーに加わっているからだ。好き勝手に歩き回るようになったけれど、まだ体力と脚力が未熟だ。ちょっと歩いては「抱っこしてー」と親にしがみついてくる。かといってベビーカーに座らせようとすると猛抵抗する。だからレジャーシートで一休み、という時間が必要だった。
あらゆるものが値段が高い。なので、ここで各自が買い集めてきた戦利品を分配して宴会・・・とはならなかった。みんなほとんど何も買わなかったからだ。衝動買いできるほどの値段はほとんどない上に、あまりに人が多くてお店で吟味できないからだ。
また、いつものことだけど基地が広すぎる。「さっき気になったお店があったので、ちょっと買いに行ってきますわー」と一人だけ仲間から離れるのも気が引ける。行って戻ってくるのに何分かかるかわからないからだ。
そんなわけで、水すら飲まずにダラっと野球場脇の芝生エリアで休む。
14:46
「じゃあもう、帰りますか」ということで、退却。
なんだか締まりのない展開となったけど、これが2022年バージョンの横須賀基地、ということで良い体験だった。これまで何回もここを訪れてきたので、迫力に欠けるイベントだったとしても「うん、そういう年もあるよね」と暖かく見守れる。
なにせもともとここは基地だ。周辺有事に向けた時期的な緊迫感とか、このイベントに割り当てられる予算とか、兵隊さんの一存だけではどうにもならない国家レベルの話がからんでくる。そういう背景も理解しつつこのイベントを何年も訪れていると、「なるほどねぇ」となんだか国際情勢に詳しくなった気になれる(実際には詳しくなれない)。
昔は入場ゲートと退場ゲートは別だった。退場ゲートまでの長い道のりをテクテク歩いていると、屋台もなくて「むしろこれこそが基地っぽい」感じがして好きだった。でも、ここ最近は出入りともに三笠公園のゲートとなっている。
来た道と同じ道を帰ることになるので、ちょっと残念だ。
14:55
「ええ!?マジで!」
思わず声を上げて驚いてしまったのが、三笠公園だ。
まだこの時間でも、大勢の人が入場待ちの行列を作っていたからだ。
仰々しく並べられたカラーコーンが現在進行系で大活躍中。こんなの、初めて見た。
もともと僕らがこのオフ会を企画した2013年、「昼になると行列がもっとヤバくなる」ことを見越して朝早くの現地集合にした。しかし、2013年は朝から行列が長かったものの、それ以降は「別に朝早く並ばなくてもいいんじゃね?」というくらい行列が短くなっていった。
少なくとも、昼どきになっても三笠公園に行列がある、なんて僕らは見たことがない。本来こういうものだ、というのは知識として知ってはいたけれども。
それもこれも、年々8月が猛暑となり屋外イベントが生命の危険に至るようになったからだ。それがどうだ、10月開催になったら人の数がもとに戻っちゃった。むしろ悪化してるんじゃないか?
今回の僕らは、9時15分横須賀中央駅集合のあと行列最後尾に並び、基地に入るまで2時間半かかった。朝でさえこの有様なのだから、たぶん昼前くらいにのんびりとやってきた人たちは3時間以上かかっているだろう。ご苦労さまとしかいいようがない。基地内に入っても売り切れメニューが多いのに。
基地から出ると、なんだか急に喉の乾きを覚えた。
みんなで戦艦三笠近くの自販機で水を買い、ぐいっと飲む。
基地の中では水を買って飲もう、という気にならなかったんだけど、はっと我に帰った感じ。
三笠公園から横須賀中央駅に向かう道、街中が基地入場待ちの行列で溢れかえっていた。
大げさな表現じゃない。本当に人が「溢れて」いたんだ。
僕らが並んでいた、三笠公園から汐入に向けて国道16号線沿いに伸びている列だけじゃない。国道を挟んだ向かい側にもずらっと列が出来ていて、駅に向かう方向にも列が出来ていて、これは一体どこが最後尾で、どの列がどの列に合流することになっているのか、さっぱりわからない。
あちこちから集まってきた人があちこちに列を作っていて、収集がつかなくなっているように見える。大丈夫か、これ。
でも、街角には警備員さんが立っているので、「順番を守れこの野郎」などと殺伐としたケンカが始まることもなく、みんな几帳面に列を作っていた。ただしその列が本当に正しく三笠公園に向けて進めるのか、それが怪しい。僕らがそうであったように、メインの行列に接続するまで時間を無駄にロスしてしまったようなことがあちこちで起きているんじゃないかと思う。
警備会社は複数社使われていた。警備会社同士が横の連携をとっているとは思えないので、横須賀市か神奈川県警かが指揮命令系統の中枢にいなくちゃいけない。どれほど機能しているのかはよくわからなかった。そういえばお巡りさんが警備や整理にあたっているという光景は見かけなかったような気がする。
また、米軍基地のイベントだからといって、米兵さんが行列整理に当たるということは一切なかった。これは昔も今も一貫している。やはり、軍事組織の人が基地の外で何か任務に就く、というのは問題があるのだろう。基地の外は米海軍はノータッチ、知らぬ存ぜぬという体をとるしかないのだろう。
この日は夜に水上花火大会が開催される。米海軍横須賀基地の開放日とセットで、本来8月頭のイベントが10月にずれ込んだ形だ。この花火大会を目当てに、今でもどんどん横須賀中央駅には人が押し寄せていた。横須賀が人だらけだ。
ヨコスカフレンドシップデーの案内看板を持っている人が、看板に「入場締切」の紙を貼った。15時半のことだ。基地はまだしばらく開いているのだけれど、現時点の行列を踏まえるとこれ以上人を並ばせられない、という判断になったようだ。
はっきりいって、来年以降再度このイベントに参加するかどうか、大変に怪しい。
今後も定点観察をしていきたいという希望はあるが、「これだけ並ばなくちゃいけなくって、その結果このコンテンツとこの値段じゃあねぇ・・・」という物足りなさが強い。そもそも横須賀にたどり着くまでがすごく遠いし。
なので、今年でもう訪問は最後かもしれない。もっと空いているか、物価が安くてお得か、どっちかじゃないとわざわざ訪れたいと思わなくなってしまった。
来年いきなりイベントがやる気を出して昔の賑わいに戻る、なんてことはない筈なので、少なくとも数年間は再訪しなくて良さそうだ。
「たぶんこれで最後だな」ということで、横須賀を見納めるために横須賀中央駅近くの「お穴さま」を見に行った。
横須賀中央駅から徒歩10分弱、龍本寺というお寺がある山の中腹にある場所だ。
日蓮聖人がここで修行をした、という穴が山の横っ腹に開いているという。
別に聖地巡礼がしたいわけじゃない。その穴「お穴さま」を取り囲むように、コンクリートでガチガチに法面工事されてる様子が壮観だと聞いたから、それを見たかったからだ。
「穴」ではなく「穴の周辺」が見たいんだから、ちょっと不思議なことを言っている自覚はある。でも、わざわざ見に行く価値がある圧倒的な法面だ。
それがこれ。
歴史のある「お穴さま」はなんとか残しつつ、山の上までコンクリートで固めてある様は圧巻。ちょっとこの写真だと圧巻っぷりがよく伝わらないけれど、山の斜面が全部これだぞ。すごいぞ。
しかも、河原の護岸工事みたいにまっすぐで四角い規則正しいコンクリート工事じゃない。山肌の形に沿って、ぐにゃぐにゃと熱で歪んだかのように変幻自在な形をしている。一つ一つがオーダーメイド。まさかこのとおりぴったりとした設計図を事前にひいたとは思えないので、現状に即して作りながら形が決まっていったのだろう。
それにしても人間の執念たるやすごい。ここまでして土砂崩れを防ぐのか。
Googleマップの航空写真を見てもらいたいが、このあたりの地形は入り組んでいて、なおかつ急峻だ。ちょっとした山のように見えて絶壁というところが多く、そこにはもれなく「ご冗談でしょう?」というレベルの法面工事がほどこされている。
面白くなって航空写真を見ているとキリがないくらいだ。
最近のGoogleマップ航空写真は、(Windowsのばあい)Ctlキーを押しながらマウスをグリグリすると、3Dの角度を自由に変え、向きも自由自在に動かすことができるようになった。これが恐るべき便利さと面白さで、地図をいろいろな角度から楽しめていくらでも遊べる。
横須賀市は、こういう崖の上や谷を遡上した山の上の住宅がどんどん過疎化していることに強い懸念を持っていて、無料だったり格安で空き家を提供するという施策を展開している。若いクリエイターにとっては面白い場所かもしれないけど、「そりゃまあ、これだと空き家になっちゃうよな」というレベルでこの界隈の地形は険しく、厳しい。
地図上では駅からすぐそこ、のこのお穴さまでさえ、ベビーカーを押しながら訪れるのは疲れた。
それはともかく、お穴さまがある山の上にはお寺があり、その裏には墓地が広がり、そしてタワマンが山に食い込むように建っている。そしてこの山自体が法面工事でガチガチ。とても不思議な作りで、「こんな場所がさりげなく駅チカに存在するとは!」と今更ながら驚かされた。
横須賀は土地探検のためにまた訪れてみたい。電動アシスト付き自転車をレンタルして。基地は・・・もういいかな。ありがとう、これまで長い間。
(この項おわり)
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