蓄積されていく疲労と制限時間のプレッシャー。それでも絶景は微笑む【恵那山・富士見台高原】(その9)

17:21
寒い寒い。萬岳荘11月上旬はもはや凍えるレベルの寒さだ。

広いキッチンとダイニングは、外に通じる扉を閉めても室温がほぼ外気温だ。

夜更けに寒くて目が覚めるならまだしも、まだ17時過ぎだというのにびっくりする寒さに見舞われるとは思わなかった。しかも屋内で。

「びっくりする寒さ」というのは誇張表現抜きで、本当にそうだ。

あまりに寒いので、せっかく大量に担ぎ上げてきたノンアルコールビールだけど飲む余裕がない。慌ててやかんでお湯を沸かし、紅茶を作った。

成城石井で買った紅茶パック。箱単位で購入するしかなかったので、山に持ち込むにはトゥーマッチな量になっている。もちろん、ほぼすべてが東京に持ち帰ることになった。

コーヒーにすることも考えたのだけど、レギュラーコーヒーだと粉の処理が面倒だし、インスタントだと物足りない。だから紅茶を買った。

もともと紅茶を買おうと思ったのは、早朝登山の際に水分補給と暖を取ることを兼ねようと思ったからだが、まさか登山前日の夕暮れ時に必要になるとは思わなかった。しかも、至急欲しい。

寒くてたまらないので、そうそうに夕食。

成城石井で買った、ラクサみたいな麺料理。電子レンジで温めること数分。

良かった、汁物にしておいて。普通の弁当を買っていたら、体が冷え切るところだった。

17:28
暖かさに幸せを感じながら、食事を取る。

本当なら、このラクサは「夕食のシメ」のつもりだった。ノンアルコールビールを楽しみながらつまみを食べ、小一時間くらい外の景色を楽しみながらダラダラと過ごし、最後にラクサで仕上げるつもりだった。

そんなダラダラ時間のお供として、雑誌も持ち込んでいた。dancyu。

しかし、だ。なにせ寒さが厳しくて、dancyuなんて読んでいる余裕がなくなった。そもそも、せんべいなど片手で食べられるものをつまみつつ雑誌を読む計画だったが、両手が塞がる麺料理を食べる展開になったので、雑誌の見開きを固定するための手が確保できない。

食事の手を一旦止めて、雑誌をしばらく読んでみた。すると、指先が厳しく冷え、とてもじゃないが雑誌を読んでいられなくなった。慌てて食事に戻る。

18:09
日が暮れた。食事も終わったので、外に出てみる。

「天空の楽園」「日本一の星空」を謳っているのだから、見ておかなくては・・・

だが、駄目だ!寒すぎる!これは我慢ができない。

しかも今日はあいにくの、大きなお月さま。満月に近い。

月がとても明るく夜空を照らし、星の姿をかなり隠していた。

これ幸い、ともう星空観察は諦めて自室に逃げ帰る。

18:19
萬岳荘において、ドコモ回線はほぼ受信しなかった。ごくわずかに電波をキャッチしているものの、ネット閲覧するほどの余裕はない。

画面に表示されている、ただいまの気温は1度。この気温がどの地域のどの地点のものを指しているのか、よくわからないが、萬岳荘がある標高1,600メートル弱の気温ではあるまい。下界の気温でこれなら、今ここにいる場所は氷点下になっているっぽい。道理で寒いわけだ。

18:43
僕が山小屋に泊まるときは、「できるだけ山小屋を満喫したい」ということで、消灯時間ギリギリまで寝床から離れて談話室や屋外で過ごす。でも今回は悔しいことに、それは無理だ。ダウンを着ても、ハクキンカイロを使っても、それでも寒い。

結局、布団に足を突っ込んで、時間を過ごす。採暖用の紅茶を飲みつつ。もちろん、もうdancyuを読んでいない。

18:50
これ以上寒さに耐えるのもしんどいので、もう寝ることにする。明日は3時40分に起きるつもりだし。

寝る前に、装備の確認をしておく。早朝出発で、ガサゴソやっていたら他の人に迷惑だ。

ザックに取り付けた熊よけの鈴がチリンチリン鳴らないかどうか、改めて確認しておく。この鈴は、付け根の部分を引っ張れば音が鳴らなくなり、もう一度引っ張ると音がなるような仕組みになっていて便利だ。

見た目は涼やかで、音もリーンと高い澄んだ音がする。

熊よけの鈴を装備して登山している人は昨今とても増えたが、中には美しくない濁った音がする鈴をつけている人がいる。そしてやたらとうるさい。そういうのではない鈴を探していたら、これがちょうど良かった。

総じて満足しているのだが、残念な点としては派手にチリチリと鳴らないことだ。ザックの装着場所によっては、いくら歩いても殆ど音が鳴らず、熊よけの役目を果たさない。

まあいいや、おやすみなさい。

2022年11月07日(月) 2日目

03:40
2日目朝。起床。

寒すぎて起きた、ということはなく、布団のおかげでちゃんと眠ることができた。ただし、一回起きてトイレに行ったけど。二重扉で重たい扉なので、開閉の際にバタンと音がしないよう、気をつけた。同室にもう一人、寝ているから。

その人はまだ寝ていたので、そっと布団を畳み、荷物を抱えて部屋を出た。まずはキッチンへ。

キッチンにオレンジ色の明かりが見える、と思ったら、スマホ充電用に用意された電源タップだった。

1時間100円。タップの横に料金箱が置いてあるので、性善説に基づいてお金を入れるルールだ。

朝ご飯は缶詰パンなのだが、なにはともあれお湯を沸かして紅茶を作らなくては。

そういえば、自分の登山において、「温かい飲み物を持参する」なんて初めての経験だ。これまで、山小屋で年配の方々がお湯を水筒に詰めている姿を散々見てきて、「お湯なんているのかねえ?水でいいじゃないか」と不思議だったが、僕も晴れてその仲間入りだ。

04:16
身支度ができたので、出発。

外に出ると、オリオン座が真正面に見えた。

月が沈んできたので、ようやく星空が本気を出してきた感じ。

でも、これから登山なのでいちいち星座を楽しむ余裕がなかった。その結果、ここまで来ておきながら「オリオン座だ!」と言っておしまいにしたのは、かなり勿体ない。なにしろ、オリオン座なら光害だらけの東京でも余裕で見ることができる星座だから。

04:17
記念撮影をして、出発。

昨日、チェックインの際に萬岳荘のスタッフさんに明日、恵那山に登ることを伝えたら、萬岳荘を出る終バスが15:15なので、それよりも帰りが遅くなると、東山道を通って数時間かけて園原まで下りるしかないですよ、と警告された。

若干心配そうな顔をして「何時に出発されますか?」と聞かれたので、「4時過ぎの予定です」と答えたら、「ああそれだったら」という反応をされ、そして近くにいた管理人さんにもその情報は共有された。やっぱり、下山しそびれる人が後を絶たないのだろう。

ちなみに僕は15時までにロープウェーを下りきり、下界にいないと帰りのバスが間に合わない。なので、15:15までに萬岳荘、なんて悠長なことは言っていられず、13時過ぎには神坂峠に戻ってきていないとまずい。

残された時間は8時間半程度。とにかく時間が読めないので、今から不安だ。どんどん予定を巻き気味にして、時間に余裕を持っておきたいものだ。

04:31
真っ暗闇の中を歩く。

ヘッドライトで前方を照らしながら歩いていたが、あまりに暗いので途中からランタンをザックから取り出し、ランタンを懐中電灯がわりにしつつ、ヘッドライトも使うというやり方で前に進んだ。

そうか、星空が綺麗ということは、まず自分たちがいる場所が真っ暗でないとはじまらないんだな。

昨日、車で大賑わいだった駐車場はこの時間、一台も停まっていなかった。月曜日ということもあって、登山者は少ないのだろう。

04:34
神坂峠にある、登山口標識。

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