
05:05
また前方の登山道脇に木の柱が見えた。何かのランドマークらしい。
「一時が万事、そんな感じで、ひたすら前方数メートルの視界の中をてくてく歩いていく。今使っているモンベルのヘッドライトはコンパクトで軽量なので持ち歩きにとても便利で気に入っている。しかし、夜明け前で、周囲が真っ暗闇の樹林帯の中を歩くのであれば明るさが明らかに足りなかった。
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ランタンと併用して、ようやく歩ける感じ。
都市の明かりが跳ね返って、空全体がぼんやり明るい場所ならばともかく、ここはさすが星空が名物な場所だけあって空が真っ暗だ。殆ど何も見えない。
後で調べると、明るさの最大が60ルーメンだった。
いつもの僕は、山小屋でしっかり朝ご飯を食べ、夜が明けてから活動を開始する。そのため、ヘッドライトというのは「小屋の中で手元を照らすためのもの、または下山が遅くなった時のための非常用照明」という位置づけだ。このため、あんまり明るいものは必要としていなかった。
でも、今回は違う。明るいライトがほしい。
写真だと、正面に恵那山のシルエットが薄っすらと浮かび上がっている。しかし、これはスマホカメラのAI処理によって作られたものであって、実際の肉眼だともっと視界が悪い。
とはいえ、恵那山が見えた、ということは昼間なら展望が良い場所に来たということだ。まだ恵那山は遠そうだが、山頂が見えているというのは気分がよい。
まだ朝5時だけど、気持ちは急いている。当初計画だとあと4時間で下山を開始しなければならないが、果たして間に合うだろうか?今のところ、萬岳荘からの所要時間はオンスケで来ることができている。

ここは千両山だった。
下山時、萬岳荘から出るバスの時刻とはタイミングが合わないと予想される。今日からダイヤが変更となり、昨日までとうってかわって大幅減便となるからだ。
なので、この千両山から南に分岐する道を通り、バス道に下り、そこからヘブンス展望台まで歩いていく計画になっている。所要時間、ざっと45分。
15時までには下界に戻っていなければならないので、逆算すると14時にヘブンス展望台に到着がおおよそのデッドラインだ。そこからさらに逆算すると、バッファ込みで13時にはここ、千両山に帰ってきておきたい。
あと8時間後。
なんだ、余裕じゃないか・・・と思うが、気持ちはとても焦る。なにしろ、遅刻が許されないデッドラインだ。遅れたら、東京に戻れない。東京に戻れないどころか、今晩どうすればいいんだ?と園原で途方にくれてしまう。
もしそうなった時のプランBは何も考えていない。せいぜい、萬岳荘の出発時間をやや前倒しにすることを考え、それを実行したくらいだ。今この瞬間がプランB。

05:13
神坂峠から恵那山までの道は細かいアップダウンがある、と聞いている。
なので、一旦眺望がよくなったけど、登山道はまた樹林帯に戻る。

05:30
東の空が明るくなってきたが、まだまだ暗い。
おそらく一日の中でもっとも寒い時間帯だと思うが、寒さについてはさほど困っていない。ちゃんと防寒して、歩いていれば大丈夫。
ただ、手袋は必須だ。そのため、写真を一枚撮るたびに、手袋をはずし、その手袋を一旦片付け、スマホを取り出し・・・という作業を繰り返すため、その都度数分ずつのタイムロスになる。
これは累積でかなりの無駄になる、ということに気が付き、気温が上がってくるまでは写真撮影の頻度を落とした。

05:39
前方に看板が見えた。
鳥越峠だ。
この鳥越峠には登山道の分岐があって、中津川から神坂峠まで続く道の途中に下りることができる。
下りたところには大檜駐車場と呼ばれるスペースがあって、車の駐車も可能。神坂峠付近に車を停めて登山を開始するよりも、大檜駐車場に駐車して鳥越峠まで登ったほうが、時間が短縮できる。
ただし、標高差は神坂峠のほうが少ないので、「時間がかかるけど疲労は少ない神坂峠」「時間は短いけど疲れる大檜駐車場」といった使い分けになる。

05:41
とにかく暗い。看板も、近づいて見ないとよくわからない。
そして写真を撮っても、それがちゃんと写ったのかどうか、スマホの画面を見ただけではよくわからない。なんとなく写っているのはわかるのだけど、ブレてるのかボケてるのか、それともちゃんと写ったのかはわからない。
なので、一応バシャバシャと何枚も撮影しておいて、後で家で確認することにした。

05:47
空が本格的に明るくなってきた。紫色に染まる空。今日はやや雲がでている。
正面に恵那山。ゆったりした山容なので、近くにあるのか遠いのか、距離感覚を失わせる規模。

05:48
暗い登山道を歩く。そろそろ照明はいらなくなりそうで、助かる。LEDランタンを懐中電灯がわりに使っているので、片手が塞がって不自由していたんだ。

05:52
何を撮りたくてこの写真を撮ったのか、覚えていない。

06:01
朝6時。すっかり夜が明けた。
この時点で、ダウンジャケットのチャックを開けている様子が写っている。完全に着込んでいないと寒い、というほどではない寒さだ。
背負っているザックの大きさは、昨日からまったく変わっていない。食べ物を食べても、サイズがコンパクトにならなかった。むしろ、プラティパス(点滴の袋みたいな形をした、柔らかい水筒)に水を詰めてザックの中に入れているので、容量が増えたくらいだ。

06:01
明け方の登山道を進む。尾根からやや外れた道。

06:10
笹の生命力が強くて樹林帯に進出しているのか、それとも笹野原に白樺などの木が果敢に進出しているのか、どっちだろう?

06:17
尾根に出た。「恵那山・富士見台縦走路 恵那山へ至る(中津川市)」の看板。
特に撮影するまでもなかったのだが、何か視界に入ったものがあれば、ひとまず撮影している。急いでいるので、いちいち「これは撮影に値するか?」なんて吟味していない。
なんで朝6時なのにこんなに焦っているんだ。初めての体験だ。
あと3時間後には下山を開始していないといけない。間に合うだろうか?

06:18
恵那山が遠いんだか、近いんだか、よくわからない。
以前よりも距離が近づいた分、むしろ見上げるような位置関係になってきた。おかしいな、萬岳荘からここに来るまで、少しずつ標高を上げてきたつもりだったのだけど。
あとになって地図を確認してみたら、実際はせいぜい20メートルちょっとしか標高を稼いでいないことがわかった。えー、がっかり。千両山が標高1,662メートルなので、神坂峠から100メートル登り、それからまた標高をおとしていた。
登山開始から約2時間。まだまだ恵那山山頂は遠い。標高だけで見ると、まだスタートラインにとどまっているような状態だ。既に疲れているのに。
写真の、眼の前に見える山は大判山。標高1,696メートル。

06:24
霜が地面にびっしり付着している。

06:25
まだ路面が凍結するほどではないので、助かった。
スパイクの脱着に時間を取られていたら、マジで下山時刻が間に合わなくなる。

06:28
大判山手前。

06:30
東の空に日が昇ってきた。

06:38
このあたりの道は凍結一歩手前、といったところ。
この山に登るのがあと一週間遅かったら、難易度が上がっていたと思う。

06:41
大判山。広い山頂に標識とベンチ。
そして正面に恵那山。
ここまで来て、ようやく目の前を遮る前衛の山がなくなった。ここからは山頂を目指して標高を稼いでいくのみ。
山頂までの標高差、500メートル。まだそんなにあるのか!
(つづく)
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