アメリカ食い道楽で肝臓フォアグラ一直線(3日目)

3日目昼食 サウサリートの悲劇

【時 刻】 11:30
【場 所】 サウサリート・海鮮レストラン
【料 理】 ・貝の白ワイン蒸し ・ルートビア

ルートビア

地平線が見える大平野を快調にぶっ飛ばしたおかげで、サンフランシスコ国際空港には予定よりも2時間以上前に到着する目処がたった。ということで、ジーニアスの提案でゴールデンゲートブリッジを挟んでサンフランシスコ市街の反対に位置する、サウサリートの町に行ってみることにした。

ちょうど時は昼時。ならばメシにでもすっぺえと、ちょうど町の中心地にあった海鮮レストランに入ってみることにした。

当然メニューは英語で書かれているワケで、バフェとか冷凍食品とか「オーダーが不要な料理」で油断していたおかでんはさりげなくうろたえてしまった。どんな料理かはおおよそ判断がつくものの、うんうん唸りながら解読するのは格好悪いしみっともない。あわわ、どうしよう。海外経験が無いおかでん、ここに来てぽろぽろと剥げ落ちている化けの皮を押さえるので精いっぱいになっている状況。

そんな状況で、ジーニアスが悪魔のお誘い。「おっ!おい、ルートビアがあるぞ!コレ頼んでみないんスかおかでんセンセイ」

ルートビアという名前は、「ゲテモノな飲み物」というくくりで一部マニアから熱く語られているのを、何度かインターネット上で目撃したことがある。なんでも、サロンパスを甘いシロップにつけたような味、らしい。想像しただけで気持ち悪い。基本的に食わず嫌いはしないおかでんでさえ、「いやそれはゲテモノだな」と思って疑っていなかった飲み物。

しかし、友人とはかくも残酷なる生き物なのか。おかでんが必死で「いやー、やめとくよ、まずいって評判じゃんか」と笑い話で済ませようとしているというのに、

「やっぱりアメリカといえばルートビアだろー」
「ここで飲まないと絶対後悔するって、保証するから」
「軍曹殿、なぜ注文しないでありますか。理解できないであります」

などと手をかえ品をかえぐいぐぐいと迫ってくる。そうなってくると、こっちもだんだんその気になってこざるを得ない。とどめは、

「ほら、他のテーブル見て見ろよ。ルートビアの瓶があっちこっちにあるだろ。アメリカ人の好物なんだよルートビアは。それを体験しないと、アメリカに来たとは言えないだろー」だった。

「それじゃ、お前が飲めよ」とすかさず突っ込めばよかったのだが、あまりにも強引な畳みかけに、ついつい横にいた店の人に「る、るーとびあ、ぷりーず」とどもりながら注文してしまった。店のお兄さんは「ルートビア。オゥケィ」とにっこりと肯き去っていった。おい、ちょっと待て、そのにっこり笑顔は単なる営業スマイルなのか、それとも違う意味があるのか!弱気のおかでんは既に被害妄想だ。

ジーニアスは「うひょー」とか訳の分からない奇声を発してこのオーダーに熱烈なる歓迎を表明した。うひゃひゃと笑いながら一言、「お前、よく頼んだなああんなもの」・・・こういうのを、手のひら返しという。

ちなみに、食べ物の方はこの店で一番安い奴をとりあえず何の考えもなくセレクトしておいた。観光地物価というのは世界どこでも同じらしく、一番安いといっても$10はしてしまうからしょうがない。

しかし、その注文したメニューをジーニアスに説明すると、「おっまえ、馬鹿だなあ」と一言ばっさり。先ほどまではルートビアを頼んだ英雄だったはずだったのに、一瞬にして畜生レベルにまでランクを落とされてしまった。聞くところによると、どうやら僕が頼んだものは「貝の白ワイン蒸し」だったらしい。「お前そんな物頼んでどうすんのよ、日本みたいに定食じゃないんだからホントそれだけしか出てこないよ」「いやー、ルートビアが出てくるけど」「ルートビアと貝オンリーか。ヤな昼食だな」その片棒を担いだのは誰だ。「いや、サンフランシスコの新鮮な魚貝だからそれだけで十分満足な味に違いない」・・・しばらく、自分の選択は間違っていなかったという論調で意地を張るが、どう考えても自分の軽率さと英語力のなさが招いた災難なわけで、時間と共に言い訳がトーンダウンしてしまった。最後、ジーニアスに「今度、メニューがわかんないときはちゃんと俺に言いな。わからないまま注文するととんでも無いのが来るぞ」とありがたいお言葉を賜る。

しばらくして、ルートビアがやってきた。日本で言うところのスタイニーボトルが人を殴りやすくごつくなって再登場、っていうスタイルの瓶だ。ラベルも何も張っていないあたり、非常に怪しい。

ジーニアスの痛いほどの好奇に満ちた視線にくらくらしながら、ルートビアを瓶ごとぐいっといってみた。ええい、何事も体験だ。・・・あっ!

口の中に流れ込んで来た液体は、はるか数千キロ離れた日本でうわさとして聞いていた「湿布薬」の味そのままだった。今朝のドクターペッパーに負けずと劣らないあまったるぅぅいシロップ液に、湿布風味がブレンド。口に含んだら、まず口腔内全体に広がるべたつく甘さ。それから一瞬遅れて喉から鼻に抜ける湿布のすうーっとした感覚と臭い。なんじゃあ、こりゃあ。

おかでんはてっきり日本でのうわさ話を「誇張表現含むものだ」と解釈していたんだけど、とんでもない。ほんっとに甘いシロップ+湿布、なのだ。ただ、それだけの飲み物。今回、よーく冷やされていたからまだ清涼飲料水の範疇を土俵際いっぱいで守っていたが、時間が経ってぬるくなったらもうどう間違っても「何かの薬?」って感じだ。そうでも解釈しないと、とても我慢ならない味だった。少なくとも僕にとっては。

こちらのリアクションを期待しまくって一人わくわくしているジーニアスに、この自分自身の意味不明なイラダチと、こんな飲み物があったのか!というオドロキとを語ると、「やっぱりそうか!やっぱりそうか!」と一人大喜び。「お前も飲めよ」とルートビアの瓶を押しつけてみたが、「いやー、俺はレモンティーがあるからネ、こっちで十分なの。ほら、英国留学経験とかあるじゃない、俺は。だから紅茶が性にあって」とワケのわからん言い訳を展開して拒絶した。

貝オンリーの皿

前門の虎:ルートビアにすっかり仰天しているうちに、後門の狼登場。あっ、あさりの白ワイン蒸しだ!

どーんとデカい皿に、そのまんまアサリの白ワイン蒸しがごろりごろり。申し訳程度のパセリがぱらぱら、添えられたフォークにはレモンの切り身がぐさり。以上!

「・・・おい、これか俺が頼んだのは」「だから言っただろうが」「武骨だなあ」「アメリカだから」

どんな料理でも、「アメリカだから」の一言で納得ができてしまうというのも怖いが、それにしてもあまりに芸のない登場に愕然としてしまった。もうちょっと付け合わせで彩りを添えるとか、しようと思わないのだろうか?

肝心のお味は、外見で推して知るべし。ただ単にあさりを白ワインと水で蒸しただけって感じ。貝から出るクエン酸の出汁を使いこなせていないし、大体蒸しすぎたのか貝の身が固い。一言で言うと、露骨にトホホな料理だったのだ。飲み物、食べ物、ダブルでいいパンチをもらってしまった。

当のジーニアスは、涼しげな顔をしながらレモンティーを飲みつつサーモン料理を食べていた。その料理には野菜が添えられていて、とてもうまそうに見える。こっちはひたすらあさりにむしゃぶりつくだけ。お昼ごはん:あさりのみ、という事態にアメリカで遭遇するとは全く予想できなかった。

食後、ぐったりとしていると突然ジーニアスが目を見開いて「お、おい!横を見てみろ!」と隣のテーブルに目配せした。見ると、そこには2歳前くらいの赤ん坊を連れた家族連れが食事をしていたのだが、その赤ん坊、なんとルートビアの瓶をラッパ飲みしているではないか。

しばらく、その光景を二人とも本当にあぜんとして見つめてしまった。多分、おかでんはそのとき口をあんぐりと開けていたはずだ。それくらい衝撃だった、誇張表現抜きで腰が抜けるくらいびっくりした。

どうやら、お母さんがルートビアを注文したらしい。で、その大半は自分のコップに注いで、残りの少しを瓶ごと赤ん坊に与えたようだ。で、その赤ん坊は嬉々として瓶をラッパ飲み。おいおいおいおいっ!何をやってるんだお前はぁぁっ!

しかし、それだけでは事は収まらないのがアメリカのアメリカたるところで、ラッパ飲みでルートビアが空になってしまったのがよっぽど悔しくて悲しかったのか、赤ん坊が「もっと欲しい」と号泣しだしたのだ。「お、おい、もっとルートビアくれって泣いてるぞこの赤ん坊!」いつも冷静沈着なジーニアスにしては珍しく動揺した声。おかでんも、「あ、ああ・・・」と相づちをうつのが精いっぱいだった。

店を出てサウサリートの町を歩きながらの会話。

「しかしまいったな、ああいった飲み物を子供の頃から飲んでいるとは」「しかもラッパ飲みだったぞ」
「あれがアメリカ人の味覚の原点なのだろうか?」
「だとすると、とても俺達じゃ太刀打ちできないなあ、別次元の生き物だぜ、ありゃあ」

二人とも妙にぐったりしながら、サウサリートを後にするのであった。

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