アメリカ食い道楽で肝臓フォアグラ一直線(3日目)

3日目夕食 中華に見たヒエラルキー

【時 刻】 19:00
【場 所】チャイニーズカフェ・請請(チンチン)
【料 理】 ・餃子 ・炒飯 ・野菜炒め ・シンガポール・ヌードル

サウサリートからサンフランシスコ国際空港を経由し、一気にラスベガス上陸となった。今朝まで大自然にこれでもかこれでもかと脇腹をくすぐられていた状況だったのに、今度は下世話なまでに俗世間にまみれている世界に来てしまったので、頭のスイッチがなかなか切り替わらない。

なにしろ、ラスベガスのマッカラン国際空港に着いたとたん、到着ゲートにスロットマシーンだもんなあ。さすがにプレイしている人は少なかったけど、そこまでして旅行者からカネを吐き出させたいのか!と愕然としてしまった。

ラスベガス滞在記は語ると長くなるので、別の機会に譲ることにするが、夕食にありつくまでに

  • ジーニアスの荷物がユナイテッド航空のポカでサンフランシスコに置き去りになってしまった
  • 部屋の金庫が最初からロックされていて開けられなかったので、フロントに苦情を言ったら屈強なガードマンが棍棒を持ってやってきた

等々の小さなイベントがあったことは記しておこう。

さて、カネと欲にまみれた街ラスベガスでの最初の食事。ならば豪勢に、いじきたなく・・・といきたいところだが、ここまでの数日間の食生活でのダメージが大きすぎた。

こちらとしては平穏無事に食事さえさせてもらえればそれで十分なんですハイ、って負け犬な姿勢なのであり、すなわちあまりアメリカーンな料理はご遠慮願いたいわけである。

そこで、この日は中華料理を頂くことにした。ちょうどわれわれが泊まっているホテル『ニューヨーク・ニューヨーク』1階にお店があるということもあったし、ガイドブック(地球の歩き方)にも「まだ食べたことのない人はぜひラスベガスでお試しあれ!」と、挑発的な態度でこちらに色目を使っていたし。

チンチンの店頭にて

この店に行こうと言い出したのは、ガイドブックを持っていたおかでんであった。ジーニアスは「いいんじゃないの」と賛意を表明したが、「でも、お前が期待するような中華料理は出てこないと覚悟しといたほうがいいぜ」と不気味な予言を一言添えた。なぜだ。

「でも、アメリカって中国人移民が比較的多そうだから、中華料理の味ってまだましなんじゃないの?ほら、初日にフライ山盛り食べさせられたカリフォルニアの田舎スーパーでさえ中華料理のデリがあったわけだし」

「そりゃチャイナタウンとか中国人相手のお店だったらそうかもしれないけどさ。あの田舎スーパーのデリ、旨そうに見えたか?どう考えてもまずそうだっただろ?・・・ちょっとガイドブック貸してみ」

ガイドブックをざっと一読するやいなや、ジーニアスうれしそうに

「ああー、やっぱり。ほら、『LAから来たグルメなチャイニーズ』って書いてあるぞ。本店はロスにあるんだと。こりゃ確実だな」
「何が?」
「確実に味がアメリカナイズされてるってことだ」
「そういうもんか?」
「まあ、試してみればわかるだろ」

店の入口には、すらりと長身の金髪美人店員がお客を待ち受けていた。黒いロングドレスを身にまとい、シックなんだけどそのスタイルの良さで目立ってしまう。そんな店員だった。このお姉さんに誘導されて、席についた。われわれは米国発中華料理の行き着く先を見極めようとしていたわけだが、思いっきり美人の登場に出鼻をくじかれてしまった形だ。なんか恐縮気味の二人。

「おい、いきなりすごいな。さすが『LAから来た店』なだけあるぞ」
「美人だったなー」
「でも、あの人、やっぱ友達とかに『私が働いているお店はチンチンです』って言ってるんだろうか」
「そりゃ言うだろ、何も間違っていないんだし」
「やらしいな」
「ある意味セクハラだな。ところで、チンチンってどういう意味だ。まさかカミカゼとかハラキリとかと一緒で、日本語なんじゃないだろうな」
「えーっと、ガイドブックによると『中国語で乾杯の意味』なんだって」
「へえ。でもまさか、チンチンというコトバの日本における意味ってのがペニスの事である、なんて事は当然知らないんだろうな」
「じゃ、さっきのお姉さんに教えてやれよ、店名の意味を」
「やめとけ、それこそセクハラでつまみ出されるぞ」

なんていうお下劣な会話を、「どーせ周りに日本語が分かる奴はいないだろー」ということで堂々としゃべり倒していたら、黒人のボーイさんが注文を取りにやってきた。

「あれ?さっきのおねーさんは?」
「えーっと、あ、居た、また店の入口に戻ってるぞ。どうやら客寄せパンダだったらしい」
「うーん。良くできてるなあ」

せっかく、美人おねーさんが給仕をしてくれるのかと期待していたのに、役割分担がしっかりしていたとは。ややがっかり。

まあ、とりあえずバドワイザーで乾杯だ。黒人のボーイさんはにこにこしながら、わざわざグラスにビールを注いでくれた。こんな一挙手にもおかでんは大感激。

「へえ。わざわざビール注いでくれたぞ。ご丁寧だな」
「そりゃ、チップ欲しいからな」
「さすがだなあ、こういうのって素直にうれしくなっちゃうな」
「単純だな。じゃ、チップ奮発してやれよ」
「いや、最後まで見極めてからだ」

なんか、こっちが審査員になっている様な気がして身が引き締まる。すいませんねえ、海外旅行は初めてなもんで、こんな些細なことにもどぎまぎしてしまうのよ、これが。

「じゃ、乾杯、ということで」「チンチン!」「チンチン!」

日本ではとても破廉恥で叫べないコトバを、グラスを高々とかかげて叫んだ。冷えすぎているバドワイザーが、心地よく喉を通り抜けて行く。ああ、至極。幸せだなあ。

黒人ボーイさんが、自分の店の名前で乾杯をしてくれたものだと勘違いして、通りすがりに僕らににっこりと会釈してくれた。

「あのボーイ、きっと店の名前で乾杯したんだと思っているんだろうな。まさか違う意味で乾杯されているとは夢にも思わず・・・」
「違う意味だったのか?」
「さあ、どうだろうねえ。うひひ。でもよく考えると、食事前に叫ぶコトバじゃないよなあ」
「やっぱりそっちの意味だったんじゃないか」
「さあてねえ」

ヘンなギョウザ

さて、まず一品目登場。餃子だ。日本の中華料理屋のように、たれを入れる小皿が存在しないため、平皿に醤油をたらす事になる。あまり見栄えが良いものではないな。あと、フォークがついてくるあたりも日本とは違う。

この餃子、蒸し餃子に相当するものだけどえらく皮が厚い。一口食べたら、もったりまったりしてしまってなんか変な感じ。いや、変な感じなのは具にも言えることだ。ここにも、アメリカンな肉の味付けが!

「あっ、この味、あちこちで出会ったソーセージの味だっ!」
「ほら。LA経由の中華料理って事はこういうことなのだよ」
「うーん、見事加工貿易されてしまった、って感じだな」

我々のテーブル

その他の料理も出そろった。手前から、炒飯、野菜炒め、シンガポールヌードルという謎の食べ物。写真を撮ろうとしていたら、ボーイさんが写真を撮ってくれた。こういうところもすごく親切だ。うーん、日本でもチップ制があったほうが良いのだろうか。

炒飯。色が茶色い。何かのスープを含ませて炒めたものなのだろうが、どうも炒飯というよりピラフという感じがした。

野菜炒め。すまん、記憶にない。旨かったという記憶もないが、まずかったという記憶もない。

シンガポールヌードル。「おい、これはビーフンではないのか?」「ほんとだ、ビーフンだ」「なんでシンガポールだとビーフンなんだ?」「さて?」「そういえば、竹刀の事をシンガポール・ケインというな。それと関係あるのかな」「東洋的なものは全部シンガポールなのかな?」「そんな馬鹿な」

料理が出てくるタイミングは比較的早い。店員がきびきび働いているからに他ならないのだが、その中で一人ゆったりと暇そうにしている店員が。

「おい、あの美人の姉さんだけ暇そうだな。他の店員は忙しそうなのに」
「ほんとだ。でもよ、ああいうのがこの店で一番の高給取りだったりするんだから。資本主義においては、美人であるというだけで十分市場価値があるという証明だな」
「つまり、ブサイクが一生懸命働くのよりも、美人がたるそうに仕事している方が尊い、ということか」
「いや、ブサイクが一生懸命働くから美人が楽できるのよ、そこ勘違いしてはいかん。食物連鎖と一緒、てっぺんにいる生き物が生き続けるためには、下層のヒエラルキーがたくさん居ないといかんわけよ」

なんか、このお店の場合、料理以外の記憶しか残っていない。肝心の料理・・・手元のメモには「評価5点」と書き記されているのみだった。

退席するとき、愛想の良かった黒人ボーイさんのために、ちょっと多めのチップを置くことにした。チップ代含めて、料理4品+ビール3本で50ドル。うーん、高いか、安いか・・・。

さあ、夜も更けてきた、カジノに繰り出せ。

(つづく)

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