激辛グルメ祭りは一度に9店舗が出店するイベントだ。この9店舗が入れ替わり立ち替わり、開催期間中42店舗が出入りする。
会場を訪れた人は、「さて、何を食べよう?」と眼の前にある様々な情報の洪水に右往左往することになる。ざっと見渡して店名、料理のジャンル、具体的な料理、値段、そしてお店の前の行列などを見比べる。座席の確保だってしなくちゃいけない。なので、気が動転して、はっきりいって店舗の上に掲げられている料理写真なんて、大して記憶に残らない。
しかしこのお店だけは違う。「えっ!?」と目を疑う料理写真が掲げられている。
2店舗目 辛麺 華火

どのお店も料理が赤黒い。そもそも看板が赤いし、客の目は赤に慣れてしまう。
それでも「えっ?」と二度見するのが、このお店の「辛麺」だ。

辛麺には「小辛」「大辛」「煉獄」と3種類あって、辛くなるにつれて200円ずつ値上がりする。香辛料の量だけでこんなに値上げするのかよ!と思うが、写真を見ればその声も喉からでかかる前に引っ込むだろう。
煉獄、赤っ!
真っ赤だ。というか、唐辛子どっさりだ。おいなんだこれは。
どれを頼むか?というと、そりゃあもう一番辛いやつをください、と言うしかあるまい。
この料理、オフ会として何人かでシェアできるならば楽だろう。でも、一人で食べ切るとなるとしんどいかもなぁ、と心配にになる。
「激辛グルメ祭り」でオフ会を長年やってきて得た経験が1つある。それは、「辛い料理であっても、少量ずつシェアする限りは案外平気」というものだ。いろいろな激辛料理があっても、それぞれ辛さのポイントは異なる。喉にくるのか、口の中が痛いのか、食べた直後なのか、後からくる辛さなのか。痺れるのか、痛いのか。料理ごとに全部個性がある。なので、「辛い料理を少量ずつあれこれ食べる」という行為は、結果的にそれなりの量の辛いものを食べたとしても、案外平気だ。もちろん胃腸にはダメージが蓄積するので、翌日はしんどくなるけれど。
で、今日は一人で食事をしている。とんでもねぇ辛さの料理に遭遇してしまうと、それ一食で悶絶する可能性がある。胃袋のキャパはまだあっても、辛さでもうこれ以上食べられない、ということがありえる。
そういう怖さを感じさせる、ビジュアルだ。
ああそうだ、はるか昔、激辛グルメ祭りで「デスうどん」というのを食べたことがあるけれど、そのときの恐怖に近いな。でもデスうどんのときはみんなでシェアしたので平気だったけど。

チーズ、バター、タマゴの無料トッピングがつきます、と店員さんから言われる。どれも辛さを緩和してくれる頼もしいツールではあるが、果たして僕は辛さを緩和したいのだろうか?それとも、緩和しないほうが本望なのだろうか?一瞬僕は困惑してしまった。
判断がつかなかったので、とっさに「どれがおすすめですか?」と店員さんに聞いてしまった。なんて馬鹿な質問なんだ。我ながら芸がない質問だ。すると店員さんは、「チーズが一番人気ですね」と言う。ならば、ということでチーズトッピングでお願いした。
出てきた料理がこれ。辛麺・煉獄・チーズ乗せ。
チーズがたっぷり乗ったのは胃腸への救済になったけど、「やばい見た目」は失われてしまった。それはちょっと残念。
食べてみると、この赤さは赤唐辛子によるものだった。韓国食材店でドサッと500g袋などで売られている、香りが強くて辛さはそれほど強くないタイプのものだ。なので、真っ赤な割にはそこまでチクチク痛い料理ではない。川崎あたりでよく食べられる「ニュータンタンメン」系のかき玉子がたっぷりはいっていて、優しい食感と味わい。なんだ、うまいじゃないか。
麺はこんにゃくが入っているのだろうか、弾力が強くて食べごたえがある。それでも、「噛んでいるうちに辛さがじわじわやってくる」こともなく、おいしく食べることができた。チーズと玉子、そしてどっさりの唐辛子でスープはドロドロだ。こういう料理は口の中にまとわりついて、「いててて!」と痛みが後に残ることがあるけれど、この料理は爽やかに食べ切ることができた。うん、美味しかった。
味に満足するだけでなく、「自分もまだまだ辛い料理を食べられるんだな」という自信につながった一品。
3店舗目 本格ベトナム料理 マイヒエン

会場の入り口入ってすぐのところにあるお店。このお店が店頭に「TAKE OUT」の張り紙をはっていたので、「あ、主催者は料理の持ち帰りを公認しているんだな」と安心できた。持ち帰りができるんならこの勝負、一人でも戦える!と心強く思ったものだ。

会場入口で配布されている公式パンフレットを見ると、このお店は「サクサク揚げ春巻」「辛辛牛肉フォー」「辛辛鶏肉フォー」の3品を出品していることになっている。しかしお店に行ってみると、パンフレットには乗っていない「ベトナムサンドイッチ」、いわゆる「バインミー」もメニューにあった。しかもバインミーだと5辛まで対応できるようだ。
激辛バインミー?食べたこともないし、想像したこともない。ぜひこれを頼もう。
ちなみにベトナム料理というのは基本的に辛くないジャンルだ。ベトナム出身の人がこのメニューを見たら、びっくりすると同時に笑ってしまうだろう。
たとえば外国で、激辛日本料理屋台と称して「激辛天ぷら」とか「激辛寿司」がメニューで並ぶようなものだ。

ベトナムサンドイッチ5辛。
「パクチー入れますか?」と店員さんに聞かれたので、「イエース」と力強く答えた。いや、店員さんはベトナムの人なのに、「イエース」って答え方はおかしいだろ。でも、なんだかそう答えたくなる、嬉しい提案だった。パクチー大好き。
この料理は、包装紙に軽くくるんだだけの形で出てきた。持ち帰りにします、と伝えればラッピングが変わったのかもしれないけど、これなら現地で食べていなくちゃ。
野菜の彩りが美しい。赤黒さに満ち溢れたこの会場では癒やしの光景だ。

だけどこの料理はしっかり5辛。パンからはみ出た部分は新鮮野菜でも、割れ目の置くにはたっぷりと唐辛子のソースが詰め込まれていた。切り刻んだ唐辛子を少量の油で漬けたようなもの。正式名称は不明だけど、これがなかなかに辛い。
さっきの辛麺よりもこちらのほうがダメージを受けた。辛いパン、というのは「カレーパン」というイメージしかなかったけど、こいつァ辛い。油断していたからなおさらだ。
でも、美味しいんだよな。ほんとこの激辛グルメ祭りはすごい。「辛さばっかり追求して、まずい」という料理にほぼ出会わない。どこも、「辛いけどしっかり美味しい」料理を提供している。主催者のお店選びが絶妙なんだろうし、お店も「辛いだけじゃん、と言われたくない」という気概を持って挑んでいるのがよく伝わる。

さてここから持ち帰り料理を調達することにする。現地で食べるのはここまでの3品に留め、持ち帰りは4品。今晩と明日にわけて、夫婦で食べることにしよう。
夫婦で食べたほうが楽しい、というのは当然として、これ以上ここで一人食べていると金銭的な罪悪感が半端なかったので、パートナーのいしを「共犯者」に仕立てたかった。だって、ここまでの3店舗で3,200円だぜ?サラリーマンの昼食としては高すぎる。そしてこれが今回だけでなく、イベント期間中何度も発生することになる。申し訳ない気持ちになるだろ、さすがに。
ということで、おかでん家の家計としては支出は変わらないのだけれど、4品を「戦利品」として家に持ち帰ればなんとなくセーフっぽい雰囲気だ。なにがセーフなんだか自分でもよくわからないけれど。
「アムリタ食堂」では激辛ソーセージを購入。グリーンカレーやガパオ丼はご飯物なのでスルー。家で食べる用なら、ご飯はいらない。

陳家私菜では、よだれ鶏を購入。
店員さんに「お持ち帰りできる容器の料理はどれですか?」という質問をしたら、予想外の質問だったために店員さんが目を白黒していた。日本語を母語としていない方ということもあって、一瞬僕が何を言っているのかわからなかったようだ。
そりゃそうだ、普通の客なら「辛さはどれくらいですか?」とか「量は多いですか?」といった質問をするだろう。それが僕の場合は、「持ち帰りできる蓋!蓋がついてる容器の料理は?蓋ってわかりますか?ほら、カパッと器を覆うもので汁がこぼれないやつ!」なんて言ってる。

このお店は麻婆豆腐が名物だけど、よだれ鶏のほうが家に持ち帰って夕ご飯のおかずに向いていると思ったので麻婆豆腐は選ばなかった。
現地で食べるか、家に持って帰るかだと料理のチョイスは変わってくる。

写真奥がよだれ鶏。ありがたいことに、汁がこぼれないように厳重なラップ包装までしてくれた。さらに、僕が手にしていたアムリタ食堂のソーセージもラッピングしてくれうた。お気遣いありがとうございます。
よだれ鶏は、蒸し鶏にラー油ベースの辛いたれをかけた料理だが、なにしろラー油なのでちょっとした隙間からでも漏れる、染みる、一度染みたら色が落ちない。
家に持ち帰るときは、料理をうっかり横倒しにしてしまわないように最新の注意を払った。このために大きめの、マチ付きトートバッグを持ってきたのは正解だった。
というわけで「激辛グルメ駅伝」第一週目、現地での食事はこれでおしまい。持ち帰りとなった4品を今晩以降食べていくことにする。
(つづく)
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