10店舗目 麺屋やっとこ
麺料理は早く食べておいたほうがよいので、ここで「麺屋 やっとこ」の極上のブラックまぜそば(超激辛)を食べることにする。
「まぜてススレばたまらない旨辛」というカッコ書きがついている。
辛い料理を食べるとき、「すする」という行為は危険だ。むせるからだ。小刻みに歯で刻み、その間に口の中で料理を冷やしつつ飲み込んで行くのが正解だ。一度に多く口の中に料理を頬張るのも危険。その分咀嚼量が増えるので、噛んでいる間に痛みが脳神経に到達する。
僕らが激辛グルメ祭りで辛い料理を食べていると、だいたいみんな似たような辛さの印象を持つけれど、微妙に「いや、辛くなかった」とか「これはすごく辛かった」と意見が分かれることがある。
これはいろいろな要素があるはずだけど、「食べ方が人それぞれ」という理由もあると思う。
極上のブラックまぜそば(超激辛)。
確かに辛さを予感させる赤い部分、黒い部分はある。でも、下品に唐辛子どっさりです!辛いです!という風貌ではない。
今回の料理全般的に、「露骨に辛さが目立つ外観」の料理は少ないと思う。
「辛くすればいいんだろう?ああん?と客が舐められているわけではない、ということがわかるのでお客としては嬉しい。そう、単に辛いものが食べたいんじゃないんだ。辛くて、うまいものが食べたいんだ。
逆に考えると、料理をむやみに赤黒く染めなくても充分に辛くできる効率の良いスパイスが出回ってきているのかもしれない。詳細は知らないのであくまでも憶測だけど。
そういえば、過去の激辛グルメ祭りで、韓国料理店の料理が「コチュジャン入りだし、どうせ甘辛い程度だろう」と油断していたら、無色透明のカプサイシンソースがかけられていて悶絶したことがあった。辛さ成分だけを抽出したエキスをかけているんだから、そりゃもう辛いに決まってる。
まぜそばなので、よくまぜてからシェアする。うん、これなら取り分ける順番や場所によって味にムラが出ることはない。
・・・と思ったら、最後に料理を手渡されたかめぜろさんが「うう!」と悶絶していた。最後の人は料理が入っていた容器をそのまま使って食べるので、スープやタレがしっかり残っているからだ。それが辛いと、先に取り分けた二人とくらべて明らかに辛さが変わる。
11店舗目 居酒屋とよじろう
居酒屋とよじろうは、ホルモン焼きとエビを唐揚げにしたものが売られている。
両方とも、辛さは「激辛」と「デス辛」の設定になっている。わざわざ「デス辛」の表示の横には、ドクロのマークが書き込まれている。殺す気らしい。
「デス」という概念が出てきてしまうと、もうこれ以上はネーミングのしようがない。人間死んだらおしまいだ。輪廻するから死んでもだいじょうぶ、というわけにはいかないだろ。
「デス辛」のさらに上に「涅槃辛」とか「輪廻辛」というネーミングはありえるけれど、そうなると辛いんだか辛くないんだかわからない名前だ。なんだかありがたい気持ちになってしまい、辛くないように見えてくる。
そうか、「地獄辛」という表現を使う場合もありえるな。人は死んだあとに地獄に堕ちるわけだから、「デス辛」の上位概念として設定できるかもしれない。
で、「悪魔エビの唐揚げ」と「激辛ホルモン焼き」。僕は激辛ホルモン焼きのMデス辛にした。3人でシェアするから、Sなんてけちくさいことは言っていられない。味見程度じゃなくて、しっかりと一人ひとり量をシェアしたうえで辛さを堪能したい。
「悪魔エビ」を名乗る唐揚げも気になったけど、写真を見ると有頭海老が4匹だった。3人で4匹だと、シェアがややこしい。なので、シェアしやすい激辛ホルモン焼きだ。
激辛ホルモン焼きデス辛。
2019年でもご一緒したかめぜろさんが、「このお店、以前も出てましたよね」と教えてくれた。あっそうか、すっかり忘れていた。
このサイトの過去記事を読むと、2019年には「デス辛ジョロキア若鳥もも肉のカツレツ(デス辛)」という料理を食べていた。物騒な名前この上ない。
しかしすごいな、昔の記事を読むと、今の世界線と違う、並行世界の話を見ているかのようだ。
3.11東日本大震災以前と以降とで日本を取り巻く空気感は変わった、とよく言われるけれど、僕自身「コロナ前と、コロナ後」でぜんぜん変わってしまった。まあ、僕の場合はコロナ直前に結婚しコロナ後に子どもができた、という要因もあるのだけれど。
で、この激辛ホルモン焼き。
食べ始めは、みんな黙々とホルモンを噛む。こういう「なかなか噛み切れない料理」は危険だ。噛んでいる間に辛くなってくるからだ。でも・・・あれ?辛くないぞ。
「辛くないですね」
「うん、辛くないような気がします」
辛くないのだった。むしろ、ホルモンの脂身が持つ甘さを感じさせてくれる。
「ああ、これはアレですね、激辛料理を食べ比べている最中に麻婆豆腐を食べたときのやつだ。他の料理が辛いので、麻婆豆腐はむしろひき肉の甘みを感じてしまうのと一緒。むしろこれ、ホルモンをよく噛んだほうが辛さが中和されるんじゃないですか」
なんて話をする。なにがデス辛だ。大げさな。
と、思っていたら、その10秒後くらいから「あれ?これ、辛いかも」「あ、痛い痛い!」「うわあ」と全員が悶絶をはじめたのだった。恐るべきことに、この料理は時間差で辛くなるタイマーが設定されていたのだった。
「あああー」
みんなの手がすっかり止まる。料理は食べ終えているんだけど、口の中の痛みが引かない。1分経っても2分経っても、水分補給をしても、全然癒えない。なんだこれ。
口を冷却するためにちびちび飲み物を飲む人、「ちょっとカルピス買ってきます」と席を立つ人、そして動きが固まってしまった人。それぞれだけど、みんな一様にこの辛さに苦しめられた。
「いやあ、辛さって奥が深いなあ」
と今更ながらため息をつきながら感心する。こんな時間差があるとは。
12店舗目 恵比寿ガパオ食堂
恵比寿ガパオ食堂は、自分のブースを青いLEDライトで取り囲んでいた。こういうカスタマイズをそれぞれのお店が創意工夫しているのが面白い。
メニューに掲載されている料理写真は、3品どれもがお皿の回りに赤いもので取り囲まれている。
カットしたトマトだろうか。いや、見た目はパプリカのようにも見える。
でもそんなわけないよな、やっぱりこれって赤唐辛子だよな。ああ、ここもすごい気合が入ってるなぁ。
卓上に上がったのは、「蒸し鶏と自家製激辛ソース(激辛)」。
メニュー写真のものと違って、唐辛子は「薬味として」という感じで脇に添えられているだけだ。蒸し鶏は・・・さすがにこれは辛くないだろ、この色で激辛だったら驚愕するしかない。
しかも蒸し鶏の下にはキャベツの千切り。
先程のデス辛ホルモン焼きでほうほうの体となった我々は、「次はこれにしましょう!」とこの料理を食べることにした。
「ああ、これこそ本当に辛くない」
「癒されるなあ」
「おいしいですね」
いやちょっと待て、辛いものを食べに来たのに、辛くないものを食べてほっとしている僕らって一体なんなんだ?
でも、そういう倒錯した展開になるのも含めて、このイベントが好きだ。人間臭さがぎゅっと詰まっている展開になるからだ。喜んだり驚いたり苦しんだり。単なる美味しいものを食べるイベントとはわけが違う。そして、面白さが段違いだ。
赤い、唐辛子の酢漬け部分はきっと激辛だったんだと思う。でも僕は極力その部分をとらないようにしたので、どこまで辛かったのかはわからない。ずるい?いや、ずるくないぞ!
13店舗目 はちまん餃子
蒸し鶏のまったり感に癒やされた一同は、ようやく体制を立て直すことができた。
「さて、次はどうしましょう」
となったとき、目についたのが「はちまん餃子」の「シン・ハチマン灼 激盛り(はね上がる 大田原サンタカ唐辛子餃子 サクサクサテトム&パクチー)」。
辛さの選択肢は「はね上がる辛さ」一択。
そう来たか。これまでの辛さ表現とは一線を画す、新しい表現。「はね上がる」。これには唸らされた。まだ辛さを形容するにはいろいろ余地が残っていそうだ。
「視界が暗くなる」とか「動悸が止まらない」とか。あ、駄目だ、思いつくのが全部医学的にネガティブな表現ばっかりだ。その点、「はね上がる」っていいよな。なんかポジティブで躍動感があって。
その餃子だけど、「なんだこれは!?」と困惑してしまうピンク色だ。サーモンのような色をしている。こんな餃子、見たことがない。これだと、「はね上がる」ことができるのか。
これまで、激辛グルメ祭りには「宇都宮餃子館」が毎年出店し、辛い餃子を提供してきた。今年も確か出店していたと思うが、毎回「うーん、大して辛くないなあ」という印象だ。というのも、餃子というのはパクっと食べてしまう食べ物なので、「十分に噛んでいるうちに辛さがガツーン」という展開にもっていきにくい。むしろ、同じ材料で大ぶりのシュウマイを作ったほうが激辛になるんじゃないかと思う。
そんなわけで、今回このはちまん餃子の真っ赤な餃子も、「そんなに辛くないんでしょう?」という印象で食べてみることにした。
外は鮮やかなピンク色の餃子だけど、中はそんなに赤くなかった。味は正統派で、ハバネロとかで無理やり辛くしているわけじゃない。美味しい。辛いか?といわれると、うーん、たしかに辛いようなきはするけれど、それほどでは。
容器の底に溜まっているタレが辛いようだ。このタレをどれほど餃子に絡めることができるかどうかで辛さの感覚が変わる。
ところで、この餃子の下に敷いてあるチップスは一体なんだろう。料理名についている「サクサクサテトム」がこれなんだろうけど。
チップスの表面に赤黒いものが不着している。それを見てさつまいもチップスかな?と思った。さつまいもの皮が残っている状態で素揚げにしたんじゃないか?と。でも、食べてみるといもの味がしないので、頭が混乱する。すでにこれまでの激辛料理でずいぶん味覚が馬鹿になってきているので、一体これが何なのかがとっさにわからない。
ちょっと考えて、ようやくたどり着いた結論。「ああこれ、とうもろこしのチップスだ」。ようするに、ドリトスみたいなやつ。これそのものは辛いわけではなく、辛さの緩衝材としてお店が用意してくれたものだった。
パリパリ食べて、すこし癒やされる。
(つづく)
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