5軒目:広島春牡蠣フェスタ@歌舞伎町

3月にもなると、そろそろ春を感じ始めるものだ。そうなると、「ああそろそろ牡蠣のシーズンは終わるな。」と思うのだが、そんな3月に「広島春牡蠣フェスタ」なるものが開かれるという。えっ、この時期に?
牡蠣の一大産地、広島においては1月から2月にかけて、ほぼ毎週あちこちの漁港やイベント会場で「かき祭り」が開かれる。しかし3月にかき祭りというのはあまり記憶にない。そうか、現地で売れ残った牡蠣を東京に持ってきて在庫処分を・・・いや冗談です。
「春牡蠣」という概念自体、これまで聞いたことがなかった。もちろん春になれば牡蠣はより成長が進むので太る。大粒の牡蠣が好きならば春、ということなのだろう。しかし、春になると味が落ちるとも言われるわけで、味が落ちるギリギリのところで収穫できるかどうか、が難しいかもしれない。
僕が牡蠣を取り扱っている人に聞いたことがあるのは、「3月に入ると苦みが出る」というもの。しかし、中には「5月くらいまでは全然イケる」という人もいて、牡蠣の扱い方によってこのあたりは差があるようだ。

場所は、「激辛グルメ祭り」でおなじみの、新宿歌舞伎町にある大久保公園。外から見たとき、がらんとしていたのであれっ?ひょっとして食中毒でも出して営業停止になったか?と不安になってしまった。しかし実際は公園の奥の方にプレハブの小屋が建てられており、その中で営業をしていた。
今回の「春牡蠣フェスタ」は、自分で焼き牡蠣が楽しめる!というのを売りにしている。だから、てっきり屋外イベントなのかと思っていたが、さすがに寒すぎて厳しいと踏んだのだろう。暖かい屋内で是非牡蠣をご堪能ください!というわけだ。利用者としてはとてもありがたい。

このイベント、というかかき小屋はビュッフェ形式になっていて、入り口入ってすぐのところに商品が陳列されている。お魚屋さんのようだ。そこでまず欲しいものを好きなだけ見繕って買い物かごに入れ、お会計を済ませたら席へと案内される、という仕組み。
牡蠣の殻付きが1キロ1,500円。都内で食べる牡蠣としてはまあまあな値段だと思う。もちろん広島で食べる方が安いけど。こういうところで北海道産のホタテが置いてあるところが、なんか微妙でおもしろい。折角牡蠣食べに来たんだから、牡蠣だけ食べてりゃいいんだ!とはいかないのが人の常、というやつか。「折角だから、ホタテも頼むゥ?」といいつつ、手が伸びちゃう人も多いのだろう。何がどう折角なのだか、さっぱりわからないけど。

プレハブは思った以上に大きく、客席はかなりたくさんある。
昼下がりということもあり、お客さんの数はあまり多くないけどみな一様にニコニコしながら食事をしているのが印象的。・・・ああなるほど、ワインとか飲んじゃってるからだな。結構な割合でみなさんワインをボトルで楽しんでらっしゃる。牡蠣を食べるとなりゃあ白ワインを、ということか。優雅な時間ですな。
で、牡蠣という食材に引き寄せられる客層というのが、騒がしいおっさんや若者ではないというのがいい。ご年配夫婦、OLっぽい女性が多い。牡蠣を焼くのに夢中で、みんな静かにお酒を飲みつつ、食事をしている印象。

僕は酒を飲まないし、そもそも一人で訪れたのでしんみりと、しかし大胆にがつがつと食べるぜ。「お前食い過ぎだよ」と言われる事がない分、欲しいものを欲しいだけ頼んだった。
席には、カセットボンベ式のコンロが用意されていた。さすがに炭火を使うとなると、火気の取り扱いでいろいろ面倒だったのかもしれない。ちなみに、この施設を利用する場合、お一人様200円のバーベキュー使用料が取られる。
「うわあ・・・頼みすぎたな、さすがに」
こうやって頼んだものを全部並べてみて、ようやく我に返る自分。さっき、「折角だから、ホタテ」の「折角ロジック」を指摘したばかりなのに、自分自身が「折角だから、牡蠣」で泥沼化してしまっていた。
生牡蠣1キロ、牡蠣フライ、牡蠣飯、牡蠣のアヒージョ。ついでにソースも。
そういえばさっきお会計の時にぎょっとするお金を支払った気がするが、それはちゃんとこのように理由があったんやー。

どこの「かき小屋」でもそうだが、自分で殻付き牡蠣を調理する飲食店だと必ず調理法については念押しされる。加熱が甘いとノロウイルスで食中毒まっしぐらだからだ。いくら客の自己責任とはいえ、自分とこの店で食中毒が出ました!ともなりゃいろいろ面倒なことになる。保健所の査察だって入るだろうし、ろくなことはない。
こういうところって、飲食店向けの損害保険って入っているのだろうか?もしそういう保険があるとしても、かなり保険料は高くつきそうだ。何せ、リスクが高い。

ま、こっちは一人のお客さんなわけであり、そんな店の事情は知ったこっちゃない。それ、どんどん火にくべろ。美味しく牡蠣を食べるのが、今自分に与えられた最大の責務よ。
とはいっても、牡蠣というのは火加減が難しい。ノロを恐れてじっくり火を通しすぎると瑞々しさが失われて全くうまくない。かといって生で食べるわけにはいかない。一人で食べる場合、こっちの食べるペースだって考えないといけないので、やみくもに網の上に牡蠣を並べてはダメ。
とかなんとかいって、結局はわーっと焼いてわーっと食べちゃうんだけどな。
この日一日で、20粒以上の牡蠣を食べ、なんかその後はやたらとハッスルしたのは強く記憶に残っている。精力剤、という言葉はあながち嘘じゃない。
6軒目:豊ちゃん@築地場内

築地市場の場内にある飲食店の食べ歩きを毎週金曜日、出社前に行っている。その一環として訪れたのが「豊ちゃん」。カツやフライものが豊富な洋食屋だ。
このお店が有名なのは、「あたまライス」という謎の名前のメニューがあるからだ。これは、カツ丼を「ご飯」と「カツの卵とじ」とを分離して別皿にしたものだ。要するに、「カツ丼の『頭』に相当する部分=カツの卵とじ」と、「ライス」が別だよ、という事をメニュー名で表現した、というわけだ。なんでこんなメニューがあるのかというと、「あたま」の部分で酒を飲み、シメでご飯をかきこみたいお客さんのニーズに応えたから、らしい。なるほどよくわかります。牛丼屋でも、牛皿で酒飲んでいるお客さんを時々見かけるから。
ちなみにお店にはちゃんと一体型の「カツ丼」もある。ご飯につゆが染み染みになったのがええんじゃーい、という向きの人は是非そちらを。

んで、僕もその名物「あたまライス」を食べるつもりでこのお店を訪れたのだが、この時期(10月-4月)は牡蠣料理もやっているということを店頭で知った。
生かきのあたま、かきフライあたまといったメニューが目にとまる。お。カツ丼の別皿だけでなく、牡蠣でも似たような事をやっているのか。そりゃあ頼んでみないと。

というわけで頼んでみたのは「かきのハーフandハーフ(ライス・新香付)」。一体どんなものが出るのやら、とそわそわしていたら、出てきたのはこんな感じ。

なるほど、卵とじなのは「あたまライス」と一緒なのだけど、その卵とじになっているのがかきフライと普通のかきが半々、というわけだ。メニューを見ると「生かき」なんて書いてあるので、レモンを絞って召し上がれ、みたいなリアルな生ものを想像したけど、それはさすがに違った。「フライにされていない、素のかき」という意味での「生かき」という表現だった。
添えられた山椒をかけつつ食べると、これが良い。玉子はもともと病人に食べさせるような見舞い食だったわけで、それに海のミルク牡蠣があわさると、死人さえ生き返るのではないかという印象を覚える。こんなん朝から食べたらダメだわー。健康になりすぎるわー。
かきフライ部分よりも、生かき部分のぷりぷりが楽しかった。つゆを吸って加熱されてぷっくり膨らんだ牡蠣をかみつぶす時の背徳感。恍惚としてしまう。サディスティックな気持ちとでも言おうか。
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