野外炊事部・海鮮地獄鍋の巻(その4)
「そうだ、コイツを出すの、忘れてた!」
うっかりしていた。昨日の買い出しに参加していなかった3名が、大きなソイやら塩タラに驚きと賞賛の声を上げているのに気を良くして、本日のびっくりどっきりメカの発表を忘れているところだった。
巨大な唐辛子、ではなくパプリカ(たぶん)。
コイツで皆様を驚かせたい。一瞬、「このバカ、変なもの買ってきやがった!」と思わせたい。
「こういうのもあります」
と、はやる気持ちを抑えつつ、しれっとみんなの前に出す。
「えーッ、唐辛子!こんなの一本入れただけで鍋が激辛になるじゃないですか!」
案の定、驚いてくれた。しめしめ。
しかし、すぐに
「ちょと待て、ラベルに『sweet』って書いてある。これ、辛くないヤツでしょ?」
と言い当てられてしまい、せいぜい得意な気分になれたのは10秒程度だった。
この10秒だけのために、みんなで割り勘するお金のうち数百円を支払ったと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
せめてもの償い、ということでこの見慣れない巨大なパプリカを手に、記念写真を。今回初参加だったあっきさんには両手に一本ずつ持ってもらい、撮影した。いい思い出になっただろうか?いや、ならないか。なんで屋外鍋イベントに来て、デカいパプリカの写真を撮ってるんだ?
で、ここですっかり満足してしまい、パプリカの存在を忘れてしまった。この後気がついたのは、撤収中の16時頃。
「あーっ、すっかり忘れてたァァァァ」
と思わず声を上げてしまった。それくらい、すっかり忘れていた。鍋の彩りになる、と思っていたのだけど。
その鍋だけど、具をどかどかと投入したものの当然一度には入りきらない。自宅用としてはデカすぎる、イベント向けサイズの鍋ではあるけどそれでも我が軍の圧倒的物量作戦を前にするとひよっこ同然だった。
「二回に分けるしかあるまい」
と当然の判断になるわけだが、その様子をみていたあっきさん、
「まじっすか。本当にこんなに食べるんすか」
となんども繰り返し同じ事を言って驚いていた。
いやだって、鍋の具が多く見えるのなんて、最初のうちだよ?熱が加わるとしゅしゅーん、って小さくなるんだから。おでんのように、煮たら増えるというものではないから大丈夫大丈夫。
適当だ。
ツーバーナーコンロは、片方が海鮮地獄鍋、もう片方が鉄板による加熱中のカジキカマみりん漬け。
「スペアリブは?」
このカマをやっつけた後、ようやくダッチオーブンの登場なのです。そこで調理しますよ。
「あれっ、魚のフライは?」
スペアリブの後になります。
「いやー、そこまで辿り着くかなあ」
正直、計画した僕自身「無理なんじゃないか」という気がしている。でもそれを口にしてはいけない。
ワタミの創業者、渡邉美樹氏の名言を思い出せ。
ワタミ社長「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」
村上龍「?」
ワタミ「途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」
村上「いやいやいや、順序としては『無理だから→途中で止めてしまう』んですよね?」
ワタミ「いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです」
村上「?」
ワタミ「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」
村上「一週間」
ワタミ「そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」
村上「・・・んん??」
ワタミ「無理じゃなかったって事です。実際に一週間もやったのだから。『無理』という言葉は嘘だった」
村上「いや、一週間やったんじゃなくやらせたって事でしょ。鼻血が出ても倒れても」
ワタミ「しかし現実としてやったのですから無理じゃなかった。その後はもう『無理』なんて言葉は言わせません」
(2006年5月22日、テレビ東京「カンブリア宮殿」でのスタジオトーク)
途中で止めてはいけない。会場の撤収期限である16時までは限りある時間だけど、その中で最大火力をもって調理を・・・調理を・・・くッ、でも火力ばっかりはどうにもならんぞ。人間の気力とかそういう問題ではなく、物理の問題だ。
フライに全く辿り着けず、スペアリブさえちゃんとありつけるのかどうかという心配があるけどいったん忘れよう。
紛糾していた鍋の味付けだけど、「ヒガシマル」の粉末、「うどんスープ」を入れることで決着をみた。関西風のだしなのでやさしい味つけになる。味付けを塩のみにすべし、という意見がある人もいるので、あまりガッツリ入れないで少量に留めておいた。
それにしても煮えていない鍋だけど、早々に味付けをしてしまう我々。とっとと乾杯をしたいので、もう全部入れてしまえ!というわけだ。後だ、味の微調整は後でどうとでもなる!毒が入っているわけではないのだし。
というわけで乾杯だ!
無事、12時に乾杯をすることができた。あとは鍋が煮え、カマが焼けるのを待つだけよ。
クーラーバッグの中には、先ほど呆れるほど買い込んできたワインやらビールやらが入っている。これでもか!というくらいに。時間はまだあと4時間あるんだ、倒れるまで飲んでいただきたい。
最近のおかでんのお気に入り、「ドライゼロ」。
この一ヶ月くらい、飲まない日がない。やはり断酒してももともとは酒好きビール好き。ビールテイスト飲料がないと、なんだか物足りない気分になってしまう。
お酒を止めてから4年が経過した。変わったもんだ。
お酒をやめた当初は、お酒について存在すらなかったかのように、「見ない・意識しない」ことを徹底していた。無意識のうちに、だ。「飲みたくなるから、敢えて遠ざけていた」のではなく、本当に別世界という認識だったからだ。僕は白黒はっきりつけないと気が済まない性格なので、断酒したとなると、もうお酒は「過去の出来事」にすぎない。
そんなわけで、「ビールのまねごと」をしているノンアルコールビールなんて、飲むまでもない飲み物だった。だいたい、ノンアルコールビールは「ビールが飲みたいんだけど、車の運転とかあるので飲めない」人がしぶしぶ飲むものだ。僕はもうビールを飲まないと決めたのだから、「しぶしぶ飲む」飲み物を飲む必然性など、どこにもなかった。
しかし、時は流れ、最近はノンアルコールビールを本当によく飲むようになった。この手の飲料独特の炭酸の細かい泡、そして食欲をそそる苦みというのは、他のジュースや炭酸水では代替がきかないからだ。家ではよく炭酸水を飲むけど、泡の粒が大きすぎて、バチバチ口の中ではじけて若干痛い。ノンアルコールビールはその点、クリーミーだ。これがいい。
じゃあ、ホンモノのビールを飲みたくなるか?というと、それはもう全く別物と捉えている。未だに、ビールに対する渇望っていうのはない。もちろん、昔愛した飲み物なのだから、飲んでいいなら飲みたい。でもね、まあ・・・無理だろうなあ、飲み始めたら量が増えるよな、というのが想像つく。だったら面倒だし、飲まなくていいや、っていうのが今の認識。お酒飲んだら体がだるくなるし。
ノンアルコールビールを豪快に飲んで、爽快感が味わえているので十分だ。
ただし、これはまだ僕がアルコール依存の深みにはまり込む前に離脱できたからこそだ。多分、ガチのアルコール依存の人なら、ノンアルコールビールでは我慢ができなくなってスリップしてしまうだろう。ホント、お酒を止めたタイミングが良かったと思う。
話を野外炊事部のことに戻そう。自分語りが長すぎた。
乾杯でわっと場が華やいだのは一瞬で、その後全員がおとなしくなった。
それもそのはず、食べるものがないからだ。
バーベキューなら、肉や野菜をやきつつ、食べることができる。しかし、今調理している二品は、完全に火が通るまでひたすら待たないといけない。それまでは、お預けだ。
さらに言うと、バーベキューは音が盛大に鳴るし、煙と臭いがわき上がるのでにぎやかだ。しかし、鍋だと何も音がしない。無音だ。せいぜい、ガスコンロから「コー」という燃料噴射音が聞こえるだけだ。
「鍋がコトコト煮えています」
なんて言いたいところだけど、コトっという音すらしやしねぇ。これ、1時間やそこいらでは煮えないんじゃあるまいか?心配になる。
そんな中、あっきさんが気を利かせてかき揚げを持ってきてくれていたので、それを場つなぎとして頂くことにした。かき揚げ?
聞くと、日暮里だか西日暮里だかにある有名な立ち食い蕎麦屋さんで、そこのかき揚げを単品でお土産にしたのだという。すげー、粋なことを思いつくもんだなあ。立ち食い蕎麦屋でかき揚げテイクアウトってできるんか。知らなかった。
衣がぼってりしていて、「あー、こいつをつゆに沈めつつ食べたらうまいよね!」という外観。蕎麦屋の天ぷらっていう感じがいい。
ひとまずの腹ごなし成功。
一方のカマだけど、「肉の塊みたいだ」と形容される赤さなので、火が通ったんだか通ってないんだかさっぱりわからない。
「箸が通れば火が通ってるんじゃない?」
ということで箸を突き刺してみたが、なにせ部位がカマだ。すぐに硬い骨にぶつかってしまい、火が通っているんだかいないんだかさっぱりわからないというハメに。
「えい、もう大丈夫だ」
なにがどう大丈夫なのか、根拠が示されないまま、「えい」という勢いとともに調理終了宣言が唐突に出された。さあ、食べよう。
ちなみにただ今の時刻、12時30分近く。すぐにスペアリブをしかけないと。残り、3時間半。
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