まずは飲み物をあれこれ頼む。ふう、食べ物メニューは強敵すぎるぜ。いきなりあれこれ頼むのは無理だ。まずは飲み物で時間稼ぎをしようぜ。
こういうとき、定番の「とりあえず生」というのは強い。
昔は2019年の今以上に「とりあえず、生」が幅を効かせていたはずだ。だからもっと楽だっただろうけど、今じゃだんだんビールが「とりあえず」の域ではなくなりつつある。
いずれ、「とりあえず、タピオカミルクティ」なんて時代になったらどうしようか。
僕のようにお酒を飲まない人間にとって、「とりあえず」の王道がないのは困る。
ノンアルコールビールが置いてあればありがたいのだけど、僕が出席する会食においてその確率は3:7の割合で置いていない。最近これでも置いてある比率が上がってきたけど、まだまだ少ない。
たまに飲み放題メニューでノンアルコールビールが置いてあるとスゲー嬉しかったりするけど、それはごく珍しい話。
ソフトドリンクのメニューに「アミールS」があった。アミールSといえば、カルピス(アサヒ飲料)が出している健康飲料で、血圧を下げる効果があるとうたうトクホだ。ラッシーのようなヨーグルト飲料に近い。
昔僕が酒飲みだった20代の頃、血圧が130台でやや高めだった。そんなわけで毎日お昼、アミールSを飲んでいたものだ。酒をやめてから血圧が下がったので今じゃ全然飲んでいないけれど。
で、まさかそのトクホのアミールSを使ってるわけじゃないよな、と思ってたら、本当にアミールSだった。何しろ、我々が座っている席のすぐ脇に、まさにそのアミールSが山積みになっていたからだ。
別にトクホ飲料を飲んでもらってお客さんに元気になってもらおう、というわけではないと思う。おそらくモンゴルに、これとよく似た味の飲み物があるに違いない。へー。
以前、居酒屋で「ウコンの力ハイ」という無茶苦茶な飲み物を見かけたことがある。肝機能サポート用のドリンク「ウコンの力」を焼酎で割る、というアクセルとブレーキを同時に踏む飲み物だ。誰が飲むんだ、こういうの。
とかいっている僕も、昔「しじみ汁ハイ」を飲んだことがあったなあ。あれは薄い潮味で、うまいとは思わなかった。
紅一点のイシさんは、緑茶ハイだったか青汁ハイだったか忘れたが、最初の一杯にしては渋すぎるチョイスをしていた。なんでモンゴル料理店に来てこれなのかと。
「いや、たいてい最初の一杯って、ウーロンハイとかそういうのを飲んでますよ?」とイシさんはしれっと言う。そういうものなのか、最近は。女性、しかも30代なのでその世代の傾向と対策というのが僕らは全くわからない。何しろ、残りは全員40代男性だからだ。
少なくとも「とりあえず生」陣営には属していないらしい、というのはわかった。そして、カシスオレンジないんですかー、みたいな「甘い酒が美味いと感じる」人でもないというのもわかった。
お茶碗に入った飲み物がやってきた。
スーテーツァイ、というモンゴルの紅茶なんだそうだ。見た目はチャイなんだけど塩が混じっていて、甘いミルクティとは違う。見た目は「甘い」という先入観があるので、飲んで塩味を感じるとちょっと頭が混乱する。止まっているエスカレーターを歩いて登ると、ものすごーくイヤーな違和感を感じるのと一緒だ。人間の慣れって恐ろしい。
テーブルに何か石のようなものが置いてある。
「ああこれ、羊の背骨じゃろ」
ばばろあが言い当てる。なるほど、言われてみるとそんな気がする。さすが羊肉の会第一回にふさわしいお店。こういうところまで羊が使われているとは。
でも、こんなのがテーブルに置いてあってどうするんだ。投げて占いでもするのか。表が出たら吉、裏が出たら凶みたいな?
「箸置きとして使うんじゃないんか」
ということで箸を載せてみたら、ああなるほどすごくしっくりきた。
箸置きに羊の背骨!これはびっくりだ。
やいやいとメニューを見ながら賑やかに検討する。どうせ頼みたいものは全部頼んじゃえばよいのだけど、「じゃあメニューの上から順番に頼む」というのはあまりにデリカシーがない。
一応は、「ひとまずどれだけ食べられるかわからないからね。足りなかったら後で追加注文すればいいんだからね」とかいいながら、忖度と遠慮と配慮が入り混じった目つきで周りの様子を伺う。
最初の一皿は、「土豆冷菜」。400円。じゃがいもとピーマンの冷菜らしい。
これはモンゴル的な印象ではなく、中華料理でよくある奴だな。まずは気持ちの準備、ということでこのあたりからスタート。
出たー。
本日のメイン料理ともいえる、「チャンサンマハ」。骨付き羊肉の塩ゆでだ。
かなりごつい塊で、1,500円。安い。5名ならば1名あたり300円。これは見ごたえあるサイズ感!お皿を手に取るとずっしりくる。お店の看板メニューらしい。
ただし、切り分けるのがえらく難儀する。
鶏丸焼きなんて、適当に切り分けたって、両足と両手の四等分にあっけなくばらせるし、そこからザクザクと細かく切っていける。しかし羊肉はそうはいかない。なにしろ、骨にびっちりと肉がくっついてしまっている。そもそもこの肉がどこの部位かよくわからないので、関節部分で切り分けようとしてもそれがわからない。
渡されているのはナイフ。
メニューには「ナイフさばきはよい男の証拠」なんて挑発文が書いてあるが、とにかく難儀した。一人じゃ到底切ることができず、途中から見かねた人たちによる二人がかりだ。
しかも、ギコギコやらないと肉が切れない。これをやっていると、いかに鶏肉っつーのが軟弱な食べ物か、ということがよく分かる。「このチキン野郎!」という屈辱的な言葉の意味を実感するひととき。
みんなで入れ代わり立ち代わり、疲れては交代しながらようやく羊肉料理「チャンサンマハ 」をさばき終えたところ。ここからようやく食べられる。
しかし、これで終わりじゃない。まだ肉には骨がくっついている状態であり、もうバラすところから食べるところまで、苦労三昧だし手も汚れるし、こりゃァ大層な料理だ。
もし一人でこのお店を訪れる機会があったら、オーダー時に「チャンサンマハください。あとは水でいいです」とぼそっと伝え、ひたすらこれを食べてお会計して店を後にする、というのをやってみたい。きっとクールだと思う。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (2件)
おお、羊!
通勤途上の商店街に、最近まで誰かが住んでた雑居ビルの一室を
ほぼ居抜きで使ってるモンゴルカフェがありまして
ポーズやら餃子(?)みたいなもので昼飯食ったことがありますが
スーテーツァイは確かに一瞬脳がフリーズしますね(笑
お惣菜は『がっつり羊味ですが大丈夫ですか?』と聞かれましたが
胸を張ってよく通るテナーで『大丈夫です!』と答えたのは言うまでもありません(笑)
味付焼肉しか知らない私でしたが非常においしく頂きました。
入り口がすげー怪しいのと車が止めにくいんですが、また行きたいなぁ…
ティータさん>
モンゴルカフェ、というコンセプトの時点で面白いですね。
しかも居抜きとは。
スーテーツァイが日本で市民権を得るためにはまだ道のりが長いと思いますが、こういう選択肢が用意されていて、その気になれば注文できるというのはありがたいことです。
今度はバリトンボイスで「がっつり羊味を!」と頼んでみたいものです。