人生初のカラス料理

合計六品のジビエ

というわけで当初予定よりも1品多い、6品によるジビエナイトと相成った。トマト煮込みを除き、ちゃんとしたお皿に盛られたこともあって贅沢感は出ていた。前回が使い捨て皿による提供だったことを考えると、大違いだ。やはり、「ジビエ=毛皮を身に纏って、髭もじゃでぶっきらぼうな猟師=あまり清潔感がない」といった前近代的ステレオタイプから脱却することは大事。

害獣駆除とかいろいろ時代背景や思惑はあるにしろ、料理である以上おいしく食べなくちゃ、話がはじまらない。

カラスの頭半分
カラスの頭断面

とはいっても、さすがにカラスは提供する側としても「ネタ」感の強い食材。実際、カラスを捕獲する猟師さんはいないらしい。今回、このイベントのために藤木氏が知り合いの猟師さんに頼んで、わざわざハンティングしてきてもらったのだという。

しかしその猟師さんも、「次はもうやりたくない」とほうほうの体だったという。なぜなら、一匹仕留めたら、仲間のカラスがそれに感づいてわさわさーっと集まってきたからだという。空が黒くなるくらいだった、と形容していたので、想像しただけで怖い。なので、カラス一匹を猟銃で仕留めたら、地面に落ちた獲物を拾い上げてすぐに車に逃げ込んでいたそうだ。命の危険を感じながらの狩猟。しゃれになっていない。

それにしてもなあ、カラスの頭蓋骨真っ二つだもんな。ストレートすぎる。毛が少し残ってるし。ゲテモノ、といったら猟師さんや調理してくれた方に申し訳ないけど、やはりこれは相当な異端だ。

カラスの足

カラスの足。黒光りしている・・・。無念そうに、ねじれている。中指を突き立てて「くたばれポーズ」をとっているかのようだ。

本当はこれ、頭蓋骨から脳みそだけをとりだして食べる料理だったらしい。しかし、もっともらしく頭がお皿に載せられているし、足もあるので、これらも食べ物だと勘違いしてしまった。飾りだとは気づかず、クソ堅いこいつらをガリガリとかじることに。もちろん、こんなものかみ切れるわけもない。でも、口に入れてしまった以上引くに引けず、大げさでも何でもなく5分以上ひたすらカラスをかみ続けていた。足なんて、針金のような筋と、かったい表皮しかない部位だ。これをかじったために、一週間くらい前歯に違和感が残った。歯が折れなかったのは幸いだった。

というわけで、カラスを骨ごと食べてしまったわけだが、もちろんうまいわけがない。脳みそ?いや、味の記憶は無いけど、量は少ないしわざわざ食べるものじゃないだろこれ。

カラスもも肉

カラスのもも肉をミンチにして、ハンバーグ状にしてパイ包みにしたもの。これも火加減に苦労した形跡がある。火を通しすぎないように絶妙なバランスをとったっぽい。

それにしても、さすがカラスだ。やっぱり味に癖がある。味、というか口に含んだ時に鼻に抜ける臭さ、だ。似た臭いを僕は知らないのでうまく形容できないのだが、はっきりいって気分が良くない。肉そのものの味は悪くないのだけど、鼻腔に残る香りが気になってしまう。

最初の一口、二口は「いやあ面白いねえ、へえこういう味なんだカラスって」と興味津々だった。癖が強い肉も、好奇心というスパイスで打ち消された。しかし、食べ進むにつれて、だんだんうんざりしてきたのだった。これをうまいうまいと言うことはできる。でもそれって、通ぶってるだけだよね、俺ってこんなグルメも知ってるぜって偉そうにしたいだけだよね、と思えてきた。端的に言えばまずいだろこれ。素直になれよ、俺、と思えてきた。

この日、カラス料理が振る舞われる!ということでマスコミの取材も入っていたのだが、後日その記事を読むと「癖が無くて美味しく食べられた」などと書いてあった。いやー、癖はあったぞ?その癖をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかは人それぞれだけど、僕にとってはだんだんいらっとしてくる味だった。

とはいえ、一生のうちもう二度と食べることはないであろうカラス肉。今回、出会うことができて本当に良かった。主催者には感謝でいっぱいだ。

おかわり。カラスはとりあえず食べた

来場者数より多めに料理は用意されていたため、余った料理は自由におかわりができることになった。結構多めに余っていたので、ありがたくいただく。

あれだけ酷評したカラスだけど、もう自分の人生で出会うことはないだろうな、と思ってもう一度パイ包み&ポワレのお皿を貰ってきた。でも、脳みそはもういいや。

今回のイベントに参加する前は、「ジビエはこれから確実に流行る!今年の冬は都内でジビエ料理を出すお店を巡って食べ歩きたい!」と思っていた。しかし、こうやってカラスを食べたことで、その気持ちがしゅーっと急速にしぼんでしまった。「なんか通ぶってるな、自分」って我に返ったというか。そこまで無理して大枚はたいて食べたって、メリットあるの?みたいな気持ちになってしまった。それもこれも、癖の強いカラス料理を食べたからだ。

鹿肉だって、大して旨いとは思わなかった。牛豚鶏とほぼ同額ならともかく、高値を払ってまで食べたいとは思わない。猪に関してだけは、素直においしいと思うけど。

僕にとっては、「ちょっと珍しい肉」は猪肉、馬肉で十分かなーという気になりつつある。鹿とかダチョウとかワニとかカエルとか、おもしろがって食べるほどじゃないかなと。

もちろん、害獣駆除のためにどんどん食べて欲しい!ということには、積極的に我が胃袋で協力したい。とはいえ、そういう名目がなければ、うーん微妙、っていうのが僕の結論となった。

というか、そうやってスノッブぶるのはもうやめようぜ、という自分の人生見つめ直しとなったのだった。

(2014.02.20)

1 2 3

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください