次は田作りをこしらえよう。
それにしても、今更ながら感心させられるのだが、おせちにおいては料理を作る順番というのをあまり考えなくていい。さきほどの数の子と黒豆以外は、だいたい適当で大丈夫だ。その時の気分だとか、目に止まった食材で決めればいい。
というのも、おせちが「保存食」だからだ。これを早く作ると食材が痛むから後にしよう、なんてものが少ない。
自分の家庭分くらいなら、品数が多くても時間をかければなんとか作れる。同時並行でできる作業だってあるし。でも、そういう油断で、飲食店が「オリジナルおせち」を作って売り出すと、うまくいかないんだと思う。受注数が多くなると、グイグイと難易度が上がる。生産だけでなく、工程管理というプロセスが大事になってくるからだ。
ネット界隈の下世話なネタに詳しい人なら、未だ記憶に新しい「グルーポン・バードランドのおせち」騒動。おせちが正月に間に合わず遅延したうえに、ようやく到着したお重の中には6Pチーズとかヘロヘロのローストビーフらしきものとかがヒョロっと入っていただけという衝撃のおせちだった。しかも、中身がスカスカなので、寄り便状態で汚い見た目だった。
完全にお店の見通しの甘さ故の悲劇だ。おせちは「縁起もの」としての料理なだけに、うかつに人様のおせちは請け負わないほうがいい。
我が家のダイニングには、常に「食べる小魚(無塩)」が常備されている。その横にはミックスナッツ(無塩)も置いてあって、朝は必ずこのふたつを食べることにしている。健康を気にして、というより「ただなんとなく」だ。
「食べる小魚」をフライパンで乾煎りする。カサカサしてきたら、フライパンからおろす。あんまり煎りすぎると、ボロボロに崩れてしまう。
せっかくなので、ミックスナッツを砕いて入れてみることにした。我が家の実家では、田作りにナッツなんて入れないけど、まあいいや。お酒のおつまみみたいになるけれど、これくらいの遊び心は混ぜておきたい。
ここでも大量の砂糖、醤油、みりんを入れて一度煮立てる。
そこに先程の小魚とナッツを投入。からめる。
フライパンが、「もっと砂糖をよこせ」と言ってくる。勘弁してくださいよ、これ以上砂糖を入れるのは罪悪感が半端ないですよ。
でも、もっと砂糖を入れないと、単に「甘辛いつゆで小魚を煮ている」だけだ。しょうがない、後もう少し砂糖を追加。
いやあ、マジでこの1年でもっとも砂糖を使ってる。今年はプリンを作ったりクッキーを焼いたりもしたけれど、そんなものの比じゃないぞ、今日一日で、過去1年分以上の砂糖を使ってる。
出来上がった田作りはベタベタしている。水飴みたいなものなので、できるだけくっつかないように小魚を散らばらせる。これで乾かせば出来上がり。
田作りと並行で、ブリを煮る。これは、お雑煮に入れるためのものだ。
地方によってお雑煮の作り方は特徴がある。角餅、丸餅、焼き餅、煮た餅、味噌、醤油・・・。具だって、あれこれだ。しかし、「地方」で単に括れるものではなく、家庭ごとの特徴が出る。なので、どこまでが「地方の特性」なのか、「家庭の好み」なのかは僕でさえわからない。何しろ、人んちの雑煮なんて見たことがないからだ。
お雑煮は縁起物でもあるので、一度フォーマットが決まれば、毎年フラフラと仕様が変更になることはない。だいたいこんな感じ、という作られ方が固定する。なので、「伝統」のような、そうでないような、よくわからない料理になる。
おかでん家では、ブリを甘辛く煮た切り身が乗る。でもこれは、僕の出身である中国地方のお雑煮の特色というわけではないようだ。母親に聞くと、「おじいちゃんがブリが好きだったから」という理由で採用されたらしい。
そんな理由でも、おかでん家では「ブリが乗るお雑煮」が当たり前であり、僕はそのお雑煮で毎年正月を過ごしてきた。なので、今回もブリを乗せる。「オリジナル雑煮を作ろう」なんて、これっぽっちも思わない。なぜなら、今回おせちやお雑煮を自分で作るという動機が、「母親や祖母が作っていたものを模倣する」ということだからだ。
さて、そんな渦中の食材・ブリだが、さすが年末にもなるとお値段が随分お高くなってらっしゃる。脂がのっていいブリなのはわかるんだが、ちょっとこれは躊躇する。御徒町の鮮魚店の名店・「吉池」に行ったので、安く買えると思ったのだけど。
ある程度想像はついていたけれど、年末のアメ横と吉池は買い物客で大混雑していた。ちょうどこのとき、新型コロナウイルスの第三波が訪れていて、感染者数が1,000人を越えるというやばい状況になっていた。客でごった返すお店で、長時間魚を吟味している余裕はない。とにかく、目についた安いやつを買って帰ることにした。我が家には身重の妻がいるんだ、こんなところでコロナにかかるわけにはいかない。
で、買ってきたブリだけど、大きなパックにみっちり入って300円。安いなあ、お得だなあ、と思ってよく見たら、サクに切り分けた際の端切れ部分だった。なので、ブリ特有の美しい皮目と断面を楽しめるような作りにはなっていない。煮ると、渋い居酒屋の煮込み料理鍋みたいになった。
でも、アラではないので、骨は少ない。可食部分が多くて、これで300円なら買ってよかった。ただし、お雑煮に乗っけるにしては見栄えが悪いけれど。
醤油、砂糖、みりん、酒、しょうが、若干の唐辛子で煮て、味を染み込ませる。
百合根。百合根も作るぞ。
これもお雑煮の具だ。
パートナーのいしは驚いて言う。「我が家のお雑煮は、お餅がメインで、具は殆ど入っていない」と。多分、多くの家庭はそうなのだと思う。でもなぜか、我が家は具だくさんになる。理由は不明だ。
百合根は、早い段階からスーパーの食品売場を探していたけど見つからなかった。いつも扱う品ではないようだ。えー、茶碗蒸しに入ってたら美味しいのになー、と思うが、自宅で作る茶碗蒸し用に、百合根まるごと1個なんて使わない。1個買ったからといって、使い切れない。
かくいう自分も、百合根を調理するなんて人生初だ。
いろいろな料理を作っているので、横着もする。かつおぶしから出汁をひくということはせずに、かつおだしの顆粒を使う。というか、我が家にかつおぶしが無いことに今頃気がついた。
百合根を煮る。
それにしても、ここまでの料理、だいたいどれも同じ味ばっかりだ。砂糖が多い・少ないの違いくらいで、ぜんぶ醤油味。どうなっているんだ日本料理。逆に、味噌というのは案外出てこない。
(つづく)
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