わたしの歯医者遍歴

備忘録としての歯医者遍歴。2013年~2015年、想定外にも歯医者を何軒もハシゴする羽目になった思い出を振り返る。

1軒目:A歯科医院(2013年夏~秋)

2013年夏ころは断酒をした直後で、行き場を失った脳神経回路はやたらと躁状態に僕のテンションを導いた。今思えばぞっとするくらいあちこちに出没していたし精力的だった。きっと一種の病気だったんだと思う。

ハイテンションの矛先は「食べ歩き」とか「美術館巡り」といった活動にとどまらず、「そういえば最近歯医者に行っていない」ということで歯科医院にもロックオン。歯石除去を定期的にやったほうがよかろう、と病院の予約をするに至った。「テンションが上がった勢いで遊びまくる」方向ばかりではなく、身体のメンテにも気を配るあたり、我ながら感心する。というか、ジジイ臭い。

別に自分の身体を労わりたいのではなかった。「何かやることはないか?」と自分の周りをサーチした結果、「歯のメンテ」というキーワードを思いついただけのことだ。ひょっとしたら、人間ドックだとかアレルギーチェックとかプチ断食とか、そういうのでも良かったんだと思う。単に「歯」が手っ取り早かっただけだ。歯医者なら自宅から徒歩圏内だ。

とはいえ、いざ病院を探すとなると、どうしたものかと悩んでしまった。当時住んでいた場所は閑静な住宅地で、繁華街ではなかったが、それでも歯科医院はいくつもあった。「日本における歯科医院の数はコンビニの軒数よりも多い」と聞いたことがあるが、実際その通りだった。どこにかかればよいのだろう?

風邪をひいたときにかかる内科なら、別に気にはしない。しかし歯ともなれば、二度と生えてこない歯をガリガリと削るのが基本的な治療法だ。「完治」はない世界。歯医者過当競争の今、ド下手な医者というのはさすがに淘汰されてはいると思いたいが、うっかりそういう先生と出会ってしまったら不幸だ。しかしどうやってそれを見極めればよいのか?病院の外観?

「うまいメシ屋は、外観からして風情がある」という場合があるが、病院の場合はどうなのだろう。極論すれば「椅子と机さえあれば開業できる」精神科なら、外観なんて関係ない。しかし、患者がメカに取り囲まれる歯医者ともなれば、ある程度新しい器材を使ってくれたほうが安心だ。新しい器材が良い治療を生むのかどうかはよくわからないけど、心情的に。

とはいえ、さすがに「我が家の近所の歯医者さん巡り」をやって、店の外観から治療の実力を推し量るということはしなかった。そこまで真剣には考えていなかったし。

結局、自前のwebサイトを開いている病院を選んだ。自宅から最短ではなかったものの、webサイトで治療方針を明確に出しているのは安心だった。八百屋で野菜を選ぶわけじゃないのだから、「手にとって実際に商品を確認する」ということができない。その点、webサイトというのは唯一に近い商品説明だからだ。

そのサイトによると、「できるだけ削らない、できるだけ抜かない」治療を心がけているのだという。そりゃいいや。いったん削られたら後戻りできないからな。今回は歯石除去が目的だけど、どうせ細かい虫歯がいくつも見つかるに決まっている。そういう時、ガリガリやられるのはイヤだ。どうせお世話になるなら、「虫歯には正面突破だ!それ!削れ!」と鼻息荒い歯医者さんは避けたい。まあ、そんな宣言をする歯医者ってのは皆無だとは思うけど。

あと、その病院を選んだ理由の一つが、webから診療予約ができるということだった。歯科医院の初診は特にそうだが、なかなかこちらの希望通りの時間で予約が取れず困るものだ。特に、僕は平日昼間は会社に行っている身なので、なおさらだ。その点web予約なら空き時間が一目瞭然で気が楽だ。便利な時代になったものだ。電話口で、「そのお時間はあいにくいっぱいでして」「えっ、じゃあこの時間は?」「そのお時間も・・・」と押し問答をしなくて済んだ。

ちなみにその病院はとても繁盛しているようで、こちらの希望通りで予約が取れたのは二週間後だった。

歯石除去

そこから歯石クリーニングのため、何度か通うことになった。歯石クリーニングに要する通院回数というのは病院によって異なるようで、短いと1回、多いと6回も通わないといけない場合があるらしい。この病院の場合は、4回くらい通ったと思う。右下、左下、右上、左上と分割して処置したはずだ。

「なんで一度にやらないの?」

という問いに対しては、針を歯周ポケット周辺にチクチク・ガリガリやって血が出るし歯茎が腫れる場合があるからだ、という。食事に支障が出るほどじゃないだろうし、一気にいっちゃってくださいよモウ、と願ったが、そうは問屋がおろさないらしい。

周囲を見渡すと、5席だか6席ある患者用の治療椅子はいっぱい。歯科衛生士が数名、あっちこっちで処置の真っ最中だし、先生は虫歯の治療かなにかでガリガリやってらっしゃる。へー、こんなに組織的にやるものなのか歯科医院ってのは!と久々の病院に驚いた。なるほど、これだけ患者がいっぱいなら、「お一人様にたっぷり1時間かけて治療」というのは難しいのかもしれない。それよりも、「一人15分×4回」にした方が、患者として肉体的・精神的ストレスがむしろ少ないという考えだろうか。

後で別のところで聞いた話だが、予約診療を基本とする歯医者としては患者からドタキャンされるととても困る。なので、ドタキャンリスクの分散のため、患者一人に対して一回にかける時間を減らし、一日あたりの患者数を増やしているのだ・・・という。噂話なので本当かどうかはわからないけど、なるほどそれも一理あると思う。

ドタキャンを防ぐためにも、またはドタキャンが出てもすぐに他の患者で穴埋めできるように、リアルタイムで空きを確認できるweb予約システムがもっと世の中に普及すると良いのだけど。1医院のレベルでそういうシステム化は面倒だろうから、病院向けソリューションとしてクラウドサービスを提供する会社ってないのかね?

それはともかく、歯石除去なんて人生のうち1回くらいしか経験がない僕にとって、歯科衛生士とのやりとりというのは目新しい体験だった。これまで僕が抱いていた歯科衛生士に対する印象というのは、「虫歯治療の前後に笑顔で現れ、歯磨きの仕方を教えるおせっかい」というものだった。患者である僕自身に「予防歯科」という概念が全くなかったので、歯科衛生士というのは余計なお世話焼きにしか見えていなかった。しかし実際は歯と歯茎のチェックや、歯石の除去というのもお仕事なのね。失礼いたしました。

その歯科衛生士さんだが、病院内にいるすべての人がギャルっぽい感じだったのには強い印象を持った。マスクを取っている姿を見たわけではないし私服姿を見たわけではないので、化粧や服装が実際にどうなのかはわからない。しかし、まつげや眉など目の周囲はコッテコテにギャルメイクが施されていた。そういうキャラの人が歯科衛生士を目指すのか、この病院における歯科衛生士はギャルメイクがはやっているのか?ガリガリ歯をいじられながら僕は考えた。

その結論として、「実際はギャルではない。仕事中は顔を隠すような格好をしなければならないので、せめて目元くらいはおしゃれをしたい、ということで一点豪華主義になったに違いない」というものだった。最後までその答え合わせはできなかったけど。

親知らず抜歯

虫歯がある、という宣告はいつも残酷だ。それが大なり小なり、ショックを受けるものだ。これまでの自分の人生が否定されたような気にさえなる。大げさだけど。親知らずに虫歯があるということを聞いたとき、とても残念な気になったのは当然のことだ。

しかし先生は言う。「(虫歯になった歯と対になっている)上の親知らずはもうないので、噛み合わせとしては意味をなしていませんね。抜いてしまっても問題ないと思います」と。えっ、親知らず抜いちゃうんですか。

頭をよぎるのは、はるか昔親知らずを抜いたときのこと。2回に分けて、1回あたり1時間以上かけて抜いたなあと。術後しばらくは食べるもの飲むもの、すべてが血ななまぐさかったっけ。あれをまたやれとおっしゃいますか。

「なに、簡単にできますよ。今日抜いていきますか」
「えっ、えっ、そんなカジュアルな。いろいろ準備とかあるんじゃないですか?」
「いえ、すぐにできます。抜くのだって、5分10分あればすぐにできます」
「そんな簡単に!?いや、でも心の準備というものが」

準備が必要だったのはこっちの心だった。虫歯がある、というショックを受けた直後に、親知らずを今すぐ抜いてはどうかという提案。これもさらなるショックだ。

でも待てよ、ものは考えようだ。歯を抜いてしまえば、「虫歯であった」という事実すら「なかったこと」に出来るのではないか。うむ、その考えはいいな。それでいこう。結局、5分ほど「心の準備」に時間を要したが、結果的にその日のうちに抜歯となった。

先生のおっしゃっていた「5分10分」というのは本当だった。麻酔をチクチクと親知らずの周囲に刺して、その数分後にはぶっこ抜いてしまった。歯なんてのはそう簡単に抜けるものじゃないと思っていたのだけど、グイグイと引っ張ればスポンと抜けてしまうのだな。あまりにあっけなくてびっくりした。

「特に上の歯はそうですよ、引っ張れば抜けます」

先生は「一仕事終えた」感すらなく、涼しい顔をして去っていった。こえー、今後ガムを噛むのに躊躇してしまいそうだ。

それにしてもいとも簡単に歯を抜いてしまうなんて、この人はゴッドハンドか?と真剣に思ってしまった。

総入れ歯

先生は言う。「随分歯ぎしりをしているようです」と。歯に強い圧力がかかった結果、表面に細かいひび割れが入っており、その隙間に虫歯がいくつもできているのだという。その数は9カ所だか10カ所だか。うわあ。

そのすべてを治療しても、いずれまた歯に圧力が加わって埋めた部分が破壊されてしまうそうだ。結局、打つ手なしということで放置になった。お医者さんによっては、「とりあえず虫歯なんだから!全部治すぜヒャッハー」とがぜんやる気を出すのだろうが、放置ということでよかったと思う。

それにしても歯ぎしりなんてした覚えはない。ちくしょういつの間に!と思わず歯ぎしりしてしまう。あっ、今!・・・ストレス、溜まっているからなあ。

「いずれは総入れ歯になりますから」と先生は、僕が「総入れ歯になる」ことを前提にあれこれ今後の歯のメンテについて話をする。それがなんとも悲しかった。なんてこったい。

「夜寝る際にナイトガード(マウスピース)を装着することになるかもしれません」

といわれたが、結局この場ではナイトガードを作るという話は出てこなかった。

いろいろある病院の中で、もっともカネの臭いがするのが歯科医院だと思う。それは歯医者さんが銭ゲバだからというわけではなく、保険診療で出来る範囲がとても限定的だからだ。しかし、「健康保険の範疇で治療する」ということに慣れていると、いざ歯医者にかかると、先生の仰ること薦めることの多くが地雷原に見えた。いつどこで高額治療のお誘いを受けるのではないか?と身構えてしまった。実際そんな心配は無用だったのだけど。

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