第3ターミナル行きのバスは、バカ正直に時計回りに進んでいった。半時計回りでいけば550メートルの距離でしかないのに、ぐるーっと回るために東成田駅のほうまで戻るルートだった。えらく大回りだし、無駄だけど道路の制約上仕方がない。
なるほど、550メートル歩きますか、それともバスに乗りますかという選択肢が堂々とある意味がこれでわかった。下手にバスを待って、ようやく乗って、そこから大回りして第3ターミナルに向かうというのはかなり面倒くさい。だったら歩いたほうがマシ、という人は結構いるだろう。特に、LCCを敢えてチョイスするような人は血気盛んな若い人が多いだろうし、歩くくらい屁でもなさそうだ。
第3ターミナルには鉄道駅も駐車場も存在しない。そのあたりも徹底して簡略化しちゃっている。そのため、LCCで成田から飛び立とうと思っている人は、随分早く、徹底的に早く成田に到着しておく必要がある。ただでさえLCCは定時運行に厳しく、乗り遅れが生じても知らん、置いて行くぞという方針だ。LCCは早朝発の便が多いが、甘い計画で始発電車に乗って成田を目指したら、飛行機に乗り遅れるということもあるかもしれない。
成田空港第3ターミナル。
バスを降りたら、すぐそこはエスカレーターと階段だった。トタンのような波打った薄っぺらい壁で、外とは仕切られている。
大きなエントランスなんてないし、車寄せすらない。そうか、送迎の人もここに横付けすることはできないのか。第2ターミナルで用を済ませとけよ、というわけだ。このあたりの徹底の仕方も、むしろ気持ちよい。
以前LCCのカウンターで、「サービスが悪い」と怒っているご年配の紳士を見かけたことがある。たぶんその世代の人たちは、画一料金画一サービスが当然だと思って生きてきたのだろう。
でも、こうやって航空業界はどんどん進化している。「安いかわりにサービスも最低限」のLCC、それと真逆の「値段は高いですがVIP用のラウンジなどでフリードリンクフリーフードでおくつろぎいただけます」といった優雅な世界。僕はこういう割り切りはとても好きだ。「お客様は神様」とか「全ての人に均一なサービスを」とかいうのは、見た目麗しいけど、えてして接客側に過剰な根性論を要求するものだ。そういう、根性論で人をこき使う時代は早く解消してもらいたい。
均一なサービスを提供するのが日本人の美学とも言えたかもしれないが、昨今のサービス全般を見ているとちょっと痛々しい。サービスを利用する側がなんか遠慮してしまうようなレベルにまでなっている気がする。高度なサービスを提供するのは嬉しいし構わないけど、ちゃんとその対価をエンドユーザーから取って、それを社員なりバイトなりに還元しようぜ?
それにしても一種異様な場所だ。
トタン風の壁は道路側を覆い尽くしている。循環バスの乗降場所でさえ、バスのドアサイズくらいしか壁が開口していない。下手に隙間を開けると、そこに横付けして荷物の積み下ろしを始める輩が続出するので、それを防止したいのだろう。そんな車寄せなどないわ!あっちいけ!というわけだ。
エスカレーターを上ればそこがすぐにターミナルかと思えば、いやいやまだ歩けと言ってます。徹底して、利用者に負担を強いるのだなここは。
新しいターミナルなんだし、どうにかならんかったのかと思うが、「どうにかしないで、ありものを繋ぎ合わせてこしらえました。なぜならそのほうが安くつくから」感がすばらしい。
フェンスがあったので、ようやくそこから外を眺めることができた。
いろいろ複雑にラインが引いてあったり、フェンスの向こうにまたフェンスがあったり、ややこしい。
ということでようやく第3ターミナル。
第3ターミナルの入口は、たったこれだけ。第2ターミナルから歩いてきた人とも合流し、ここから中に入ることになる。
成田空港なのに、この小さな間口!思わず微笑んでしまう。
(つづく)
第3ターミナルの中に入ってみる。第2ターミナルから続いていた陸上トラックがここまで続いていた。トラックはそのままターミナルの中に入っており、それはそのまま保安検査場まで誘導していた。誰のアイディアだろう?ここを全力疾走して、YouTubeに動画乗っけて、炎上するお調子者が出てきそうだ。
そこには出発ロビーがあり、他のターミナル同様広い空間が広がっていた・・・のだが、さすがLCCターミナル。作りがチープだ。むき出しの梁。むき出しのコンクリート。見上げると、トタン風の波打った屋根がむき出しだ。まるで倉庫のような作り。いずれ老朽化した暁には、「雨漏りしますのでご注意下さい」とバケツが床に置かれるようなことがあるかもしれない。
でも、こういうのが冷笑されるべきチープさかというと、そうではない。このご時世、むしろこの質素さの方がクールでありかっこいいと思える。LCCを好む人というのは、少なくとも日本においてはまだ「貧乏人」ではなく、「情報感度が高い人」という傾向があると思う。そういう人たちにおいては、このクールさはむしろステータスにさえ感じることだろう。
成田では最大勢力を誇るLCC、ジェットスターのカウンター。オレンジ色のトレードマークがこの殺風景な空間では特に映える。いい色を選んだと思う。
昨年、僕はこのジェットスターを利用するために成田を訪れたのだが、知らないうちにどんどん路線も便数も増やしている現実に相当びっくりしたものだ。ANAとJALしか国内航空会社はない、と思っている人。実際のところは随分と様変わりが始まっている。
ジェットスターはオーストラリアに本社を持つカンタス航空のLCC子会社だ。国内線だけでなく、国際線も成田から発着している。そのため、ジェットスターのカウンターには外国人も大勢群がっていた。
このほか、国際線では日本のバニラエア、韓国のチェジュ航空が就航しているし、国内線ではジェットスター、バニラエア、中国の春秋航空が就航している。春秋航空は成田に国際便を就航していないのに、国内便は就航しているという変な形で面白い(国際便は、茨城-上海便が存在する)。
バニラエアのトレードカラーである黄色に染まったお土産モノ屋。空港のテナントにはどういう利権が働くのかよくわからないのだが、航空会社系列のお店が入るのが通例になっている。ANAの「ANA FESTA」、JALの「ブルースカイ」といった感じで。それと同じことがLCCターミナルでも展開されている。
天井は空調や配管がむき出し。冬は暖気が上に抜けてしまい、結構寒いかもしれない。いや、でもこのターミナルは24時間営業なので、一晩中暖房が効いていてそのあたりは気にしなくてよいかもしれない。
成田空港自体は、騒音問題に配慮して23時~6時の間は飛行機の離着陸ができない(最近は、特例として24時までOKとなる場合もある)。それでもターミナルが24時間開いているというのは、LCCが早朝深夜に離着陸することがよくあるからだ。成田近くのホテルで前泊、なんてやると、うっかりすると肝心の飛行機代よりも高くついてしまう。それだったら、終電でここにやってきて、ソファで仮眠をとる・・・なんてやり方も十分視野に入ってくる。
このターミナルにはフードコートがあった。だだっ広い出国ロビーの片隅にある。イオンとかにあるのと、雰囲気もテナントも一緒。このあたりもざっくばらんだ。
リンガーハットとか宮武讃岐うどんといったお店が並ぶ。しかし、マクドナルドではなくフレッシュネスバーガーが入っているあたりは、やっぱり空港ならではのプライドを意識したのだろうか?
9店舗入っているが、営業はどこも朝4時から。営業終了は21時または22時で、案外早じまいだ。ああそうか、23時までに成田空港の飛行機は全部飛び立つわけで、そのためには21時過ぎには乗客は全員このあたりを通過してしまうのだな。だから、夜遅くまで営業しててもお客さんはやってこないのだろう。
カフェベーネ。
成田初進出!と謳っているようだ。アジアを中心に展開しているお店だとか。
店頭カウンターには、「余市」や「ジャックダニエル」といったウイスキーボトルがバーよろしく逆さにされて並んでいた。こんなところで1ショットたしなむような人がいるのか。かっこええな。あんまり日本人的発想ではないと思うんだが、外国人は「飛行機に乗る前にウイスキー」とかいう趣味があるんだろうか?
水着を売っているお店があった。
「えっ?下着・・・じゃないよな?水着?ええ?」
驚いてしまった。でも、外国に行くんだから、ビーチリゾートがあるようなところに行ってもおかしくないよな。
「でもこういうところで売ってるって、誰が買うんだ?」
「水着忘れちゃった!っていう人が急遽買うんじゃないですか?」
「そんなおっちょこちょい、あんまりいないだろうに・・・」
でも、バーンとこうやって売っているということは、結構売れるのだろう。
「これから海に行くよ!とテンション上がっている人が、ここでさらに水着を見て、『わあこれカワイイ!この水着も買う!』って衝動買いするのかな?」
うーん、と女性もののビキニを凝視してしまった。でも端から見ると変な人だったかもしれない。エロオヤジだ。
そういえば、知人女性が新婚旅行でカンクンに一週間行ってきたのだが、「水着は二着持っていきます!」と嬉しそうに語っていたっけ。何で?と聞いたら、「一日ずっと水着を着ているので、写真を撮ったら全部同じ格好じゃないですか。バリエーションがあったほうがいいですよね?」だって。なるほど、そういう発想か!
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