休屋

2000年10月21日
【店舗数:056】【そば食:122】
東京都豊島区東長崎

鯛の板わさ、もり、ビール

デジカメを新調した。毎年1回、故障により買い換えるという荒技を展開しているわけだが、これはひとえにアワレみ隊でハードな使われ方をしているからに他ならない。カメラは消耗品だ。ひげそりの替え刃と一緒だ。

・・・と、自分に言い聞かせて、泣く泣く財布の紐をゆるめる。こうでもして自分を納得させないと、どうもやりきれない。

さて、そんなわけで新しいデジカメで早速試し切りをしてみたくなった。さあ、今回はどこか遠くに繰り出してみよう。

目標としたのは、江古田の甲子だ。

えー、いつも通りじゃん。でも、久しく行ってないなあ。昔はわざわざ遠征してたのに、最近連れないじゃないの社長。いや、僕社長じゃないし。

ま、甲子に久々に行くのはイイとしても、せっかくの「リニューアルおかでん」を飾るのに甲子はちょっと残念。新規店舗開拓をしなければ、ということになり、東長崎の「休屋」をターゲットにすることにした。

本日の目標。東長崎「休屋」→江古田「甲子」→江古田「長寿庵」。どうだ、一日三軒も食べ歩けば、フィニッシュしたころにはすげぇ充実感と満腹感がおかでんの周囲2mくらいを覆い尽くしているのではないか。

休屋がある東長崎は、西武池袋線で池袋から一駅の東長崎駅が最寄り駅になる。都心の習わしとして、終着点となる巨大ターミナル駅のすぐ次の駅・・・各駅停車しかとまらない駅は、大抵下町が形成されている。この東長崎もその慣例に従っていて、サンシャインシティを見上げる位置にあるにもかかわらず、のんびりとした雰囲気がある町だ。

休屋は、もともと「翁」で名を馳せた高橋名人がお店を構えていた場所だ。ここで「翁」をやっていて、それから山梨に移転し、そして今は広島に移っていった。高橋名人の原点の地、ということになる。店構えは昔から変わっていないらしい。

別に、「高橋名人の過去を辿ろうツアー」をやるほど高橋マニアックスではない。ただ、休屋というお店の蕎麦を食べてみたかっただけだ。そのため、行列ができていたら店をスルーすることに決めていた。何でも、週末は家族連れで行列ができるという。

休屋外観

事前にmaiponでお店の場所は頭にたたき込んでいたので、苦労せずお店に到着することができた。しかし、そういう「下調べ」が無いと、通り過ぎてしまうような外観だ。白い暖簾がかかっているので、どうやら飲食店らしいという事はわかるが、何屋だかわからん。・・・ああ、入口の脇に、木の看板があるか。でも、これが全然目立たない。客を入れたいのか、拒みたいのかわからないくらいだ。

今は、道路に面した窓ガラスにブラインドが降りているが、恐らく開店前にはこのブラインドが上がって、中で蕎麦打ちをしているご主人の姿が拝めるのだろう。地元の人には「蕎麦屋」と分かる。よそ者にはわかりにくい。そういう感じのお店だ。

幸い、行列は無かった。こんな外観のお店で行列ができていたら、一種異様だ。では、早速中に入ってみますかね。

・・・ちょっとだけ、のれんを潜るときに勇気が必要だった。

店内は、ウナギの寝床状態の縦長なつくりだった。ラーメン屋的である。カウンタ席7席と、4人がけの席が4つ・・・だったと思う。ええと、食券機はどこかな・・・いや、そんなものは無いです。落ち着け。

カウンタ席に座る。ここのカウンタ席は非常に独特だ。チョロQの競争ができるような、長ーい板でカウンタが作られているわけではないのだ。一人一人の「陣地」にあわせて、カウンタの板がすっぱり切り落とされて、「隣の敵陣」との間に握り拳程度の幅が空いている。端から見ると、カウンタ席の人が全員画板を首からさげて、デッサンに勤しんでいるような感じだ。こんなカウンタ、蕎麦屋に限らず見たことがない。カウンタを前に、ひたすら感心してしまった。これだったら、相手の陣地に料理の皿がはみ出して、「おいお前、皿が邪魔だぞ引っ込めろ」なんて言いがかりつけられて隣の人とケンカをしなくて済む。・・・蕎麦屋でそんなシチュエーション、あり得ないが。

一つの大机に、8名をぎゅうぎゅうと座らせて、料理のお皿がテーブル上をひしめく神田まつやの対極にある、といって過言ではあるまい。

鯛の板わさ

ビールを注文してみる。結構お値段張るなあ、と思いつつも注文せずにはいられんのですよ、なぜなら僕ぁさっき自転車でここまでやってきたわけでネ、なんて一人で自己正当化しながらアルコールちゃんの到着を待つ。待つことしばし、おっと、なにやらデカい瓶がテーブルに届けられたぞ。あれっ、大瓶だ。へーっ。大瓶?驚いた。蕎麦屋でビールを何も言わずに注文して、大瓶が出てくるなんてあり得るんだ。しかも、ヱビスだ。ヱビスの大瓶、ひょっとして生まれて初めて見たかもしれん。そりゃ、お値段張るわ。

普通、蕎麦屋といえばヱビスが多いが、中瓶もしくは小瓶だ。こんにちは、大瓶さん。今日一日お世話になります。思わず、ぺこりと瓶に向かってお辞儀をする。ここの店主、僕とウマが会いそうな気がする。

ついでに、ビールのおつまみとして豆を煎ったものが出てきた。これがなかなかおいしくて、酒肴として注文した鯛の板わさが要らないくらいだった。

蕎麦屋って、お酒に付きだしがつくかどうかは店によって異なるため、こういう事がよく起きる。当店は付きだし無しです、とか有りです、って親切にお品書きに書いてくれるお店が多いとありがたいのだけど。

隣のお客さんは、炒り豆でビールを飲んだ後にお酒に切り替えていた。すると、お酒と一緒にしゃもじ上であぶった蕎麦味噌が提供されていた。あっ、いっぱいごとにお通しが出てくるのか。なるほど、道理でアルコール類が全般的にちょっと高めな訳だ。納得だ。というか、このお店、酒好きにはちょっとうれしいぞ。この後、二軒目、三軒目と行く予定がなかったら、ここでお酒も注文したのだが、今日はやめておく。

店内はえらくアットホームな雰囲気だ。ご主人、奥様ともそれほど愛想が良いというわけではないのだが、お客さんを含めて店の雰囲気がえらく朗らかだ。ヘビーな常連らしき人、そこそこ常連っぽい人、そして僕のような一見さんが混在する空間が、何か一体感があって馴染んでいる。水筒にそば湯を入れて持ち帰ろうとした人が中身をぶちまけてしまい、店内が騒然となった時も「しゃあねぇなあ、ははは」って感じで店全体が楽しんでいる。いいお客さんが店についてるな、と思った。

そんなご主人の語録。面白いので、メモっておいた。

「朝は4時半起き、夜は9時には寝る。だから友人はなくしてしまう」
「そば屋を開業した15年前までは夜更かしは当たり前で、風呂だけ入ってすぐ出社とかやっていた。でも夜更かしすると、そば打つときに気持ちが悪い。気持ちが悪い事はやりたくないので、自然と夜更かしはしなくなった」
「そば屋は体力がないとできない。だから健康には気をつけている」
「労力の1/4か1/5くらいしか儲からない、そば屋でもうけようと思ってはダメ。習いにきた人にもそれは真っ先に言ってる」
「味については、全て計量しているので自分の体調で味が変わるということはない。逆にお客さんの方が体調悪かったりして味が違って感じるようだ、味が違うというお客に対して「夜更かししたか」と聞いたら、大抵前日夜更かししている」
「食べ歩いていた時、うまいそばが全然なかったから自分でそば屋をやることになった。だから採算は全然考えないでそば屋をやってる」

その言葉通り、蕎麦を注文したら、ご主人は麺の重さをきっちりとはかりで計量してから釜に投入していた。おお、厳格だ。

せいろ

でき上がった蕎麦は、ちょっと太めでうす緑色をしていた。横長のせいろに盛られていて、結構量がある。太いだけあって、のどごしがしっかりしていて食べていて爽快。美味いんだけど、もっとシャキッとしてくれよ!という蕎麦は時々みかけるが、こういうきっちりした堅さを持った蕎麦の方がおかでんにとって性に合う。つるつるつるっと我ながら気持ちよい音を立てて、蕎麦をすすり上げた。

つゆも非常においしい。鰹の香りが立ちすぎず、あくまでもあたしゃ引き立て役でっせ、とふわりと蕎麦を包み込む感じ。

最後出てきたそば湯は、結構濃い奴が出てきた。ポタージュ状とまではいかないが、残ったつゆに混ぜて頂くとすこぶるおいしい。次の店に行く気がなければ、そば湯をお代わりしてでも居座っていたかもしれない。

まだ自分自身にはフィットしないお店ではあるが、何度か通うと自分のこの店での立ち振る舞いってのが段々見えてきて、非常に居心地がよくなりそうだ。

でも、何となく通うには遠すぎるんだよな・・・。結局、行きたくても、イマイチ踏ん切りつかずに行けない、というお店になりそうな予感。

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