我が家の次男・リョウの身体能力が、ここへ来て怪しげな進化を遂げつつある。
仰向けの状態からコロンと転がり、自力でうつ伏せになる「寝返り」自体はできるようになった。しかし、その一連の動作はまだどこかギコちなく、本人としても完全に体得して「我が技」としたわけではなさそうだ。うつ伏せになったあとも、「で、ここからどうすれば?」と泣き出すことがよくある。
だが、仰向けや横向きの状態で周囲に気が向くようになってきたことで、彼の中で「移動したい」という野望が一気に芽生えたらしい。
自力で寝返りを連続させて転がり進むスキルは未完成のくせに、視界に入った物体へ向かいたいという欲望だけが先行し始めた。その結果、彼が選んだ移動手段は、寝返りを重ねることでも、うつ伏せで這うことでもなかった。
仰向けのまま、頭と首を支点にして地を蹴り、突き進むスタイルだ。

その移動フォームたるや、傍で見ている親がヒヤヒヤさせられるレベルだ。
首が折れるんじゃないか、と心配になるほどの急角度で頭頂部を床に打ちつけ、首と肩の力だけで体を浮かせ、尺取虫のようにズルズルと移動していく。手足をバタバタと振ってはいるが、推進力の大部分を担っているのは明らかに「頭」と「首」、そして背中の筋力だ。
プロレスラーが体を鍛える基本中の基本に、手を使わずに首だけで体を支えてブリッジをする「レスラーブリッジ」というトレーニングがある。彼がやっている動作は、まさにこれそのものだと推測される。
首と頭頂部、そして背中の僧帽筋をフル活用して床を押し込んでいく。仮に彼が大きくなってもこの動きを毎日やり続けさせたら、将来はタイガードライバー91を食らっても立ち上がることができる、相当良いプロレスラーになれるのかもしれない。
で、彼がこれほどの負荷をかけてまで目指している目的地がどこかといえば、ぶら下がっている抱っこ紐のバックルや紐だ。
今のところ、この首尺取虫による移動距離はせいぜい50センチ程度がやっとだ。それ以上遠くなると、まだ関心が持続しないのか、途中で飽きてしまうようだ。そもそも遠方のものに気がつくほどの視野がまだ育っていないのだろう。だが、そのわずか数十センチ先の目標(バックル)に向かって、彼は全身の筋肉を緊張させ、床と格闘している。
この「首尺取虫移動」、どれくらいしんどい動作なのかを確かめるため、僕も同じように床で仰向けになり、首と頭を使って移動してみようと試みた。
結果から言えば、ほとんど動けなかった。
頭頂部に全体重が集中して痛いうえに、頸椎が悲鳴を上げ、首の筋肉が強張ってピクリとも前に進まない。移動どころか姿勢を浮かすことすら困難で、大人が不用意に真似をして良い動きではないと痛感した。
なぜ生後間もない赤子にこんな芸当ができるのかと考えてみたが、これは「頭でっかち・胴長短足・圧倒的な柔軟性」という、乳児特有の物理スペックと体格比率があってこそ成立する動きなのだと思われる。
大人に比べて頭部の重量割合が大きく、胴体と脚がコンパクトであること、そして全身の関節可動域が非常に柔らかいこと。これらの条件が揃っているからこそ、あの急角度で首を支点にしてもダメージを逃がし、僧帽筋と首の筋力をそのまま推進力に変換できるのではないか。
成長するにつれて身体の比率は変わり、この独特な動きもやがて見られなくなっていくのだろう。ハイハイや高バイへと移行する前段階の、今だけの限定的な移動フォームとして、首の角度にヒヤヒヤしながらも見守っていくことにする。
(2026.07.12)

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