佐藤錦を鷹揚に配給する

「さくらんぼ、結構値段が高いなぁ」と思いながらスーパーの青果コーナーを眺める日々だった。でも、このままだとさくらんぼのシーズンが終わってしまう。

僕は別にさくらんぼを食べなくても平気だけど、弊息子タケには旬の野菜や果物を食べさせたい。

そんなわけで、シーズン後半になってようやく値段がこなれてきたさくらんぼを買ってきた。佐藤錦だ。

アメリカンチェリーだったら、もっと安くて量が多いパックを買うことができる。でも、たぶんアメリカンチェリーの皮の厚さをタケは嫌がると予想された。彼は最近、皮がある食べものを口に入れるたびに、「皮!」と叫んで口から出すからだ。さやから剥いた枝豆でさえ、「皮!」と言うのだから、よっぽど口の中に何かが残る食物はイヤなのだろう。

で、買ってきたさくらんぼ。

タケは興味津々で、自らパックを開けて中のさくらんぼを取り出した。パックを開ける、という表現は半ば嘘で、実際の彼はパックを破壊しているのだけれど。

おっ、これは嬉しい、彼はさくらんぼを食べるぞ!と買ってきた僕は彼に期待した。しかし、彼はほんの少しだけさくらんぼに歯を立てただけで、「いらない。これ、いらない」と言ってしまった。あー、やっぱりダメか。

彼の場合、相変わらず「酸味」があるものは嫌いだ。果物によくある「甘酸っぱい」味は基本的に受け付けない。なので、柑橘類はいっさい食べないという徹底ぶりだ。

彼は偏食なのか、それとも年齢とともに食べるようになるのか、よくわからない。偏食なのだとすれば困ったものだが、今のところ打つ手がない。ピーマンやネギといった緑の野菜も基本的に嫌うし、彼は順調に子どもならではの食事の好き嫌いが浮き彫りになってきている。その割にはオクラを食べたりするので、好き嫌いというのはよくわからない。

「食物としてのさくらんぼ」にすっかり興味を失ってしまったタケは、かわりにさくらんぼを両親に配給する係になった。一つずつ親にわたすと、それぞれの親から褒められる。なので彼は得意満面だ。

さくらんぼを食べない癖に、なんでこんなに自信満々なんだ、と思いながらも、彼からさくらんぼを恵んでもらうたびに彼を褒める行為を続けた。

(2023.06.26)

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