僕といしは、毎朝必ずコーヒーを飲む。僕が自分で焙煎をしたコーヒーで、世界に一つしかない。
いしは、お世辞の要素もあると思うのだが、「家でこれだけのコーヒーが飲めるのだから、外のお店で飲みたいと思わなくなった」と言ってくれる。僕も、最近はカフェに行く機会がほとんどなくなってしまった。
両親がコーヒーを美味しそうに飲んでいる光景を毎日見ている弊息子タケは、頻繁に「大きくなったら、コーヒー飲める?」と聞いてくる。「うん、大きくなったら飲めるよ」と毎回同じ答えを僕はする。このやりとりが何度もあるのは、彼の脳が未発達で記憶力が未熟だからではない。きっと、コーヒーに憧れを抱いているのだろう。
または、彼がようやく喋れるようになってきた、3語以上の文章を披露したいから、限られたボキャブラリーの中でこの鉄板ネタを繰り返し喋っているのかもしれない。
その証拠に、彼に「コーヒー、大きくなるのを待たずに今でもちょっとだけ飲んでもいいよ?」と話しかけると、即答で「苦いから嫌だ」と言う。彼の人生の中で、コーヒーを一滴たりとも飲んだことがない癖に、「コーヒーは苦い」という情報が頭にしっかりとインプットされていて飲むことを拒絶する。
で、その後に彼は早口でこうまくしたてる。「苦いの、大きくなったら飲める?」と。僕は、「飲めるよ」と答えている。
ある日、家族で訪れたカフェで、僕といしはコーヒーを飲んでいた。タケは水を飲んでいたのだけど、コーヒーの脇に添えられているミルクピッチャーを見つけ、「これ飲んでいい?」と聞いてきた。
ミルクピッチャーのミルクを飲ませてくれ、と言われることは全く想定していなかったので一瞬戸惑った。そして、このミルクを子どもに与えてよいものかどうか、考えた。植物性油脂を使ったコーヒーフレッシュなら彼に与えないほうが良いが、このお店の場合、牛乳が使われているはずだ。だったら大丈夫、ということで彼に「飲んでいいよ」と伝えた。
彼は得意げな顔で、ミルクピッチャーに入った牛乳を飲みはじめた。ちょっと堂々として見える。
彼が飲んでいるのは牛乳にすぎないのだけど、僕はなんだか子どもが巣立っていく寂しさを早速感じた。まだ彼は2歳だというのに。
(2023.11.25)
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