5年越しの添い寝解禁。第二子誕生で崩れた「母子密着」の牙城と僕の困惑

これまで、弊息子タケは産まれてからずっと、母親である「いし」の強力な重力圏内にいた。
僕はといえば、別室で一人、静寂という名の疎外感を噛み締めながら寝る生活を余儀なくされてきたわけだ。

「自立のためにも、そろそろ一人で寝る習慣を・・・」
と、折に触れていしに進言してきたが、彼女の耳は育児モード特化型の高性能なノイズキャンセリング機能を搭載しているらしい。
僕の言葉は風のようにスルーされ、寝かしつけに同行したいしがそのまま朝まで「寝落ち」というのが、我が家の盤石なルーティンとなっていた。

「子離れ、しようぜ」
そう訴え続けてきたが、鉄壁の母子フォーメーションは一向に崩れない。
そもそも、添い乳をやめるようお願いしてから、実現までに相当な時間を要した経緯がある。
彼女なりの愛情の深さゆえなのだろうが、ようやく卒乳したかと思えば、今度は添い寝の既得権益がガチガチに固められていた。

お陰で、僕の夜は常にソロ活動だ。
夫婦の会話は減り、その穴を埋めるように深夜までテレワークだらけの日々。
結果として給料は増えたが、体は座りっぱなしの長時間労働で確実にボロボロになっていく。

これは妻に対する「静かなる抗議」であり「緩やかな自滅」だった。真剣に、そう思っていたし、そういしに伝えたこともある。

「どうせ僕は、現金を稼いでくる便利な事務処理装置なんだろ」と、歯ぎしりしながらキーボードを叩く夜もあった。なかなかどうして、重症の被害妄想だ。

タケが産まれた時、僕は既に47歳だった。
計算上、タケの人生の後半に僕はもうこの世にいない。
だからこそ、いしがタケに心血を注ぎ、僕が家庭内で「稼ぎ、事務処理、いろいろな計画を立てる便利屋」のような役割で固定されつつあることに、形容しがたい無念さを感じていたのだ。

二人目の子どもを授かったのは、そんな「家庭内格差」を打破したいという、僕なりの生存戦略でもあった。

一人っ子として、自己都合がすべて通ると勘違いしつつあるタケの様子を見ていて、兄弟という名の「切磋琢磨し合うライバル」の必要性を感じたのも事実だ。

親戚の集まりで広がる家系図のトーナメント表を眺めながら、子孫繁栄のダイナミズムに触れたことも、僕の背中を押した。

何より、夫婦のリソースがタケ一人に集中しすぎることは、彼の将来にとってもリスクではないか、という懸念があった。「ヘリコプター・ペアレント」という言葉があるが、まさに我々がそうなってしまいそうだからだ。

この「リソース集中」という考え方は僕といしの間で微妙な温度差があったと思うが、ともかく「もう一人いると楽しいね」という結論は夫婦で一致し、我が家に新しい命がやってきた。

これにより、家庭内におけるタケ一極集中のリソースは分散し、相対的に僕のポジションが上がる、という僕の目論見は静かに発動した。

出産直前、いしは良かれと思ってだろうが、僕に「私と赤ちゃんとタケ、3人で寝るわ」と宣言した。
おっと、それは聞き捨てならない。
「いやいや、フォーメーション変更だ。タケは僕と一緒に寝る。いしと赤ちゃんがセット。これが最適解だろう」
僕は、子ども独占禁止法(自称)の施行を断行した。

いしは「あなたは仕事で疲れているんだから、一人で寝れる環境があったほうがいいと思って・・・」と、どこまでも僕への「労り」を口にする。
確かに正論だが、今の僕にとっては「子どもは気にしなくていいから、あなたは稼げ」と、戦力外通告をされたようで、全然嬉しくない言葉だった。
ここで引き下がっては、一生、父子の距離は埋まらない気がする。

ということで、第二子の誕生とともに、僕はもうじき5歳になるタケとの同寝という「特権」をようやく手に入れた。
親になって5年。ようやく自分も、真の意味で「育児の現場」にやってきた気分だ。

これまでもタケのおむつを替え、風呂に入れ、保育園の送迎、その他さまざまな育児をこなしてきた。
しかし、それはどこか「良き父親を演じるための義務」を遂行する感覚だった。

寝室の風景

暗闇の中、すぐ隣で無防備な寝息を立てている我が子。
その「生」の気配をダイレクトに感じる時間は、驚くほど僕の心を穏やかにしてくれ、これこそが子育てだ!我が子がいてくれて嬉しい!と感じさせた。

第二子の誕生という激変の陰で、僕は第一子への愛情を、ようやく純粋な形で再確認することができたようだ。
5年か。随分と遠回りをしたものだ。

もっとも、幸せな余韻に浸る間もなく、蹴飛ばされて目が覚める深夜の「肉弾戦」を、これから毎晩こなすことになった。
子どもの寝相は悪い、というのは聞いていたが、まさか頭頂部をドロップキックされるとは思っていなかった。

これが僕が求めていた「育児のリアリティ」だったのか、と苦笑いしながら、僕は意識を再び闇へと沈めていく。

(2026.01.05)

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください