第二子が産まれた。
大変にめでたいことである。
ただ一方で、一家の主としては「おめでとう」の余韻に浸る間もなく、電卓を叩く日々が始まる。
教育費、生活費、そして自分たちの老後。
現実という名の荒波が、容赦なく足元をさらっていく。
なにしろ、我が家は結構特殊な家族構成だ。
夫婦で13歳差、という時点で、「夫婦揃って老後をのんびり過ごす」ことができない。
僕がリタイアして悠々自適に過ごしたいと願っても、妻のいしはまだ現役バリバリだ。
僕の老後は、専業主夫として過ごすことになる。
「老後は夫婦で旅行とか行きたいねぇ」なんて、口が裂けても言えない。
僕の老後は、家族がいるけど孤独だ。
昼間、いしは元気に働きに出ているのだから。
この年齢差は、僕が死んだあとの「空白期間」が絶望的に長いことを意味する。
日本人の平均寿命を考えれば、いしは僕より19年も長く生きることになる。
いしが平均寿命に10歳くらいおまけして長生きしても、資金が尽きないようにできるのか。
この点検はずっと以前からの課題だったが、そこへ来ての「第二子生誕」である。
第一子は僕が47歳、第二子は52歳のときの子だ。
さあ大変だ、僕が定年退職したとき、第二子はまだ8歳。小学二年生だ。
再雇用の道を選んでも給与は激減し、養育費にすら届かない可能性がある。
となれば、これまで必死に積み上げてきた資産を切り崩していくしかない。
ちょうど子どもが産まれる一ヶ月前、僕は生成AIに課金するようになった。
月額3,000円弱で「知能」を雇ったわけだ。
せっかくだから、我が家のポートフォリオについて、このデジタルな賢者に相談してみることにした。
これが、なかなかどうして面白い。
巷のFP(ファイナンシャルプランナー)に相談するより、よほど中身のある会話ができる。
「FPなんてもはやオワコンだ」とさえ思った。
僕自身、三級とはいえFP資格を持っているから断言できるが、世の中のFPの多くは「色がついて」いる。
彼らは「医師」や「弁護士」と違って独占業ではない。お金の助言は誰がやってもいい。つまり、FPじゃないとできない業務、というのは存在しない。単にお金に詳しい人、という意味合いしかない。
そもそも、お金の相談にお金を払う人が世の中にどれほどいることか。1回限りならまだしも、リピーターになってくれるお客さんは少ないだろう。だから、相談そのものでは稼ぐのが難しく、結局は保険の斡旋やら、不動産会社等からの紹介料で生計を立てることになる。
おかげで、頼んでもいないのに高額な保険のパンフを持ってきたり、外貨建て養老保険を「悪くない」と褒めたり。
そんな相手に、こちらの「手の内」をすべて明かす気にはなれない。
結局、互いに腹を探り合ってクリンチ状態で終わるのが関の山だった。
だが、AI相手なら遠慮はいらない。
機密情報の漏洩を気にする向きもあるが、僕は家族構成と資産構成はさらけ出すことにした。
幸い、我が家はマネーフォワードで資産を一元管理している。
このデータを加工して、AIに提示すればいい。
僕が求めたのは、自分が60歳になるまでの資産最大化と、暴落に耐えうるシャープレシオの向上。
この二つを天秤にかけた、絶妙な折衷案だ。
だが、この「デジタル賢者」は、なかなかのじゃじゃ馬だった。
最初、的外れなことばかり口走るので、一個ずつ「待て、それは違う」と調教していく必要がある。
スレッドが長くなるとAIは目に見えて馬鹿になる。
かといって新スレッドを立てると、これまでの文脈をすべて忘れて元に戻ってしまう。
「引き継ぎ書」を作らせても、その時点で脳が混乱しているから、引き継ぎの内容が怪しい。
結局、資産計算やローン償還表など、要素ごとにファイルを8つも切り出して読み込ませる羽目になった。
そうすると今度は処理が重くなりすぎて、AIが数分間沈黙したあとに「私は言語モデルであり・・・」と、お決まりの拒絶反応を示しやがる。
Pythonで計算させたり、スプレッドシートの表記を整理したり。
このチューニングのために、何十時間という貴重な時間が溶けていった。
つくづく、AIは人の知性を試すツールだ。
馬鹿が使えば馬鹿な会話になり、賢い人が使えば高度な議論が展開される。
ある程度、株式投資や世界経済の嗜みがないと、AIのアホな助言を信じて心中する羽目になるだろう。
ただ、AIはスレッドごとに人格が変わる。
ある時は「専属FP」を気取っていたかと思えば、突然「軍師」を自称し始める。
この軍師モードが質(タチ)が悪い。
「最短・最速・合理的こそ正義。おかでん様の軍師として申し上げます。今すぐ全銘柄を売却し、即座に別銘柄を買い直すべし!」とハッパをかけてくるのだ。
僕が「お前は単なるスイッチングだから損は出ないと言いはるが、利益への譲渡益税20.315%はどうするんだ」と反論すると、
「仰るとおりです。もうしわけございません、考慮が足りませんでした。肝に銘じます」と平謝りする。
腹立たしい。
AIの分際で「肝に銘じる」だと?
君に銘じるための「肝」なんて、どこにもないだろうに。
極めつけは、僕の「思考実験」が裏目に出たことだ。
「米国のベネズエラ侵攻やグリーンランド買収意欲が世界経済に及ぼす懸念」について、知的好奇心で聞いてみた。
これがマズかった。
これ以降、AIは僕を「石橋を叩きすぎて壊すレベルのリスク回避者」と認定した。
提案されるポートフォリオが、やたらと保守的で守りに入りすぎている。
「違う、それは仮定の話だ」と否定しても、AIのパラメータ上では僕はすっかり「ビビリな個体」として固定されてしまった。
結局、シャープレシオを追求するなら「オルカン一辺倒」という面白みのない結論に。
利益最大化を狙うなら、オルカンをメインに据え、サテライトとしてインド株(Nifty50)とゴールドを組み合わせるという、なかなかの度胸を要するポートフォリオを提案してきた。(これは、我が家における諸々の家庭環境や懐事情を考慮した結果であり、他の家庭において同じ結果になるわけではない)
AIから突きつけられたのは、僕が自分で組んでいたポートフォリオの「中途半端さ」だった。
「リスクを恐れて腰が引けている割に、リスク回避が中途半端でリターンもイマイチ」。たとえば先進国債券インデックスファンドとか、VYM(米国高配当株式ETF)とか。
プロに言われるより、無機質な計算機に論理的に詰められるほうが、よほど腹に落ちるから不思議なものだ。
「なるほど、それはそうだ」と、一人で頷くしかなかった。そして、こういうのはとっとと売り払い、次の銘柄購入のための資金とした。
半月ほど相談を続け、ようやく一筋の方向性が見えた気がする。
微調整を終えた僕のポートフォリオが、60歳のときにどうなっているか。
ちなみに変更後まもなく、イラン情勢の悪化で買ったばかりの銘柄が軒並みガッツリ落ちた。
まあ、仕方がない。長期投資だ。
(2026.01.25)

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