JAPAN webデビュー

中秋の名月が近づいている。今年(2009年)は10月3日がその日にあたる。

中国でも同様の文化があり、あちらの国では「中秋節」と呼ぶ。台湾ではなぜかその日にバーベキューをする習わしがあるようだ。

外に出て月を見る→もう夜だね、おなか空いたね→せっかくみんなで集まったんだし→そうだ、BBQをしよう

という発想がいかにも中国的で面白い。それに比べて、日本では「縁側で、白玉団子を食べながら静かに月を愛でる」だもんな。お国柄が如実に出ている。

これが欧米になれば、「満月を見る?君は天体観測が好きなのかい?」と聞かれてしまうだろう。それだけでなく、アメリカ人だったら「なに、バーベキューするのか。だったら俺ん家特製のスペアリブソースがあるが、お前にやろう」とか余計な事を言い出しそうだ。

それは兎も角、中国の中秋節では、「月餅」と呼ばれるお菓子を日本のお中元よろしく贈答しあう習慣がある。日本でも時々売られているが、ほとんど馴染みがない食べ物だ。何か怪しい紋様のようなものが刻んである茶色いお菓子だったっけ、という位しか記憶にない。

その話を台湾の知人にしたところ、「台湾の月餅では、女性が描かれているものがある」という。なぜかというと、台湾(中国?)にも日本でいう「かぐや姫」のようなおとぎ話があり、最後は月へと帰って行くんだそうで。だから、月餅にもそのお姫様が描かれる事がある、と。

あんなお菓子にどうやってお姫様を描くの?と思って、Wikipediaで調べてみたがさすがに情報量がくて正体がつかめなかった。ならば、と中文版のWikiを見てみたが、やはり該当するものは見つからなかった。

しかし、一つの発見があった。当然といえば当然だが、中文版のWikiの方が、月餅については情報量、写真枚数ともに多かったということだ。そうか、国によって関心度が違うもんな。

そこでふと思い立った。「日本」というWikipediaの項目を、各言語版で比較するとどんな違いがあるのだろうか、と。さすがに文章を読解するのは無理があるので、採用されている写真を比較するだけでも楽しいだろう。

つい最近、「日本人が知らない日本語」という本を読んだのだが、日本語学習中の外国人のドタバタ勘違い話がとても面白かった。そういうのを、Wikiで検索すればすぐに体験できるのではないか。早速、調べてみることにした。

【検証1:日本人による、「日本」】

当然のことながら、一番日本に詳しい日本人が執筆している。

写真の選択や記述内容も、「日本人が考えるところ」の平均点的なものだと思われる。

今後、他国を比較する際のベンチマークとして、まずは日本人による「日本」を紹介したい。

以下、掲載されている写真のみを紹介。地形図やグラフ等は割愛。

・天皇皇后両陛下 ・法隆寺 ・平安時代の宮中を描いた絵 ・関ヶ原の合戦の屏風絵 ・徳川家康 ・原爆のキノコ雲 ・東京タワー ・神武天皇 ・国会議事堂 ・陸海空自衛隊 ・日本銀行 ・車(レクサスLS600) ・東京証券取引所 ・東京駅(丸の内駅舎) ・JAL(B-747) ・新幹線(N700) ・日本橋と首都高速 ・富士山 ・桜 ・宮島大鳥居 ・奈良の大仏 ・源氏物語  ・水墨画(雪舟) ・浮世絵(北斎x2点、写楽) ・風神雷神図 ・大相撲

これでも紹介の仕方としてはバランスが悪いとは思うが、著作権の問題や写真素材が無いなどいろいろ事情はあるので仕方がない。

一応これが日本人が考えるところの平均点、ということで、他国と比較をしてみよう。

【検証2:韓国人による、「日本」】

編集合戦の結果管理者から保護対象にでもされているのではないかと思ったが、ちゃんと誰でも編集できるようになっていた。

・衆議院本会議場 ・新宿の高層ビルと富士山 ・江戸時代の江戸のパノラマ写真 ・日本列島の人工衛星写真 ・日本銀行 ・新幹線(300系と700系)

隣国であり、人的交流も多いはずの韓国だが、あまり日本に興味がないのか文章・写真ともに量が少ない。揉めた結果削除された後なのかもしれない。江戸のパノラマ写真を持ち込んできたのは独自性があって面白い。

【検証3:中国語圏の人による、「日本」】

Wikipediaの「中文」を選択すると、画面上部にたくさんのタブが表示されることに気がつく。Wikipediaはあくまでも言語単位にひとくくりにしており、その結果中国語版Wikiはいろいろな国の寄せ集めになっている。普通話(中国の標準語)版、台湾版、マカオ・香港版、マレーシア・シンガポール版などいろいろだ。

恐らく、それぞれ微妙に記述内容は違うのだろうが、採用されている写真は共通のようだ。

・平等院鳳凰堂 ・姫路城 ・黒船 ・原爆ドーム ・日本列島の衛星写真 ・富士山 ・沖縄のビーチ ・レインボーブリッジ ・大阪西梅田の夜景 ・名古屋城 ・渋谷スクランブル交差点 ・国会議事堂 ・福田首相とブッシュ大統領 ・海上自衛隊「ひゅうが」 ・銀座4丁目交差点 ・東京証券取引所 ・新幹線(700系と300系) ・地獄谷温泉の露天風呂につかるサル ・ASIMO ・北斎の浮世絵 ・源氏物語 ・奈良の大仏 ・東京ドーム ・お台場フジテレビ本社ビル

韓国が「まあ、こんなもんでしょう」感ある写真だったのに対し、中国さんなかなかマニアックなセレクトです。お城が二回も出てくるあたり、城マニアが噛んでいるっぽい。フジテレビのビルなんて、なぜ掲載しているのか・・・と不思議だが、多分「日本に行ってインパクトがあった景色」の上位にランクインするんだろう。日本を紹介する写真としてはあまりふさわしくないけど。

あと、風呂に入るサルってのはよっぽど珍しいんだな。ただ、あれを「日本の風土」として紹介されるとちょっと困る。「日本のSPAはサルが入るところだ」なんて勘違いされそうだ。

海上自衛隊の護衛艦、「ひゅうが」が紹介されているのが珍しいが、しっかりと紹介文には「航空母艦」と書かれていた。日本、戦う気満々だぜ、と勘違いされとる。いやいや、そんな気は全然ないんですが。哨戒ヘリしか発着できないんですけど。

【検証4:英語圏の人による、「日本」】

「English」を選ぶ。これがイギリスを指すのか、アメリカを指すのかは不明。Wikiには「Simple English」という項目もあり、こちらは子供や障がいがある人でも読めるよう、要点だけを簡略化して書いたものになる。

アメリカさんといえば日米同盟でおなじみの国。ペリーさんに黒船で脅されて、日本の夜明けぜよになったのは記憶に新しい。さてこの国がどんな理解を日本に対して示しているのか、気になるところだ。

・元寇(てつはうによる攻撃) ・戦国時代の合戦 ・御朱印船 ・戊申戦争時の薩摩藩サムライ ・新宿の高層ビル群 ・天皇皇后両陛下 ・護衛艦「ひゅうが」 ・戦闘機F-15s ・桜と、新幹線と、富士山 ・伊方原発 ・東京証券取引所 ・横浜みなとみらい ・車(プリウス) ・新幹線(300系) ・ASIMO ・宇宙ステーション「きぼう」 ・渋谷スクランブル交差点 ・宮島大鳥居 ・東京大学安田講堂 ・北斎の浮世絵 ・ゲイシャのお座敷芸 ・日本庭園 ・大相撲

いきなり元寇の絵から始まるところが凄い。カミカゼの由来はこれだ、ということなんだろうか。そのあとに御朱印船が出てきたり、伊方原発が出てきたり(なぜ伊方?柏崎じゃなくて?)、なかなかエキセントリックだ。写真だけ見ていると、本当にこれで日本を網羅的に紹介してくれているのかと心配になってくる。

あと、西洋人にとっては「ゲイシャとサムライとスモウレスラー」というのは外せない要素なんだろう。しっかり写真がある。せっかくだから、姫路城あたりの写真も載せればいいのに。

【検証5:モンゴル人による、「日本」】

欧米諸国になると、どうしても「神秘のアジア」的写真に走ってしまいそうな気がする。安易に文化差を楽しんでもつまらないので、もう少し近隣国を見てる。とりあえず、日本の国技である大相撲に大勢の力士を輩出している、モンゴルを見てみよう。相撲だらけの記事だったりして。

モンゴル語版ををWikiで探すのには苦労する。アルファベットではないからだ。Монголと記述されているので、それを選ぶ。

・レインボーブリッジ ・縄文式土器 ・御朱印船 ・沖縄のビーチ ・日本列島の衛星写真 ・桜と、新幹線と、富士山 ・車(レクサスLX) ・東京証券取引所 ・東京大学安田講堂

意外だったのは、大相撲の写真が無かったということだ。どうしたモンゴル。実はあんまり現地では人気がないのか?

写真は他国の使い回しが多いのだが、なぜ「縄文式土器」などというオリジナリティ溢れる写真を採用したのか、謎すぎる。御朱印船もしかり。どういう文脈でこの写真が使われているんだ?

ためしに、モンゴル語版Wikiを自動翻訳にかけてみたが、ロシア語と勘違いして翻訳したために失敗。やたらと本文中に「ヘモグロビン」という言葉が出てくる、怪しい国になってしまった。

車の紹介で、敢えてレクサスLX(要するにランドクルーザーのことだ)を出しているところがお国柄なんだろう。この大草原の国じゃ、プリウスなんて使い物にならないのだろう。

【検証6:ロシア人による、「日本」】

そういえばロシアも重要な隣国だった。調べておかないと。プーチンをはじめ男前が多いが、何を考えているかよくわからないところがあるからな。

・・・しかし、調べてみてびっくり。写真、皆無。文章量も非常に少ない。やる気なさ過ぎ。

大国ロシアからしてみると、日本なんて極東の小さな島国、程度にしか考えていないのかもしれん。ロシア西部に住んでいる人は、日本が隣国であることすら気がついていないかもしれん。だったら北方四島を返してくれ。

Wiki共通で使われている地球儀型の地図では、うっかり北方四島が「領土未確定」として別の色になっているものを採用しているあたり、ますますやる気がない。

しかも、別の日本地図では、ご丁寧に北方四島のところに矢印をつけて、「RUS」と書き加えているちぐはぐぶり。北方四島を返したくない、われわれはとても関心を持っている、というPRのためにも、ロシアは早急にWikiを充実させてくれ。でなけりゃ、島を返してくれ。

【検証7:ポルトガル語圏による、「日本」】

ポルトガルといえば、鉄砲伝来でおなじみの国。鎖国で国外追放されるまではお世話になりました。あと、日本移民が多いブラジルもポルトガル語圏なので、どういう書かれ方がされているか気になる。

・縄文式土器 ・元寇(てつはうによる攻撃) ・元寇(元の船にサムライが突撃) ・フランシスコザビエル ・原爆ドーム ・日本列島の衛星写真 ・桜並木 ・桜と、新幹線と、富士山 ・新宿の高層ビルと、富士山 ・夕闇の横浜みなとみらいと、富士山 ・東大寺 ・天皇皇后両陛下 ・国会議事堂 ・護衛艦「ひゅうが」 ・F-15s ・宇宙ステーション「きぼう」 ・東京証券取引所 ・横浜みなとみらい ・車(プリウス) ・東京大学安田講堂 ・姫路城 ・日本庭園 ・土偶 ・北斎の浮世絵 ・銅鏡 ・剣道 ・高校野球

モンゴル語Ver.に縄文式土器が出てきたのには驚いたが、ポルトガル人も縄文式土器には興味津々らしい。日本を紹介する際、歴史から語り始めるのが定番なため、適当な素材を漁っていたら「日本の古いモノ」として土器が適当と判断したのだろう。それはいい。

その次にいきなり元寇まで話がぶっとび、しかも2枚も写真を使っているのが特徴的だ。サムライ大活躍、ということなんだろう。つくづく、日本の古い書画が現存し、世界的にも知られていて良かったと思う。多分、これと同じ絵を、元の立場で描くと「サムライ逃げまどう」という絵になっていたはずだ。歴史というのは、既成事実こそが全てだ。

フランシスコザビエルが紹介されているのはさすがだが、どう見てもその絵はザビエルではない。日傘を差したり、愛玩犬を連れているようなお付きの人が周囲にわらわら。多分宣教師でこんな金持ちそうな態度を取っていたら、日本ではキリスト教が普及しなかったと思う。

他には、富士山三連発、とか「きぼう」って世界的に有名なのね、税金投入した甲斐があったねえ、とか、「ひゅうが」があちこちの国で紹介されているけど、誤解されないようにちゃんと各国に説明しとかないとやばいんじゃないか、とか気がつくことはいろいろ。勉強になる。

【検証8:オランダ人による、「日本」】

オランダも日本がまだ武士の世界だった頃から付き合いのある国だ。江戸時代は出島に押し込めていたが、江戸時代後期には「蘭学」として日本の医学などをはじめとして近代化に貢献した国。そんな国だが、相手はどう捉えているのだろう。

・日本列島の衛星写真 ・増上寺のお地蔵様がずらりと並んでいる光景 ・田沢湖(田沢湖神社) ・鎌倉大仏 ・和傘 ・出前の寿司桶と桶いっぱいに入った寿司

写真枚数は少ないが、マニアックかつオリジナリティ溢れる選択をしていて面白い。田沢湖ってマニアすぎるだろ。湖上にある神社なので、何かアジアンミステリーを感じたようだ。

あと、スシが出てくるところは確かにうっかりしていた、日本の定番ですな。そういえば、スシは今回初登場。

真っ赤な和傘が開いて庭先で干してある写真なんて、日本の美意識を感じるのかもしれない。どうもオランダ人は、日本をロマンチックに捉えていて、科学技術立国という認識はほとんど持っていないようだ。「俺たちの国にはフィリップスがあるぜ。フィリップス最高」ということなのだろう。

【検証9:ドイツ人による、「日本」】

一時は同盟を組んでいた関係。普段はあまりお付き合いがない国だけど、どんな解釈をされているのだろう。ドイツ人ならではの職人気質な写真選択に期待したい。

・柴犬 ・森林 ・池を泳ぐ錦鯉 ・赤松 ・1917年撮影の、双子の赤子を背負う母 ・1931年奉天で撮影された日本軍の行軍 ・西本願寺 ・天皇皇后両陛下 ・国会議事堂 ・夜の新幹線操車場(多分大井町。100系、300系、500系、700系) ・関西国際空港(多分Google Earthのもの) ・枯山水様式の日本庭園(東福寺) ・桜

さすがドイツだけあって、数値データやグラフが多用されている。こういうところにも国民性は出てくる。日本人と相性が良さそうだ。それにしても一発目の写真が柴犬って何。映画「HACHI」の公開に合わせたのだろうか。あ、ハチ公は秋田犬だったか。

サムライ系の話が出てこないのは面白い。また、浮世絵などの著名な日本文化も紹介されていない。それなのに、なぜか「単なる裏山」の写真だったり、「単なる赤松」の写真が紹介されているのが謎。さらに、西本願寺が掲載されているあたり、写真素材に窮していたとしか思えない。西本願寺、正面から撮影するなら兎も角、山門の斜めから撮影していて何がなんだかわからん。

【検証10:イタリア人による「日本」】

イタリアもドイツと同じく三国同盟を結んでいた仲。今じゃすっかり「ちょいワルオヤジの産地」として認識されてしまっているが、相手はこちらをどう見ているか。何しろ、ローマ時代からの歴史を誇る国だ、少々の日本の歴史ごときじゃ動じないはず。

・奈良の大仏 ・源氏物語 ・サムライ(志倉常長) ・御朱印船 ・原爆のキノコ雲 ・日本語の女優(愛葉月) ・英虞湾(志摩)に沈む夕日 ・甲子園球場

誰、このサムライ。支倉常長?歴史では習っていない、と思うが・・・なぜイタリアのWikiに。しかも、この人の専門項目までイタリア版では起こされているくらいだ。よっぽど著名人らしい。

調べてみたら、江戸初期に仙台藩が送り出した遣欧使節団長だったらしい。メキシコ経由でスペイン、ローマまで行き、法王パウロ五世にも謁見し大歓迎されたそうだ。知らなかった。

一つ勉強になったが、相変わらず御朱印船、どこの国も好きだなあ。鎖国時代の交易について紹介したければ、出島を描いた絵を掲載すれば非常に分かりやすいのに。

ところで、「愛葉月」って誰。イタリアだけで活躍している日本人アイドルだろうか。

これも調べてみたら、「葉月愛」という人らしい。主演DVDの解説を読むと、「セーラー服、ブルマ姿はもちろんのこと、大胆チラリズムショットやTバック(以下略)」。えええ、なぜこの人がイタリアのWikiに?これ以上は調べてもわからなかった。

きりがないのでこの辺でやめる。ホント、きりがない。探せば探すほど、面白いものが発掘されるのがwebの世界なので、みなさんもぜひ。

ちなみに、スペイン語版では、「スペイン人?のくわえた葉巻にライターで火をつけてあげる舞妓さん」の写真があったり、細かく見ていけばいろいろ変なものがあって楽しい。まだまだ宝の宝庫だ。

(2009.09.26)

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