登山用ヘッドライト新調。ブラックダイヤモンド「SPOT400」を選んだ合理的な理由

自宅には、登山用、キャンプ用、そして防災用を兼ねて3つのヘッドライトを常備している。しかしそのうち1つの調子が悪くなった。原因は明確で、電池ボックス内部の接点金属の劣化だ。スイッチを入れてもチラチラと不快に明かりが明滅し、まともに点灯しなくなってしまった。

Amazonあたりを探せば、1,000円前後の格安中華製ヘッドライトが無限に出てくる。だが、この手の格安品は往々にしてirいろいろな部分の作りが甘い。金属パーツがすぐにヘロヘロになり、経年劣化や振動で接触不良を起こしたり、雨に弱くてすぐにサビるのが目に見えている。

ファミリーキャンプや自宅での停電対策程度であれば、そういった安物で茶を濁しても害はない。最悪ライトが壊れても、スマホのライトをつけたり、ランタンの明かりの下で苦笑いしていれば済むからだ。

しかし、登山の現場では話が一変する。日没後の樹林帯や、夜明け前の岩場歩きにおいて、光源の喪失は即座に「行動不能=滑落・遭難」へと直結する。足元の一歩先すら暗闇に呑まれる恐怖の中で、接触不良を起こしたライトを「ちくしょう、電池は交換したばっかりなのになんで点かないんだ・・・!」とイライラしながら叩き、途方に暮れるリスクを思えば、最初から信頼のおけるメーカーのまともな道具を買っておくのが妥当だろう。

新しいヘッドライトを買うにあたり、最初に頭をよぎったのはペツル(PETZL)製品だった。ヘルメットやライトの分野で定評のある老舗であり、信頼性には申し分がない。

だが、ペツルのデザインはどうにも無骨すぎる。失礼ながら「炭鉱夫が坑道に入っていくためのガチ装備」といった佇まいで、個人的にはもう少し愛着の持てるデザインが欲しかった。おまけにお値段も少々お高い。

一方で、最近マーケットを賑わせているナイトコア(NITECORE)などに代表される超軽量・超コンパクトモデルも検討対象から外した。頭に固定するベルトすら廃して細い紐(ショックコード)を採用し、本体重量50g以下という驚異的な軽さを誇る製品群だ。

スペックとしては魅力的だが、僕の性格上、この手の極小ガジェットは山の上やテントの中で確実に紛失する。

道具を選ぶ際、「無くさないこと」は安全管理の第一歩だ。これまで愛用してきたブラックダイヤモンド(Black Diamond)の「COSMO(コスモ)」も、テント場や暗がりで見失わないよう、敢えて目立つ赤色を選んで購入したものだった。

今回、最終的に選んだのは同じブラックダイヤモンドの「SPOT 400(スポット400)」のブルーだった。デザイン的にもどこかキュートさがあり、サイズ感も「無くさない程度に程よい大きさ」を保っている。過剰な軽量化に走らず、自分の性格に合わせた実用的な選択だ。

SPOT 400のラインナップには、本体にUSB充電ポートが直接ついたバッテリー内蔵型の「400-R」が存在する。スマホと同じ感覚で充電でき、トータルコストも安く済むため、世間一般の売れ筋はこちらかもしれない。

ノーマルの「SPOT 400」は、本体を買っただけでは動かない。単4乾電池3本を入れるか、別売りの専用リチウムイオン充電池(BD1500)と専用チャージャーのセットを数千円で買い足す必要がある。本体と充電池を個別に揃えると、内蔵バッテリーモデルよりもかさばり、重量も増し、そして何よりトータルコストが高くつく。

それでも僕は、乾電池と専用充電池の両方が使える(DUAL-FUEL)モデルを選んだ。

行動中にバッテリーが切れたシーンを想像してみてほしい。内蔵バッテリー型の場合、モバイルバッテリーからケーブルを伸ばし、こめかみのあたりにベルトでバッテリーを固定しながら歩くハメになる。そんなマヌケで危険な運用は真っ平御免だ。

すでに手元には、COSMOで使っている交換式バッテリーが1個ある。これに今回購入した分を合わせれば、予備バッテリーを含めて2本体制で山に入れる。もともと僕は早朝暗いうちから何時間もヘッドライトを点灯して歩くような過酷な山行はしないため、電池切れを起こす可能性自体は極めて低い。

だが、道迷い遭難など最悪の事態を想定したとき、「現場でサッとバッテリーを交換できる」という安心感は大きい。バッテリー交換式は一見すると時代遅れで野暮ったく見えるが、山の現場におけるリカバリー性能を考えれば、こちらの方が気持ちが楽だ。

ブラックダイヤモンドは海外メーカーであり、国内の通販サイトなどでは並行輸入品や旧型・新型が入り乱れて出回っている。そのため、購入前にネットのスペック表を眺めていても、具体的にどういう構造のライトなのか正直よくわからなかった。

自宅に届いた実物を開封した際、それを見た5歳の弊息子タケが真っ先に声を上げた。

「あっ、ライトが3つある!これまでのは2つだったのに!」

驚いた。手元に届くまで「3つ玉」のライトだということすら認識していなかった僕に対し、5歳児の観察眼のほうが遥かに鋭かったのだった。これまで使っていたCOSMO(これはキャンプ用として妻のいしへ譲渡した)は白色LEDと赤色LEDの2つ目だったが、SPOT 400は白色レンズが2つに増え、赤色LEDと合わせて3眼構造になっていた。

モデル名にある「400」の通り、このライトの最大照度は400ルーメンに達する。おそらくスポット用LED(200ルーメン)とワイド用LED(200ルーメン)を同時点灯させた際の合計値だと推測されるが、この光量は凄まじい。部屋の中で試しに点灯させてみたが、もはや「明るい」を通り越して「直視すれば目眩まし・目潰しになる」レベルだ。しばらく網膜に残像が焼き付いて消えなかった。

この凶暴な光量を子供に使わせるのは極めて危険だと判断した。子供という生き物は、「やめろ」と注意しても意図的に人の顔にライトを向け、「眩しい!」と言わせて面白がる習性がある。400ルーメンでそれを食らってはたまらない。

そのため、タケには最大60ルーメン(電球色ならわずか5ルーメン)という、目に優しいモンベルのコンパクトヘッドライトを使ってもらうことにした。60ルーメンの控えめな明かりが、どれほど人の目に優しく平和であるかを痛感する。

登山における明かりの使い方は、単に「前方を強く照らせば良い」というものではない。登山の現場では、用途に応じて配光を切り替える技術が求められる。

  • スポット照射(遠方照射): 遠くにある登山道のピンクテープや道標、分岐の看板を探す際に使用する。光を絞って遠くまで届かせる
  • エリア(ワイド)照射: ナイトハイク時に自分の足元や周辺全体を均一に照らし、障害物による躓きを防ぐ。
  • 赤色LED(夜間視度維持): 山小屋の相部屋やテント内で使用する。人間の瞳孔を収縮させないため、周囲で寝ている他人の目を刺激せず、自分の夜間視力を維持したまま手元を照らすことができる。

まだSPOT 400を実際の山で使いこなしてはいないが、遠くを射抜くスポットと、手元・足元を柔らかく包むエリア照射を使い分けられるアドバンテージは大きいはずだ。

壊れにくい構造、適切な配光パターン、そして万が一の際の電源リカバリー性能。ヘッドライトひとつを掘り下げてみても、登山の道具選びにはいろいろなロジックが存在する。

単に「明るくて安い」だけの道具に飛びつき、現場でトラブルを起こして右往左往するのは愚の骨頂だ。数千円の差額で買っているのはライトそのものの性能だけでなく、「過酷な状況下でも確実に点灯し、自分を守ってくれる」という安心感に他ならない。

新調したSPOT 400をザックのポケットに忍ばせ、次の山行へ向かう準備を整えている。

・・・とかっこよく締めくくりたかったが、実際は家族が寝静まっている寝室に行く際、足元の子どもを踏んづけてしまわないように赤色灯を使って移動するのに使っている。400ルーメンを使う機会は一体いつの日になることか。

(2026.07.09)

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