カメラの購入と売却の具体的な話に踏み入る前に、もう少し「カメラの中古市場」について話をしておきたい。なぜなら、今回の一連のプロセスにおいて、僕がもっとも驚かされ、かつ学んだ部分がここだからだ。
5ちゃんねるなどのカメラ関連コミュニティを眺めていると、「これまで使ってきたレンズに飽きたので、中古で売って新しいレンズを買った」という書き込みをよく見かける。
あまりにカジュアルで、あっけらかんとしたその言いっぷりに、僕は「みんなすごいなあ、お金持ちなんだなあ」と常々感心していた。
実際のところ、カメラを趣味とする人たちはお金持ちか、あるいは非お金持ちであってもカメラへの出費は惜しまない特異な層が一定数いる。そうした「特殊な人たち」の特殊な発言なのだろうと、僕は勝手に思い込んでいたのだ。
しかし今回、マップカメラなどで取り扱われているカメラとレンズの中古価格を調べ、AIの助言を受け止める過程で、僕は思い知ることになった。
「なるほど、カメラという世界は、中古売買がインフラとして活発に機能しており、当たり前のように利用されているのだな」という厳然たる事実を。
中古品が新品価格の半値以下なら話はわかる。だが、市場では「美品」という条件付きならば、新品の7掛け、下手をすれば8掛け程度の強気な価格で中古品が流通している。
新品大好き人間の僕からすれば、「7掛け程度しか安くならないなら中古なんて買わないよ、無理してでも新品を選ぶよ」と思ってしまうのだが、世の中には「完動品であれば安いに越したことはない」と考える層が一定数以上確実に存在し、その太い需要がマーケットを動かしているっぽかった。
ここで大事になってくるのが、先述した「美品」というキーワードだ。
もちろん、マップカメラの「ワンプライス買取」のように、条件さえ満たせば傷があっても一律の均一価格で買い取ってくれるお店もある。しかし、中古品買取である以上、当然ながら外観の美醜は最終的な市場価値に影響を与える。
つまり、この仕組みに身を委ねるならば、「ガシガシ使うカメラとはいえ、将来的に中古で売ることを意識して丁寧に扱え」という行動変容が求められるわけだ。

僕がこれまでのX-T20でやっていたように、ボロボロになるまで使い込み、あちこちに擦り傷を作ることを許容しているようじゃ、資産としての中古価格は容赦なく下落する。
僕はこれまで、カメラを「壊れるまで使い倒す消耗品」と定義して今に至っていたけれど、中古で回していくならばその前提を根本から変える必要があった。いや、僕のX-T20に関しては今更もう遅いけれど。
画面の向こうで、AIは淡々と語る。
「カメラ本体は電子部品の塊として消耗品に近い性質を持ちますが、光学系であるレンズは資産として長く利用することができます。また、撮影シチュエーションに応じて『何本もレンズが欲しい』という強いニーズが常に存在するため、中古での売買が巨大なビジネスとして成り立つ構成になっています」と。
なるほどねえ、確かにその通りだ。
そう言われてみれば、僕自身「カメラ本体は自分の所有物」という感覚が強いが、「レンズはどちらかというと必要に応じて脱着するアドオンツール」という感覚がある。レンズであれば、中古で買うという選択肢も心理的にすんなり受け入れられる気がした。
よくよく考えてみればの話だが、これまで僕の人生において「カメラ機材を中古で売買する」という発想そのものが全くなかったため、この視点のスライドは新鮮だった。
こうしてAIとカメラの中古市場、および新品の購入価格について夜な夜な検証を重ねていたときのこと。では、実際に購入するとなれば、どのお店で買うのが最適解なのかという疑問が湧いた。
マップカメラ以外にも、お馴染みのヨドバシカメラやビックカメラ、あるいはメーカー直販のソニーストアで買う選択肢だってあるはずだ。
そうAIに問いかけると、デジタル軍師は「マップカメラは有償の3年保証が極めて優れているため、マップカメラ一択です」と断言してきた。
本当はソニーストアのワイド保証のほうが総合的に優れているらしいのだが、あちらはメーカー直売ゆえに販売価格そのものが高く、割高分のデメリットを保証の質だけでは補いきれない、という極めてシビアな計算結果を提示してきた。
AIというのは、こういう「どっちもどっち、一長一短で悩ましい」という面倒な状態を、前提条件を仮定してシミュレーションさせる作業にとても適している。いちいち自分でエクセルを叩いたり、シチュエーションを想像したりする手間が省けて実に気楽だ。
で、そんなAI激推しのマップカメラの長期保証(MAPあんしんサービス)だが、メーカー保証の1年にくわえて、さらに2年の延長保証ができるという仕組みだった。
当然ながら有償となり、掛け金は商品価格の5%。うーん、もともとの本体やレンズの価格設定が天を突くほど高いので、その5%というのは家計にとって結構なインパクトの金額になる。
https://www.mapcamera.com/html/anshin/extendedwarranty.html
僕はこれまで、あらゆる家電製品に対して「追加保証の類いは一切つけない」というノーガード戦法を貫いてきた。
どうせ保証を適用させる段階になって、規約の裏の細かな免責条項を突きつけられ、「この事象は保証対象外です」などと言われてイヤな思いをする確率が高いと信じ込んでいるからだ。だから今回、5%の身銭を切って保証を付けよというAIの提案に対し、当初の僕は「えー?」とかなり否定的な見解を示した。
しかし、なぜAIがここまで頑なにこの保証を推してくるのかといえば、その規約内容が僕の常識を超えていたからだった。
この長期保証は、通常の自然故障だけでなく、なんと「落下・火災・水濡れ・風雷災」による破損も一括して保証対象に含まれているというのだ。
えっ、自分でうっかり落っことしても、山の暴風雨で水に濡らして壊しても、無償で直してくれるの? 最強じゃないか、それ。
過去、僕が過酷な山行のなかで、何度となくカメラを岩にぶつけ、雨水で濡らして不具合をおこしてきたことか。さすがに火災や雷の直撃に遭った経験はないが、登山に携行するカメラとして、この物損カバー型の保証は本当に心強い。すごいじゃないか、マップカメラ。
頭のなかで点と点がつながり、僕はAIに尋ねた。
「じゃあつまり、こういうことか。カメラを買って3年目に、たまたま『ついうっかり』壊してしまい、この保証を使ってピカピカに直してもらう。そうして新品同様になった完動品を中古市場へ売却し、それを頭金にして次の新しいカメラに買い替える。これが最も賢い、理想のローテーションパターンなのか」と。
対するAIの返答はこうだった。
「ユーザー様に対し『わざと壊せ』とは決して申し上げられませんが、3年も酷使すれば、カメラの各部に微調整や微修正の余地(シャッター耐久の摩耗や各部センサーのズレ)が出てくるのは事実です。『写りが悪くなった気がする』『シャッターの反応が鈍い』など、気がついた点を理由に保証期間内に修理へ持ち込めば、精密機器ですからどこかしらに問題が見つかるものです。それをメーカーの手で完璧に直してもらった状態で中古市場へ流すというのは、戦略として極めて合理的であり、大いにありです」
なるほど。車を愛用する人たちが、3年ないし5年の車検のタイミングでマイカーを中古に出し、その売却益を頭金にして新しい新車へ乗り換えていくスタイルがあるけれど、これとほぼ同じロジックがカメラの世界でも成立しているわけだ。
そうなってくると、「カメラが完全にヨレヨレのジャンク品になるまで使い倒してから、重い腰を上げて新機種を探す」という僕のこれまでのスタイルよりも、3年程度のスパンで常に保証の恩恵を受けながら、新しい機種へどんどん乗り換えていった方がトータルで賢いのかもしれない。
AIも「人気商品の3年落ちであれば、市場にはまだ潤沢なリセールバリューが残っています。価格が下がる前に新しい機種に乗り換えるのは、良い作戦です」と僕の背中を押してくる。
えー。でもさあ、なんかそれってサステナブルじゃないというか、最初から「売却すること」を前提にして新品のカメラを使い始めるのって、心理的にあまり気持ちが良いものではない。
とはいえ、家計の損失を最小限に抑えるためには、そういうドライな視点も意識の片隅に置いておいたほうが良いのだろう。
なお、僕が真っ先に思いついた「保証が切れる3年目の直前に、わざと派手にぶっ壊して、保証で新品交換にしてもらおう」という小賢しいずる賢いやり方は、世の中そうは問屋が卸さないように最初から設計されていた。
3年間、常に保証限度額が100%維持されるわけではなく、年数の経過とともに補償上限額は段階的に減価していく仕様なのだ。
落下などの物損の場合、「全損修理保証限度額」は1年目が80%だが、2年目は60%、そして僕が目論んだ3年目には40%にまで低下する。
つまり、30万円のカメラを3年目に派手に全損させ、新品同様にしようと企んだところで、12万円相当しか補償してもらえない計算になる。なるほど、悪意ある破壊工作を仕掛けたところで、全く割に合わない仕組みになっているわけだ。そりゃそうだ。
それに、いくらリセールバリューが優秀だと言ったところで、3年おきに数十万円の新製品に買い替えていたら、累積の出費はやっぱり馬鹿にならない。
昨今の一眼カメラの世界は、世界的なインフレの波に乗って値上がりを続ける一方で、ガジェット製品のように「時間が経てばこれまでよりも安くてさらに高機能なものが手に入るよ!」という、消費者にとって嬉しい値下がり現象がほぼ期待できない市場だからだ。
果たして、この「数年おきにカメラを買い替える輪廻」のスキームに、自分のような一般的な会社員が本当に乗っかるべきなのかどうかは、非常に悩ましい。こ
あと、この物欲の輪廻をこれから自分の人生であと何回繰り返すのか、というのも思案のしどころだ。
たとえば今回、ソニーの本体とレンズを揃えるために40万円の予算が必要になったとしよう。数字上、確かに僕の口座からは40万円という巨額のキャッシュが一時的に出ていくことになる。
しかし、手元にある富士フイルムの旧機材の下取りによって、いくばくかの補填(キャッシュイン)が効く。そして、これが何年後になるかはわからないけれど、僕がもう「カメラ趣味は完全に卒業だ、すべての機材を売り払おう」と決断して一式を売却したときの下取り価格、これが入金されて初めて、今回の買い替え劇の「実際の損得勘定」が確定することになる。
今は40万円の支払いだが、未来の売却益まで内包して計算すれば、実質的なコストは20万円かもしれないし、あるいは10万円で済んでいるのかもしれない。
こういう、将来の不確定要素を孕んだ計算のややこしさが、人間の正常な判断力をじわじわと鈍らせる。
というか、思考が鈍った結果、高額なカメラを買うことに対しての心理的抵抗感が、綺麗さっぱり失われてくる。
「とりあえず、今支払えるキャッシュが手元にありさえすれば問題ないんだろ? あとでお金は取り返せるんだろ?」と。
冷静に考えればそんな虫のいい甘い話があるわけないんだけれど、深夜の脳内電卓は完全に狂った。
(つづく)

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