たわらや

『名物たわらやうどん』
(京都府京都市上京区御前通今小路下ル馬食町)

たわらや外観

美貌の盛り、を標榜する際、どうしても「量の多さ」などが基準になりがちだ。うずたかく積まれた麺もしくは具。それは見る者を圧倒し、感嘆させる非常に分かりやすい景色だ。

しかし、茶の湯が華美な世界から侘び寂びの世界に移行したように、私も絢爛豪華な見た目に心があまり動かなくなってきている。年相応だ。それと同時に、露骨に量が多いものをまるで電飾のように感じるようになり、マスコミやブロガーを集めるメディアホイホイという印象を持つに至っている。その手には乗るか、と、必要もない情熱をもってそちら方面から背を向けているのはこのためだ。

今回は、「シンプルで地味な美貌」を求めて京都の地に降り立った。

京都は北野天満宮の前にあるうどん店「たわらや」。ここが、俗に「一本うどん」と呼ばれるうどんを提供するお店だ。美貌の盛りで紹介するまでもなく有名なお店と料理だが、私は未探訪だったので今回ようやくその機会を得た。

一本うどんとは、その名の通り丼の中にうどんが一本しか入っていないというもので、器の中で麺がとぐろを巻いているという。また、麺はこれ以上ないというくらいの極太であり、その武骨な風体は注文した人を静かに、しかしじわじわと圧倒するという。

もっとも、1本では食べにくいという意見が多かったらしく、今では2本になっているのが残念なところだ。「黙って食べなはれ、いやなら食べんでよろし」くらいお客を突っぱねても良かったと思うのだが。

京都以外の人が北野天満宮へ行くにはやや面倒だ。京都駅から金閣寺方面に向かうバスに乗るのが確実だが、私は山陰本線円町駅から20分ほど歩いて現地へと向かった。時間はかかるが、途中京都の飾らない街並みを楽しむことができて、これはこれで楽しい。何の変哲もない道路に面して七味唐辛子店がひょっこりと姿を現したりする。

お店へは開店時間である11時ちょっと過ぎに到着した。極太の麺故、数量に限りがある。繁忙時に訪れる際には予約した方が無難、とさえ言われる麺だ。また、ゆでるのに時間がかかるため、早めの到着が望ましい。

名物たらわやうどん

開店早々だというのに、既に2組の先客がおり、その全員が「名物たわらやうどん」を注文していたのが印象的だ。また、私の後に3組の来店があったが、1名を除き全員がたわらやうどんだった。恐らく、「北野天満宮に立ち寄ったついでにうどん店で食事」なのではなく、「たわらやうどんを食べに、たわらやに来店」した人たちなのだろう。

なお、このお店だが、普通のうどん店のように一般的なうどん類、丼物がある。普通のうどん類は標準的な麺の太さであり、「名物たわらやうどん」に限り極太になる。数量限定なのは、他の麺類メニューに転用が効かないからだ。

注文したたわらやうどんは、数分もすれば到着だ。本来、極太麺である以上最低10分はゆでないと生ゆでになるはずだが、厨房ではどのような細工をしているのだろう。

「生姜を入れてお召し上がりください」という店員さんの指導が面白い。うどんに生姜を入れるというのは、ざるうどんではあり得るが、かけうどんではあまり見かけないと思うが、どうか。

名物たわらやうどん2

名物たわらやうどん、700円。

丼の中に、何か生き物のようになまめかしいうどんが、躍動感を伴ってうねっている。つゆは当然関西風であり、関東のどす黒さはない。それがあって、太麺故の下品さは感じさせないのがよい。

具や薬味は一切丼の中のキャンバスには描かれていない。簡素に、薄茶色のつゆと、白い麺、それだけだ。このシンプルさが潔くて爽やかである。どうしても、人情として青物を上に散らしたくなるが、それをやった瞬間に雑多な料理になってしまっていただろう。

うどんは相当重たい

極太のうどんを持ち上げてみる。

重さを実感する。重さの、美味さ。ずっしりと箸から伝わってくる負担感が、食欲をそそられる。

私は麦酒が好きだが、重い大ジョッキを手にした際に感じる「美味さの予感」、というのがある。これからこの重いものを空にするのだ、という高揚感。それと同じ世界観が、このたわらやうどんにはある。

うどんを食べる際には、食べ始める場所というのを見極める必要がある。普通、うどんをすする際は、とりあえず箸でつまみ、そのまま口に運ぶはずだ。しかし、このうどんの場合、あまりに太すぎるためにその行為は危険を伴う。麺の途中からかみついた場合、食いちぎられた麺の先は下に落ちる。その際、ぼちゃんとつゆに落下するのだった。歯を立てても麺が落ちないよう、箸でしっかり固定するか、それとも麺の端から食べ進むか、知恵と技術が必要となる。

うどん断面図

後半、添えられていた生姜をつゆに溶かし入れて食べると、これがとてもいい感じである。生姜は、単純な料理をぐっと魅力的にしてくれる薬味だった。出汁は鰹の風味を薫り高く感じるものの、関東風にありがちな醤油辛さがないので、非常にあっさりとした印象。そこに生姜が入ると、風邪気味の時にぜひ飲みたい、体が温まる飲み物となる。生姜は最初から入れるのではなく、途中で投入することで味の変化を楽しみたいところだ。

丼は小降りであり、極太麺ながらも量は大したことがない。女性でも一人で食べる事が可能だ。まず見た目の段階で、拍子抜けする来店者が多いことだろう。写真とうわさだけで期待感を膨らませるのは危険だ。

また、肝心のうどんそのものも取り立てて味の特徴はない。極太である、というだけだ。小麦の風味が強いわけでもなく、讃岐うどんのようなコシや、田舎で見かけるゴワゴワした食感の野趣あるうどんでもない。恐らく、うまいつゆにあう麺、という従属的位置づけだったのが、いつの間にか麺が一人歩きして主役になってしまったのだろう。

このうどんは美貌である。しかし、微妙なところで美貌になっている一品であり、何かのバランスが崩れたら単なる太いうどん、になってしまう危うさもある。それがまた、いいのかもしれない。

なお、このお店の麺類で一番安いのがこの「名物たわらやうどん」となるので、ふとこのお店に入る機会があったら「一番安い」という理由だけで頼んでみるのも良いだろう。名物だからといって割高にしないあたり、このお店の良心を感じる。

(2009.05.02)




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