いしの妊娠がわかったのは2020年夏。ちょうど新型コロナウイルスが流行って世の中がピリピリしていた頃だった。
僕は慎重な性格なので、この時点でコロナの流行がスコンと収束したり薬やワクチンで鎮圧できるものじゃなく長引くだろう、と考えた。だから、子供が産まれても、なかなか実家に弊息子を連れていけないだろう、ということもすぐに想定に組み込んだ。
コロナが落ち着いた頃には高齢の両親が死亡しているかもしれないし、子供が大きくなっているかもしれない。
産まれてから小学校に入る頃までの子供は、日進月歩で成長していく。その成長過程を共有してこそ、祖父母は孫に愛着が湧くはずだ。盆暮れにしか会えないんじゃ、「あらー、大きくなったわねえ」程度しか可愛がってもらえないのではないか?と思うし、ましてやその盆暮れの帰省すらコロナ時代じゃ危うい。
そこで用意したのが、Amazonの画面付きスマートスピーカー、「Echo Show8」だった。
Echo Showを導入したのは、2つの意味がある。
・テレビ電話ができる。
・クラウド連動型のフォトフレームとしても使えて、常に子供の最新の写真を見せることができる。
僕の両親は二人の孫に恵まれ、あとはもう終活モードだ、という雰囲気だった。そんな中、僕が結婚することは寿命が縮むくらいの驚きだっただろうし、ましてや子供ができる、というのはひょうたんからコマだった。新しく孫ができる、というのは全く実感がないことだろう。
そもそも伝統的に、おかでん家は孫に対してベタベタしない塩対応だ。僕の兄貴のところの娘二人に対してもそうだった。それを傍から見ていた僕は、両親に
「孫って、目に入れても痛くないものじゃないの?」
と聞いてみたことがあるが、二人は即座に
「そんなことはない、自分たちの生活スタイルは孫がいても変えない」
と答えたものだ。それが強く印象に残っている。
だからこそ、いずれ産まれるであろう我が子とはテレビ電話で頻繁に近況報告をし、愛着を持ってもらおうと思った。別に寵愛を受けて生前贈与をしてもらおうだとか、ヤラシイことを考えているわけじゃない。盆暮れしか顔を合わせないというこれまでのスタイルは、DXできるはずだと考えたからだ。
デジタルフォトフレームの機能もとても大事なことだ。Echo Showは、Amazon Prime会員向けの無料ストレージ「Amazon Photo」と連動し、写真を表示させることができる。このAmazon Photoの写真を常に最新の孫写真に置き換えていけば、実家の両親はきっと楽しめるだろう。
はるか昔、兄貴に子供ができたとき、兄貴は当時流行っていたデジタルフォトフレームを実家に贈呈した。兄貴なりに、自分の娘を両親に愛でて欲しかったのだろう。しかし、数ヶ月でこのフォトフレームは使われなくなった。両親いわく、
「一日中写真が映り続けて、うっとおしい」
とのことだった。
孫の写真とはいえ、ずっと写り続けるのは邪魔だ。しかも、バックライトでこうこうと光る液晶画面ならなおさらだ。印画紙にプリントした写真よりも目につく。
そして、映る写真のレパートリーがずっと同じ、というのも飽きる原因となった。なにせデジタルフォトフレームはSDカードでデータを読み取るスタイルだ。SDカードを交換できるのは、帰省するタイミングしかない。つまり、半年近く同じ写真がローテーションされることになる。これじゃ、子供の写真を見てニヤニヤできるのはせいぜい数日が限界だ。
一方、Amazon Photoのようなクラウドストレージの写真と連動している場合、クラウドの写真をどんどん追加して入れ替えていけばいい。これはこれまでのデジタルフォトフレームとは似て非なる、新しい概念だ。
現在、僕はAmazon Photoに「前日と、前々日」の弊息子の写真を掲載している。3日以上前の写真は表示させないようにしている。これによって、遠隔地である実家側のEcho Showは常に直近のタケ写真を見ることができる。飽きることがないし、成長の過程をほぼリアルタイムで見ることができる。
コロナの感染が一段落し、巷じゃGoToトラベルだのGoToイートだの官製経済喚起策が行われていた2020年11月、間隙を突いて実家に帰省した。対面で両親に妊娠の報告をするとともに、Echo Showの設置を行った。
Echo Showを東京でセットアップし、郵送で送りつけて「これを使ってね」と言うこともできる。しかし、後期高齢者に近い両親ともなると、そういうデジタル系の面倒な話というのは生理的に忌避する。ましてや、「テレビ電話ができるんだ」という新しい概念は、「プライバシーが侵害されるのではないか」という懸念を抱かれる。なので、丁寧に説明し、これがいかに素晴らしいものなのか納得してもらう必要がある。
「スマホのLINEで通話すればいいじゃないか」
って言われそうだ。僕も最初はそう思った。でも、LINEの通話でさえ「使い方がよくわからない」と嫌がられている現状。やっぱり、据え置き型のデバイスの方がいい。スマホというのは、高齢者にとってはブラックボックスすぎる。あれこれ新しいことをやってもらうのは難しい。
いや、Echo Showだってスマホと大差ないものだ。でも、机に据え置きにするというだけで全然抵抗感が変わってくるだろう。
幸い実家にはインターネット回線が敷設されていたし、帰省時しか使われていないけど無線LANルータもあった。インフラは揃っていたので、あとはちゃちゃちゃっと僕が現地でセットアップして完了した。
これがネット回線ありません、無線LANルータありませんとなるとEcho Showの導入は面倒だ。僕の実家はスムーズにEcho Showが導入されたが、いしの実家はネットがないため、LINEによるテレビ通話が実現したのは1年後のことだった。僕らの親世代となると、「ガラケーを断念させ、スマホに切り替えてもらう」というハードルが最初にある。そのあと、そのスマホをセットアップするというのも大変だ。遠隔であれこれ操作を指示するのは、ほぼ無理に等しいからだ。
このあたりのことを妊娠中期にはバキバキと手配したのは、随分前から「遠隔地同士のコミュニケーション」についてあれこれ考えていたからだ。
そもそもいしはコロナがなければアフリカに赴任する予定だった。その赴任期間中の連絡手段として、どうやって動画コミュニケーションを取ろうか?と考え続けていた。なにせ目的地がアフリカの中でもかなりマイナーな場所だったので、通信環境が怪しい。さすがにアフリカでも今や携帯電話は当たり前の存在となっている。しかし、その携帯で動画のやりとりとなるとさすがに厳しい。できるだけ低帯域で安く通信できないか?といろいろなプラットフォームを検討していた。zoomとかskypeとか。サービスによって動画帯域がずいぶん違うし、安定性が異なるのであれこれ検証していたものだ。
当時は、「アフリカと日本を常時動画接続する」という野望を抱いていた。会話をするときだけ接続じゃない。部屋に誰もいない時間も、部屋にいてもテレビを見ていたり別のことをやっていたとしても、繋ぎっぱなし。むしろ会話なんてのはあまりしなくてもいい。側にいる、という空気感が欲しかった。
この考えを人に言うと、「監視社会みたい」「キモい」という反応をする人がいたけど、監視が目的じゃない。このあたりの理解度は人によって大きく幅があるようだ。
実家ともEcho Showを常時接続しても構わないくらいだった。遠隔地で祖父母が孫の面倒を見る、というのはいいアイディアだと思ったからだ。でもさすがに実家はそれに反対して実現しなかった。まあ、これが戦中生まれの人の思考だ。当然だろう。
そんなわけで、子供が生まれて以降、ほぼ毎日実家とはタケの近況報告のためEcho Showで繋いでいる。実家は大喜びだ。使ってみて、「なるほどこういうことか」とようやく腑に落ちた様子だ。こういうのは実戦投入しないことには、理解は難しいだろう。
僕としては、タケの子育てに対して実家も当事者・・・とまではいかなくても、共事者として関わってもらえれば嬉しかったが、それは果たされた。今では、毎日のちょっとした体調の変化さえも気にかけてくれる。盆暮れ帰省オンリーだと、こうはいかない。
写真は、実家とのやりとりのあと、そのまま寝てしまったタケ。
Echo Showはふだんキッチンのカウンター上に置いてある。しかし最近はタケがハイハイやつかまり立ち、伝い歩きとダイナミックに動くようになったので、それをお見せするために実家との通信のときだけ、リビングの床に置いている。
タケはハイハイで猛突進して床のEcho Showを触ろうとし、タッチパネルを押して通話を切ってしまいそうになる。なので慌てて僕は後ろから足を引きずって後ろに連れ戻す、そんなことを繰り返している。引きずり戻されている最中のタケは、「新しい遊びだ!」と思っているらしく、大喜び。
【備考】
Echo Show8は仰角に画面が向いているため、座高が低い子供を写すのは難しい。別売りの「角度調整スタンド」を購入するのがおすすめ。
でも、このスタンドを使っても画面を水平にすることはできないため、やっぱり子供を映すのは難しい。カメラと画面が若干上をむいた状態、というのは直せないので、そのままの状態で子供を映そうとすると、子供がEcho Showに接近した状態となる。抱っこしているなら良いのだけど、ある程度子供を自由にさせていると手がにょきっと伸びてEcho Showを触ってしまう。
我が家では、Echo Showにスタンドをつけ、さらにそのスタンドの後ろ側にスマホをかまし、ようやく水平位置を作っている。導入の際にはご注意。
(2022.01.13)
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